5/12/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
九州大学法科大学院2025年 商法
問題1
監査役の選任手続きは、343条1項、2項で監査役の選任には監査役会の同意が必要とされている。これは、取締役と利害が対立する監査役の独立性を確保するためである。株主総会によって選任される点では取締役の選任手続きと共通するが、監査役は経営監督機関であり、取締役とは役割が異なるため、より厳格な手続きが設けられている。
監査役の任期は、336条1項により4年と定められており、取締役は2年(332条1項)である。これは、取締役からの影響を受けにくくし、その独立性を高めるためである。
解任手続きは、343条4項、309条2項7号で株主総会の特別決議が必要である。一方で、取締役の解任手続は、341条により定足数を3分の1までしか下げられない。
問題2
1. 設問1
Bの甲社に対する株式20株にかかる株券を交付する請求は認められるか。
「株式の譲渡」は名義書換えを行わなければ、「株式会社に対抗することができない」(130条1項、2項)。
本問において、Bが甲社に対して名義書換えを請求したのは、令和6年8月1日であって、甲社は、同日以降に、名義人の記載をAからBに名義書換えをしている。一方、本件株式分割は基準日を同年6月30日にしており、その時点で名義書換えは未了であるから、Bは甲社に対して株主たる地位を主張することはできない。
よって、Bの甲社に対する株式20株にかかる株券交付請求は認められない。
2. 設問2
⑴Bは、Aに対して、不当利得返還請求として本件新株券20株の返還を求めることが考えられる。
⑵株券発行会社は株券の交付をもって、その効力を生じる(128条1項)ので、株券の交付がなされた時点で、株主たる地位は譲受人に移転する。よって、譲受人には、株式分割によって増加した株式を取得する正当な権利がある。増資含みの高値による株式譲渡と株式のプレミアムを取得するのは、二重の利得であり、後者は、「法律上の原因」のない利得といえる。
株式分割では、譲渡人は何ら経済的出捐がなく、株式を利得することとなるので、株式そのものが「法律上の原因」のない利得といえる。
本問において、甲社は株券発行会社であって、AはBに対して、令和6年4月5日に本件親株式を売却し株券を引渡しているから、株主たる地位はBに移転している。よって、Bは本件株式分割によって増加した株式20株にかかる株券の交付を受ける権利を有しており、Aが本件新株券を受領することは「法律上の原因」がないといえる。
⑶とはいえ、Aが交付すべき株式をCに既に売却してしまっている以上、価格賠償による他ないがその価格はいかに算定すべきか。
不当利得制度の趣旨である当事者間の公平の見地から、受益者は現実に受けた利得を賠償すべきであり、売却後の価値の変動を加味すべきでない。よって、受益者は法律上の原因なく利得した代替性のある物を第三者に売却した場合、損失者に対し売却代金相当額の金員の不当利得返還義務を負うと解する。
本問において、Bの請求にかかる訴訟の口頭弁論終結時における甲社の株式の時価は、1株につき5万円であるが、売却後の価値の変動を加味すべきではない。Aは1株あたり3万円でCに売却しており、その価格は当時の事情に照らして、客観的に妥当といえる金額であった。よって、20株分の売却代金60万円の不当利得返還義務を負うと解する。
したがって、BのAに対する不当利得返還請求が認められ、60万円の返還請求をすることができる。
以上