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2023年 民事法系 岡山大学法科大学院【ロー入試参考答案】
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2023年 民事法系 岡山大学法科大学院【ロー入試参考答案】

2/29/2024

The Law School Times【ロー入試参考答案】

岡山大学法科大学院2023年 民事法系

第1 問題1(民法)

1. 問1

⑴ Aは、Dに対して、所有権に基づく返還請求権を根拠として、甲の明渡しを請求するものと考えられる。現在、Dが甲土地を直接占有していることは明らかであるため、甲土地をAが所有しているか否かが問題となる。

⑵ Aは、2022年8月1日、甲を所有していたことが認められるところ、同月8日に本件売買契約によりその所有権を喪失したものである。そこで、Aは、Cによる強迫(96条1項)を理由とする本件売買契約の取消しの意思表示(123条)をすることにより、本件売買契約が遡及的に無効である(121条)として、所有権の喪失障害を主張するものと考えられる。

ア Cは、連日A宅を訪れ、甲をBに売却するよう執拗に迫っているところ、Cの言動は、Aに身の危険を感じさせるものであったため、「強迫」にあたる。また、Aは、Cの言動から身の危険を感じたことを理由として、Bの申し入れを受け入れようと考えたものであるため、本件売買契約にかかるAの意思表示は、上記Cによる「強迫による」ものといえる。Cは、Bに甲を得させる目的のもとAに対して強迫行為を行ったことから、故意も認められる。
 そうすると、Aは、本件売買契約を取り消すことができる。

イ なお、強迫は、詐欺の場合と異なり、表意者に帰責性が皆無であることから、取消しの効果を第三者に対抗できることとされている(96条3項反対解釈)。

ウ したがって、Aによる甲の所有権喪失障害の主張は認められる。

⑶ また、Aは、Bの債務不履行を理由として本件売買契約の解除を主張し(541条)、本件売買契約が遡及的に失効するとして(545条参照)、所有権の喪失障害を主張することも考えられる。

ア 本件売買契約に基づきBはAに対し甲の代金1000万円を支払う「債務」を負っているところ、Aは自身の債務である甲土地引渡債務を履行済であるにもかかわらず、BはAに代金1000万円を期日までに支払っていないため、Bが「債務を履行しない場合」にあたる。Aから再三の催告があってもBはなお代金を支払わなかったことから、Aによる「履行の催告をし」たといえ、「相当の」「期間内に履行がないとき」にあたる。そして、上記債務不履行は「債権者」A「の責めに帰すべき事由によるもの」(543条)ではない。
 そうすると、Aは解除の意思表示(540条1項)をすることにより、本件売買契約を解除することができる。

イ もっとも、解除権の行使は、「第三者」の権利を害することができない(545条1項ただし書)。
 解除の趣旨は、解除権者を双務契約の法的拘束から解放して契約締結前の状態を回復させる点にあるから、解除の効力は遡及的無効である。そこで、「第三者」とは、解除された契約から生じた法律関係を基礎として、解除までに新たな権利を取得した者をいう。また、「第三者」として保護されるためには、権利保護要件として登記が必要であると解する。
Dは、本件売買契約を基礎とする本件転売契約により、本件売買契約の解除前に新たに甲土地の所有権を取得した者であるから「第三者」にあたる。しかし、Dは、甲土地の所有権移転登記を受けていない。

ウ したがって、Dは「第三者」として保護される対象とはならず、Aによる甲の所有権喪失障害の主張は認められる。

⑷ よって、Aによる甲の所有も認められるため、Aの請求は認められる。

2. 問2
 Sが所有する金銭(100万円)を、Tがだまし取って、自らが債権者Uに対して負う100万円の金銭債務の弁済に充てたという事案について、当該騙取金についてSの所有権を認める考え方は、Uとしては、上記のようなTが騙取金を債務の弁済に充てたという事情を知らなかった場合、突然金銭を奪われることとなり、安心して金銭を受け取ることができなくなるため、金銭の流通性の高さ、動的安全の保護の要請の高さに反している。
 そこで、判例は、金銭の流通性・代替性の鑑み、金銭は価値そのものであり、占有者に所有権が認められることとし、受領者が騙取の事実につき悪意でない限り、騙取金は受領者の所有に属するとしている。

第2 問題2(民事訴訟法)

1. 問1
 当事者とは、その名において訴え又は訴えられ、判決の名宛人となる者をいうところ、訴訟において当事者らしく振る舞い、扱われた者が当事者であるとする立場がある。
 この立場によると、本件では、亡YとAは同居しており、訴状の送達はAに対する補充送達であり、第1回口頭弁論期日ではAが訴訟行為をしていたことから、Yが当事者となる。
 以上がXの主張の論拠であると考えることができる。

