6/2/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
愛知大学法科大学院2024年 民法
設問1
1. XのYに対する所有権に基づく甲の返還請求(民法206条)は認められるか。
⑴同請求は甲につきX所有、Y占有である場合に認められるところ、AはYに甲を引き渡しているため、甲についてのY占有は認められる。次に甲についてのX所有につき、XはAY間の甲売買は他人物売買であるから物権的には無効でありX所有が認められると主張する。これに対し、Yは110条が適用され、Xは甲につき所有権を失っているとの抗弁が考えられるが認められるか。
⑵まず、代金3000万円の土地である甲の売買は、夫婦が共同生活を営むのに通常必要な法律行為とはいえず、「日常の家事」(761条)には含まれないため、有権代理とはならない。
⑶ここで、110条の適用により、Yは甲の所有権を取得しないか。
ア この点、110条の直接適用を認めることは、日常の家事を大きく逸脱する行為についても帰責する点で夫婦別産制(762条)を害する。そこで、「日常の家事」の範囲内であると信じたことにつき「正当な理由」がある場合、110条の類推適用が認められると解する。
イ 本件で、YはXの実印と甲の権利証のみをもって代理権を有することを信頼しており、「日常の家事」の範囲内であると信じたことにつき「正当な理由」は認められない。
ウ したがって、110条の類推適用は認められない。
2. 以上より、X所有も認められるため、Xの本件請求は認められる。
設問2
1. YはXに対し、所有権に基づく妨害排除請求として、甲の登記移転請求をすることが考えられるが認められるか。
⑴本件で、AY間の甲売買という他人物売買の他人物売主の地位をXがA死亡により相続した(896条本文)ことから、Xは甲の登記移転請求を拒絶できないのではないか。無権代理人を相続した本人による履行拒絶の可否が問題となる。
ア この点、本人が無権代理人を相続した場合、本人としての地位と無権代理人としての地位は併存すると解する。
そこで、権利者は相続により、無権代理人の地位を承継しても、信義則(1条2項)に反する特段の事情がない限り、買主の履行請求を拒むことができると考える。
イ 本件で、Yの登記移転請求を拒むことは信義則に反するとは言えない。
⑵よって、XはYの本件請求を拒むことができる。
2. AY間の甲土地の売買は、上述の通り履行不能に陥っているため、履行不能に基づく損害賠償請求(415条1項本文)をすることができ、かかる損害賠償債務もXはAから相続しているため、YはXに対し同請求をすることができる。
以上