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2023年 憲法 広島大学法科大学院【ロー入試参考答案】
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2023年 憲法 広島大学法科大学院【ロー入試参考答案】

6/28/2025

The Law School Times【ロー入試参考答案】

広島大学法科大学院2023年 憲法

1. Xは、本件命令により取材の自由及び海外渡航の自由が侵害されたとして、本件命令は違憲であると主張することが考えられる。

2. 憲法上の権利の制約

⑴ 海外渡航の自由

海外渡航の自由は、単なる経済的自由にとどまらず、人身の自由ともつながりを持ち、更には、海外における人々との交流をはじめとする様々な体験及び活動や、知識及び情報の獲得、発信等を通じ、個人が自己の人格を発展させるとともに、民主主義社会における意思形成に参画し、これに寄与する契機にもなり、精神的自由の側面をも持つものといえる。したがって、海外渡航の自由は、憲法13条前段により保障されている。

法19条1項の命令を受けた者は旅券を返納しなければならないところ、日本人は、有効な旅券を有していることの確認(法60条1項)を受けなければ、出国することができない(同条2項)。

そうすると、法19条1項4号及びこれに基づく本件命令は、海外渡航の自由を制約するものといえる。

⑵ 取材の自由

憲法21条1項は、まず「表現の自由」を保障するところ、その前提として国民の知る権利をも保障する。そして、事実報道の自由は、国民の知る権利に奉仕するものとして憲法21条1項の保障を受けるものと解される。このような憲法21条1項の精神に照らし、報道のための取材の自由も十分尊重に値するものとされる。

法19条1項の命令を受けた者は前述のように出国することができないため、海外に取材に行くことが困難となる。著名なジャーナリストであるXも、団体Bの最高指導者Cへの取材のため、A国への渡航を考えていることを公表していたものであるが、本件命令により旅券を返納せざるを得なくなり、当初予定していた期日でのA国への渡航ができず、取材が不可能となったものである。

そうすると、法19条1項4号及びこれに基づく本件命令は、取材の自由を制約するものといえる。

3. 法19条1項の合憲性

海外渡航の自由や取材の自由も絶対的に無制約なものではないため、「公共の福祉」(憲法13条後段)のための必要かつ相当な制約は、憲法13条後段及び憲法21条1項に反するものではない。

旅券法19条1項4号は、外国に渡航中の邦人又は外国に渡航しようとしている邦人で種々の事情からその生命、身体又は財産に重大な危険が及ぶ事態に立ち至ったものをその危険から保護することを目的とするものである。そして、法19条1項は、当該邦人に旅券を発給した外務大臣等に対し、上記の目的を達成するために当該邦人に渡航を中止させる必要があると認められ、かつ、旅券を返納させる必要があると認められる場合に限り、その旅券の返納を命ずることができる権限を付与するものであると解される。

そうすると、法19条1項4号は、「公共の福祉」のための必要かつ相当な制約であると認められるから、憲法13条後段及び憲法21条1項に反するものではない。

4. 本件命令の合憲性

⑴ 法19条1項は、前述のように、旅券の返納命令の必要性が認められる場合にのみ権限を付与した規定であると限定的に解釈されるべきである。このような旅券の返納命令の必要性は、個別の事案ごとに、対象者の渡航目的・渡航先の情勢・対象者の渡航計画や安全対策の内容・渡航意思の程度・旅券を返納させることなく対象者の渡航を中止させることの可能性等の諸々の事情を考慮して判断せざるを得ず、その判断は、専門的な知識や知見を基にして渡航先の国・地域の情勢を含む国際情勢等を正確に分析し、時宜に応じて的確に行われる必要があるところ、法19条1項柱書が「期限を付けて、旅券の返納を命ずることができる」と定めているのは、旅券の返納命令の必要性の判断を外交を専門的に担当する外務大臣等の裁量に委ねる趣旨であると解される。

そうすると、旅券の返納命令を発するか否か、いかなる期限を付するかの選択には外務大臣の裁量権が認められる一方、上記の諸事情に照らし、外務大臣の判断が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものと認められる場合には、当該判断に基づく旅券の返納命令は、法19条1項に反して違法であるだけでなく、憲法13条後段及び憲法21条1項にも反し違憲であると解される。

⑵ 確かに、前記のように法19条1項の命令は重要な権利を制約するものである。もっとも、返納された旅券は直ちに失効するわけではなく、渡航先の情勢次第では返還される可能性もある上、返還がされないとしても、法4条の2ただし書・5条2項の規定に基づき、新たな旅券の発給を受けることは可能であり、Xの海外渡航が全面的に制約されることにはならない。

そこで、外務大臣の裁量権は狭いものと解すべきではないため、その判断が重要な事実の基礎を欠き、又は判断内容が社会通念上著しく妥当性を欠く場合に限り裁量濫用となるものと解する。

XはA国への渡航を考えていることを公表していたところ、A国では、A国政府と対立する団体Bによる過激な活動が頻繁に行われており、これまで団体Bが日本国民を含む外国人を襲撃・誘拐する事件が、複数回発生していた。また、日本の外務省は、A国の危険レベルを4段階中のレベル4とし、A国からの退避及びA国への渡航中止を日本国民に呼びかけていた。このような状況のもと、日本の外務省は、XのA国における安全を十分に確保できないと判断し、Xに対して再三にわたり渡航中止を呼びかけていた。それにもかかわらず、Xは、「自分には、世界の真実を伝えるジャーナリストとしての責任がある。また、すでにCとの間で取材交渉は終え、日程も確定しており、今さら取材を中止することはできない。」として、当初の意思を変えないまま、A国への渡航を具体化する計画を立てていたものである。このような事情から、XがA国に入国し、その生命・身体・財産に重大な危険が及ぶ蓋然性は高かったものと評価できる。

本件命令にかかる外務大臣の判断が以上のような事情を考慮して旅券の返納命令の必要性を肯定したものであるとすれば、その判断は、重要な事実の基礎を欠くものではなく、その判断内容が社会通念上著しく妥当性を欠くものでもない。

⑶ したがって、本件命令にかかる外務大臣の判断は、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとは認められず、本件命令は憲法13条後段及び憲法21条1項に反するものではない。

5. よって、本件命令は合憲であり、Xの主張は認められない。

以上

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