11/30/2023
The Law School Times【ロー入試参考答案】
中央大学法科大学院2023年 憲法
設問
1. 第Q条について
⑴ 第Q条についてBが違憲として考えた理由として推測されるものとして、第Q条がP市区域内に3か月以上住所を有する外国籍の者に住民投票の投票権を認めていることが、住民自治(憲法(以下、略)93条1項、2項)及び国民主権(1条)の原則に反し違憲であるというものが考えられる。
⑵ では、かかるBの主張は認められるか。
ア まず、国民主権の原則が対象とする「国民」とは、1条が「主権の存する日本国民」と規定していることから日本国民すなわち、日本国籍を有する者をいうと考えられる。そして、地方公共団体は、我が国の統治機構の不可欠の要素を成すものであることから、地方公共団体の施策を決定する住民投票の対象とする「住民」とは、地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するものと解するのが相当である。
もっとも、憲法の地方自治に関する規定は、民主主義社会における地方自治の重要性に鑑み、住民の日常生活に密接な関連を有する公共的事務はその地方の住民の意思に基づきその区域の地方公共団体が処理するという政治形態を憲法上の制度として保障しようとする趣旨に出たものと解されるから、我が国に在留する外国人のうちでも永住者等であってその居住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められるものについて、その意思を日常生活に密接な関連を有する地方公共団体の公共的事務の処理に反映させるべく、それらの者に投票資格を認めることも憲法上禁止されているものではないと解するのが相当である。
イ これを本問についてみると、本件における住民投票は、原発再稼働の是非を問うものであり、原発の再稼働は周辺住民の健康等に大きくかかわってくる問題であるから日常生活に密接な関連を有する地方公共団体の公共的事務の処理といえる。もっとも、第Q条は、3か月以上P市区域内に住所を有する外国籍の者すべてに投票資格を認めているところ、3か月同市内に居住した程度ではP市と特段に緊密な関係を持つに至ったといえない。そのため、第Q条は、P市と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められない外国籍の者についても投票資格を認めるもので住民自治の原則に反する。また、原発の再稼働の可否というのは、国のエネルギー問題という日本国全体にかかわる政治的な問題であり、国民主権とも強いかかわりを有するから安易に外国籍の者に投票資格を認めるべきではない。
ウ 以上より、第Q条は、住民自治及び国民主権の原則に反し違憲である。よって、Bの主張が認められる。
2. 第R条について
⑴ 第R条についてBが違憲として考えた理由として推測されるものとして、第R条は、市長及び市議会の判断を住民投票によって拘束するものであり、代表民主制(93条1項、2項)に反し違憲であるというものが考えられる。
⑵ では、かかるBの主張は認められるか。
ア まず、国政レベルでは、41条が国会を唯一の立法機関としていることから、諮問的・助言的なものにとどまらず、国民投票によって国会の判断を拘束することは原則として違憲となると解される。
そして、地方自治においても、憲法は、地方公共団体に議会を置くこと(93条1項)地方公共団体の長と地方議会の議員は住民が直接選挙することを定めており(2項)、代表民主制を原則としている。そのため、地方自治においても住民投票によって市長及び市議会に判断を拘束することは許されないと思える。
しかし、地方自治における施策の決定は、国政レベルの施策の決定と比して、その区域に住む住民の生活と密接なかかわりを有しており、その区域の住民の生活に重大な影響を与えるものである。そのため、重要な施策について住民の意思を直接反映させ住民自治を徹底する必要性は大きい。また、市議会については国会と異なり唯一の立法機関であることを明示する41条のような規定が存在しないことから、憲法は地方自治においては、住民投票によって長や議会の判断を拘束することまで禁止しているものではないと解することができる。
イ 以上より、第R条は、93条1項、2項に反しない。よって、上記Bの主張は認められない。
以上