2/4/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
同志社大学法科大学院2024年 民法
第1問
1. Cは、Dに対し、保証債務の履行を請求している。Cの請求が認められるためには、保証契約が成立していることが必要である。
⑴ 「保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない」(民法446条2項。以下、当該法令名は省略する。)ところ、その趣旨は、保証を慎重ならしめるために、保証意思が外部的にも明らかになっている場合に限って契約としての拘束力を認めるという点にある。この趣旨からすると、保証契約書に保証人の記名・押印がある場合には、保証人が契約内容を了知して保証意思を表示したことが外部的にも明らかになっているため、書面性の要件を満たすと解する。
⑵ これをみるに、Aは、Dの了解をすでに得ていると応じ、Bは、本件保証契約1についてDの代理人であるAと締結したこと、その締結に先立って保証意思の確認を直接DにしたところAの事業を応援している旨の返答を得たとの説明をした。これを受けて、Cは、連帯保証人欄を空白にした保証契約書を作成し、これをAに交付したところ、Aは、連帯保証人欄にDの氏名が記入され、Dの印鑑が押されたものをCに渡している。これらの事情からすると、Dの保証意思が保証契約書に示されているといえる。したがって、
⑶ よって、保証契約の成立は認められる。
2. もっとも、Dが保証債務を負うのは、AとCとの間で締結された本件保証契約2の効果がDに帰属する場合である。そこで、Aの行為が代理行為の要件を満たしているかが問題となる。
⑴ 有権代理の要件は、①代理人と相手方との間の法律行為、②顕名、③先立つ代理権の授与である。
これをみるに、AとCとの間で、本件保証契約2の締結という法律行為がなされたことは認められる(①)。
⑵ もっとも、本件契約書は、連帯保証人欄にCの氏名が記入されCの印鑑が押されており、代理人であるAの表示がない署名代理に当たる。そこで、このような署名代理の場合に懸命の要件を満たすかが問題となる。
民法99条1項は、代理人が「本人のためにすることを示して」行為することを要すると規定しているところ、署名代理の場合には、そもそも本人以外の者によって法律行為がなされたことそれ自体が示されておらず、代理であることが示されていないともいいうる。しかし、顕名が求められる趣旨は、法律行為の効果帰属先を当事者間で明確にする点にある。そうだとすると、代理人が代理意思を有し、この表示と認められる場合には、顕名の要件を満たすと考えられる。
AはCの代理人であることを明示していないが、AはDの了解をすでに得ていると説明していることから、AはDに効果帰属させることを意図していたと認められ、代理意思を有していたといえる。そして、連帯保証人欄にDの氏名が記入されDの印鑑が押された本件契約書を持ってCを再訪したことから、CもDに効果を帰属させることを意図していたといえ、代理意思の表示も認められる。
したがって、顕名も認められる(②)。
⑶ もっとも、Aは、本件保証契約1についてはDから代理権を授与されたものの、本件保証契約2についてはDから代理権を授与されていない。また、Dによる追認がされた事実もない。したがって、先立つ代理権の授与は認められない(③の否定)。
3. では、表見代理が成立するか。
⑴ 「正当な理由」(110条)とは善意・無過失をいうと解することから、表見代理が成立するためには、109条、110条、112条のいずれにも共通して、相手方が代理人として行為をする者の当該行為の代理権につき善意・無過失であることが必要である。そして、相手方の無過失については、諸般の事情を総合考慮して判断すべきである。
⑵ これをみるに確かに、契約書にDの実印が押されていること、Cから見れば契約締結に至るまでAの対応が澱みなくされていること、Cからすれば信用に値すると思われるBが取引過程に介在し、正常な代理であることを裏付ける発言をしていることは、Cの無過失を基礎付けるといえる。しかし、CにとってDとの初めての取引のようであること、保証は保証人となる本人が負担を一方的に負うことになる契約であること、保証の金額が1000万円と小さくないこと、主債務は代理人として行為をするAの債務であり、代理権を有する者が契約を締結する場合であっても本人の事前の許諾がなければ本人に効果が帰属しない場合であること(108条2項参照)、Bは本件保証契約1について直接Dに保証意思を確認しており、Cにとっても直接Dに保証意思を確認することが不可能であるとはいえないことからすれば、少なくとも、CはDに保証意思を何らかの形で直接確認すべきであったといえる。それにもかかわらず、Cはこれをしなかったのであるから、過失が認められる。
したがって、表見代理は109条、110条、112条のいずれについても成立しない。
4. よって、CのDに対する請求は認められない。
第2問
問(1)
1. Bは、Aに対し、賃貸物の修繕請求(606条1項)をすることが考えられる。