1.      問2
⑴ 後訴は、本件判決の既判力により本訴口頭弁論終結時におけるXの甲に対する所有権の存在が確定されることから、請求が棄却されるべきである。

⑵ 既判力とは確定判決の内容たる判断に生ずる後訴裁判所に対する拘束力をいい、前訴基準時に確定した権利関係の存否の判断と矛盾抵触する主張や判断を禁止する効力(消極的作用)を有する。
 そして、既判力は、確定判決の「主文に包含するもの」(114条1項)、すなわち、訴訟物の存否に生じるところ、本訴訴訟物はXの甲に対する所有権であり、本件判決は本訴にかかる請求を認容しているため、本件判決の既判力は本訴口頭弁論終結時におけるXの甲に対する所有権の存在に生じる。

⑶ では、かかる既判力がYの相続人であるAに及ぶか。
 既判力の主観的範囲について、既判力は「当事者」間にのみ生じるのが原則であるが(115条1項1号)、同項2号ないし4号該当事由が認められる場合には例外的に既判力が拡張される。
 本訴の当事者はXとYであるため、本件判決の既判力はXとYにのみ生じるのが原則である。もっとも、Aは、Yの唯一の相続人であり、本訴の口頭弁論終結後にYが死亡したことにより、Yの財産に属した一切の権利義務を承継している(民法896条本文)。そうすると、Aは、前訴訴訟物たる甲地の所有権それ自体をYから承継しているといえるから、Yの「口頭弁論終結後の承継人」(115条1項3号)にあたる。
 よって、本件判決の既判力は、Aに拡張されるため、後訴に及ぶ。
 したがって、甲地の所有権が自己に帰属するとのAの主張は本件判決に生じた既判力により遮断され、後訴にかかる請求は棄却される。

第3 問題3(商法)

1. 問1
 「著しく不公正な方法」(210条2号)とは、不当な目的を達成する手段として新株発行が利用される場合をいう。
 そして、新株発行が特定の持株比率を低下させ現経営者の支配権を維持することを主要な目的としてされたものであるときは、不当な目的を達成する手段として新株発行が利用される場合にあたるとして、「著しく不公正な方法」と認められる。

 2. 問2
⑴ (1)について

 代表取締役が①「自己又は第三者の利益を図る目的」で代表権の範囲内で会社を代表して取引行為を行った場合、当該行為は、②「相手方がその目的を知り、又は知ることができたとき」に限り、無権代理行為となる(民法107条)。
 本問では、Y社の代表取締役Aは、自己の借金返済に充てる意図で、Y社を代表してXから10万円の借入をなし、借金返済に充てている。この借入行為は、Aが「自己…の利益を図る目的」で代表権の範囲内でY社を代表して行った取引行為である(①充足)。もっとも、借入に際し、Aはその意図を秘匿し、Y社の運転資金が緊急に必要となったと告げており、Xは以前からたびたびこのような理由でAからの依頼に応えていたので、今回のAの意図に気づくことはできなかったものと認められる。そのため、Aは、Xの「目的を知り、又は知ることができたとき」とはいえない(②不充足)。
 したがって、上記借入行為は有効にY社に帰属し、Y社は同契約に基づく返済債務を負う。
 よって、期日にXから10万円の返済を求められたY社は、支払いに応じなければならない。

⑵ (2)について
 代表取締役の解職は取締役会の権限事項であるところ(362条2項3号)、取締役会決議について「特別の利害関係を有する取締役」は議決に加わることができない(369条2項)。そして、ここでいう「特別の利害関係を有する取締役」とは、当該決議について会社に対する忠実義務(355条)を誠実に履行することが定型的に困難と認められる個人的あるいは会社外の利害関係を有する取締役をいう。
 本件では、代表取締役Aは会社の経営支配に大きな権限と影響を有するところ、本人の意思に反してAを代表取締役の地位から排除することの当否が論ぜられる場合、当該代表取締役について、一切の私心を去って、会社に対して負担する忠実義務に従い公正に議決権を行使することは必ずしも期待しがたく、かえって、Aが自己個人の利益を図って行動することすらあり得る。そうすると、Aの代表取締役解職決議について、Aは会社に対する忠実義務を誠実に履行することが定型的に困難と認められる個人的利害関係を有するといえ、「特別の利害関係を有する取締役」にあたる。
 よって、Y社取締役会がAを代表取締役から解職する決議をしようとするとき、Aは、当該決議の議決に加わることができない。

 

以上

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