6/16/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
愛知大学法科大学院2024年 刑法
1. 業務上横領罪について
⑴乙が本件USBメモリをA社金庫から持ち出した行為について、甲及び乙に業務上横領罪の共同正犯(253条、60条)が成立するか。
⑵甲は実行行為を行っていないものの、結果発生に至る因果を惹起することは背後者であっても可能であるから、共同正犯を肯定してよい。そこで、①共謀、②正犯意思、③①に基づく実行行為、が認められる場合、共同正犯が成立すると解する。
ア ①について
甲が乙に対して、A社金庫内にあるUSBメモリを廃棄しようと申し入れたところ、乙はそれを了承しているため、特定の犯罪実行についての合意があるといえ、共謀が認められる。
イ ②について
甲は自身が解雇された恨みから、本件USBを廃棄してA社を混乱させようと画策しており、自身の利益のために犯罪を実行しようとする意思が認められる。また、本件犯罪を働き掛けたのは甲の側からであり、犯罪遂行において主導的な立場であったといえる。したがって、正犯意思が認められる。
ウ ③について
(ア)乙はA社の課長であり、本件USBメモリを金庫で保管する業務を社会生活上反復継続して行っている者であるため、「業務上⋯占有」しているといえる。
(イ)「占有」とは濫用のおそれのある支配力を指す。乙は本件USBメモリを金庫で事実上占有しており、濫用のおそれのある支配力が認められるため、「占有」しているといえる。
(ウ)本件USBは寄託者であるA社の所有物であり、実行行為者である乙からすると「他人の物」にあたる。
(エ)乙の上記行為は、真の権利者であるA社でなければできない処分を権限なく行うものであり、不法領得の意思の発現が認められる一切の行為といえるため、「横領」にあたる。
(オ)したがって、共謀に基づく実行行為が認められる。
⑶ここで、甲は占有者・業務者という身分を持たない者であるところ、かかる場合においても共同正犯が成立するか。
ア 65条の文言から、同条1項は真正身分犯の成立及び科刑を、2項は不真正身分犯の成立及び科刑を規定した者であると解する。
イ 本件で、占有者という身分はそれにより犯罪の成否が基礎づけられる真正身分であり、業務者という身分はそれにより刑の軽重が基礎づけられる不真正身分である。そのため、前者については1項が、後者については2項がそれぞれ適用される。
ウ したがって、甲には横領罪(252条1項)の共同正犯が成立する。
⑷よって、甲には横領罪の共同正犯、乙には業務上横領罪が成立し横領罪の範囲で共同正犯となる。
2 偽計業務妨害罪について
⑴上記行為について、甲及び乙に偽計業務妨害罪(233条後段、60条)の共同正犯が成立するか。
⑵共謀及び正犯意思については上記の通り認められるところ、共謀に基づく実行行為が認められるか。
ア 「偽計」とは、相手方の不知、錯誤等を利用することをいう。本件USBメモリをA社金庫から持ち出すことは、A社の不知を利用するものであり、「偽計」にあたる。
イ 本件USBメモリを持ち出すことでA社が混乱し、その業務が妨害される抽象的な危険がおそれが存するため、「その業務を妨害した」といえる。
ウ したがって、共謀に基づく実行行為が認められる。
⑶よって、甲及び乙に偽計業務妨害罪の共同正犯が成立する。
3 罪数
以上の通り、甲には横領罪の共同正犯及び偽計業務妨害罪の共同正犯、乙には業務上横領罪(横領罪の範囲で共同正犯)及び偽計業務妨害罪の共同正犯が成立し、これらはそれぞれ社会通念上一個の行為であるため、観念的競合(54条1項前段)となる。
以上