「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」ところ、賃貸物である甲土地の一部が陥没しており、来客用駐車場としての利用に支障をきたしている。また、陥没の原因が示されていないため、賃借人の帰責事由を認めることをできず、「賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となった」(606条1項ただし書)ともいえない、したがって、賃貸人は陥没について修繕する義務を負う。
2. ではAは賃貸人に当たるか。
2020年4月30日にBとAが契約を締結した時点では、Aが賃貸人であることは明らかである。しかし、Bは、建物所有目的で賃借した甲土地の上に乙建物を所有し、かつ、乙建物につき自己名義の所有権登記を得ているから、甲土地についての賃借権を第三者に対抗することができる(借地借家法2条1号、10条1項)。この場合において、甲土地が譲とされたときは賃貸人の地位は譲受人に移転する(605条の2第1項)。
また、2021年3月15日にAC間で甲土地をAがCに売却する契約が締結され、これをもってCがAから甲土地を取得したから(民法555条・176条)、この限りでは、この時以後、Bに対する賃貸人はCとなる。したがって、BのAに対する甲土地の修繕請求がされたのは同月23日時点でAは賃貸人ではないため、AはBの請求に応じる必要はないことになる。
しかし、賃貸借の目的不動産の譲渡による賃貸人の地位の移転は、その譲渡による所有権移転の登記をしなければ賃借人に対抗することができない(605条の2第3項)ところ、甲土地につきAC間の売買を原因とするC名義の所有権移転登記がされたのは2021年4月9日であるから、Aは、Bから修繕請求を受けた時点では、賃貸人の地位のCへの移転をBに対抗することができない。
3. なお、信義則(1条2項)により、Cへの賃貸人の地位の移転を否定することができない場合もありうるところ、Bの修繕請求の7日前に、甲土地のAからCへの売却を知らせ、以後の賃料のCへの支払を依頼するファクスがAからBに送られたが、これに対するBの反応は不明であるから、Bは賃貸人のCへの交代を認めていたとして信義則によりCへの賃貸人の地位の移転を否定することができない、とまではいえない。
したがって、Aは「賃貸人」に当たる。
4. よって、BのAに対する請求は認められる。
問(2)
小問(ア)
1. 建物所有目的の土地賃借人が、その地上に所有する建物を第三者に譲渡したときは、特別の事情がない限り、土地賃借権もその第三者に譲渡されたものと解すべきである。なぜなら、建物の所有権は、その敷地の利用権を伴わなければ、その効力を全うすることができないものであるからである。
Dは、Bの個人会社ということができるものの、Bと別の権利主体である。したがって、B D間の売買契約によって、Bは乙建物をDに譲渡したことになる。また、これにより、BからDに乙建物の敷地である甲土地の賃借権も譲渡されたことになる。
2. 「賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡」すことができず(612条1項)、賃借人がこれに反して「第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる」(同条2項)ところ、BはDに甲土地の賃借権を譲渡しており、かつ、その後にDが乙建物を所有することで甲土地を使用していることになるから、Bが甲土地の賃借権の譲渡につき賃貸人Cの承諾を得ていなければ、Cは、甲土地の賃貸借契約を解除することができる。また、その解除がされた場合、Dは、Cが請求したならば、乙建物を取り壊さざるを得ないことになる。
3. したがって、Cが下線部①のように発言した理由は、BとDが上記のような結果を望んだはずはないこと、その結果を避けるためBはDに対しCから甲土地の賃借権の譲渡につき承諾を得る義務を負っていたことにある。
小問(イ)
1. Bは、乙建物をDに譲渡する前に甲土地の賃借権の譲渡につきCの承諾を得ていないから、612条2項が定める賃貸借契約の解除の要件は充たされている。
2. もっとも、賃貸借は当事者間の個人的信頼を基礎とする継続的法律関係であること、特に不動産賃貸借の場合には目的物が賃借人の生活や事業の基盤となるものであることから、賃借人に債務不履行があったとしても、民法の規定を形式的に適用して契約解除を認めることは妥当ではなく、当事者間の信頼関係が破壊された場合にのみ解除を認めるべきである。具体的には、賃借人が賃貸人の承諾なく第三者に目的物の使用収益をさせていた場合であっても、賃借人のその行為を賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があることを賃借人が根拠づけたときには、解除は認められないと解する。そして、背信行為と認めるにたりない特段の事情の存在の有無は、諸般の事情の総合考慮により判団する。
甲土地につき形式的にはBからDへの賃借権の譲渡があるものの、DはBがその事業を株式会社化したものにすぎず、株式会社化後も事業の実態は全く変わらない。このように、賃借人につき法主体の形式的変更はあるものの、実態に変更がないと認められる場合、賃貸人は、方主体の形式的変更によって損失を被るものでも、賃借人に対する人的信頼が損なわれるものでもないことから、背信行為と認めるにたりない特段の事情があるというべきである。
3. したがって、Cによる甲土地の賃貸借契約の解除の効力は認められない。
以上