10/10/2025
法曹界の多様なキャリアや働き方について聞く、シリーズ「タテヨコナナメの法曹人生」
5回目となる今回は、大手法律事務所から独立し、「スクールロイヤー」として活動する鬼澤秀昌弁護士にお話しを伺いました。
学校内で発生した、いじめ、虐待、保護者からの過剰な要求、事故といったさまざまな問題に対して、学校からの相談を受けて法的助言や支援を行うスクールロイヤー。「教員を支えることで、子どもたちの可能性を伸ばしていきたい」と話す鬼澤弁護士の考える、スクールロイヤーのやりがいとは。(聞き手:The Law School Times編集部 細川高頌)
――最初に、法曹を目指したきっかけを教えてください
私は父親が裁判官だったこともあり、大学1年生のころから、当事者双方の言い分を聞いて公平に判断する裁判官になりたいと思っていました。しかし、ロー生のときに、学校に対して社会人経験者を教員として派遣する活動をしているTeach For JapanというNPO法人の話しを聞く機会があり、自分の中でうまく言語化することができないワクワクを感じたんです。
そのときに、自分は教育分野に興味があるということに漠然と気がつきました。そこで、司法試験に受かった後、司法修習と就職を1年遅らせて、Teach For Japanで事務局として働いてみました。
さらに、別途自分で立ち上げた教育判例勉強会を通じて、様々な教員の人たちと話しをする中で、学校の先生たちの専門知識やプロフェッショナルとしての対応を目の当たりにして、「先生たちを支援することで子どもたちの可能性を広げる活動に関わりたい」と考えるようになりました。
――そこからまず、大手の法律事務所に入った経緯を教えてください
司法修習の後、TMI総合法律事務所に入りました。
TMIへの就職を決めたのは、学校やNPOの業務を行う上で、第三者委員会の活動や、企業に対する知的財産権・労働法・会社法等、様々な分野における助言活動などの企業法務の知見が役に立つと思い、そのような知見を得ることで、教育に貢献できるのではないかと考えたからです。実際に、調査報告書のドラフトを書かせてもらう機会もありました。
そうした中で「もっと教育現場の近くで専門性を高めていきたい」と考えるようになり、3年目のときに独立しました。
――独立する際に不安はなかったですか?
もちろん不安はありました。でも、自分がやりたいと思った分野で他の人に先を越される方が嫌だという負けず嫌いな部分があって、このまま大きな事務所で働いて安定した収入を得ることよりも、やりたいことの方を優先しようという思いで独立を決めました。
私は2014年から学校の先生たちと教育判例の勉強会を開いているのですが、そこでは判例を一方的にレクチャーするだけではなくて、「判例はこう言ってるんですけど実際の教育現場ではどうなんですかね?」というのを先生たちに質問しています。そうすると、先生たちからは自身の経験なども踏まえて様々な意見が返ってきて、それが私の中でも新しい発見や知識の習得になっていくのがすごく楽しかったんですよね。そこから、この分野では誰にも負けたくないという思いが強くなっていきました。
――スクールロイヤーとして活動をする中での難しさはありますか
学校で起きるトラブルの当事者は子どもたちなので、誰かの言い分に偏るわけにもいかないし、ただトラブルを解決するだけではなくて「子どもたちの教育」という視点で現場の先生と一緒に考えていかなければいけません。
例えば、被害生徒からこういう訴えがあったからすぐに調査しよう!という単純な話にはならなくて、加害生徒の状態であるとか、受験期など他の生徒にとってストレスになる時期なのかなど、様々な要素を考慮して、加害生徒への対応、被害生徒への対応、その周りの子ども達への対応など、それぞれの視点からどう伝えて、どう対応していくのが子どもたちにとってベターなのかを先生たちと一緒に話し合っていかなければならない。これは本当に正解がなくて、教育現場の知見を反映させたうえで、解決策を着実に一個ずつ積み重ねていくことになるので、その煮え切らなさみたいなものはいつも感じていますね。
先生たちと話し合いをする中で大切にしているのは、相手へのリスペクトを忘れないということです。制度や法理論的には正しくても、やはり現場で子どもたちの対応に当たっている先生だからこそ分かる状況や、対応の困難さがある。そこを無視して法理論だけ伝えていても上手くいくことはないので、お互いの意見をぶつけたうえで、一緒になって考えていくことが大切だと思っています。
――活動をする中で、どのような点にやりがいを感じていますか
私たちの役割は、教育のプロフェッショナルである学校の先生たちが、何かトラブルが起きても安心できる環境を作っていくことだと考えています。そのような状況があるからこそ、先生たちは子どもたちの可能性を伸ばしていくことに集中することができる。そういった意味で縁の下の力持ちとして教育現場を支えられること、あとは先生たちが日々感じている教育に関する法制度の改善すべき点などを、制度として整備していくことができるというのは我々法律家にしかできないことなので、そういったことに取り組むことができる点もやりがいだと感じています。
また、学校法務ってまだまだ論点がたくさんあって、理論面・学術面でも弁護士が現場に入っていって、学校法務の判例を構築していくという面でも、ブルーオーシャン分野だと思っています。なので、いろいろな人がもっと入ってきて、議論が活発になっていって欲しいですね。
――法律家を目指す人へのメッセージをお願いします
私自身、好きなことを仕事にして日々楽しく過ごしているんですけど、それは元を辿れば自分自身が何にワクワクするのかであるとか、何に興味があるのかというところを突き詰めていった結果だと思っています。
なので、お金になるかならないかとか、指導者がいるかとかはともかく置いておいて、とりあえずやりたいことを突き詰めていくということを積み重ねていくと、その先に見えるものがあるかもしれないので、諦めずにワクワクを追及していって欲しいですね。
ただ、やりたいことが見つからないからといって焦る必要はないと思うんですね。ロースクールとかで「私はこういうことを専門にするんだ」というのが決まっている人はすごくキラキラしていてかっこよく見えて、何も持ってないことに自己嫌悪を感じることもあると思うんですけど、それが見つかるタイミングは人によってバラバラだと思うので、疲れたら休みつつ、とにかく自分がワクワクすることは何かというのを探すことを止めないでもらいたいなと思います。
弁護士 鬼澤秀昌(おにざわ・ひでまさ)
おにざわ法律事務所代表弁護士
BLP-Network代表
経歴
2010年 東京大学法学部卒業
2012年 東京大学法科大学院修了
2012年 BLP-Network設立
同代表就任(~2013年)
司法試験合格
特定非営利活動法人Teach For Japan勤務
2013年 最高裁判所司法研修所入所
2014年 第二東京弁護士会登録
教育判例勉強会発足
2015年 TMI総合法律事務所勤務
2017年 おにざわ法律事務所開業
2018年 BLP-Network代表就任