広告画像
「作家になれない未来もあった」修習より執筆を選んだ6年後、映画化された小説『法廷遊戯』。弁護士×小説家五十嵐優貴キャリアインタビュー
後で読むアイコンブックマーク

「作家になれない未来もあった」修習より執筆を選んだ6年後、映画化された小説『法廷遊戯』。弁護士×小説家五十嵐優貴キャリアインタビュー

9/13/2024

2015年の司法試験に合格後、司法修習に参加せず作家デビューを目指して、小説を書き続けた五十嵐優貴さん。2020年に『法廷遊戯』で講談社・第62回メフィスト賞を受賞し、作家・五十嵐律人としてデビューが決まると同時に司法修習に参加。現在は、弁護士と小説家の二足のわらじで活動し、デビュー作の『法廷遊戯』は2023年に映画化されています。作家と弁護士という二足のわらじで活躍する五十嵐弁護士に、キャリアについて聞きました。(ライター:The Law School Times編集部、写真:園田寛志郎)




五十嵐優貴(いがらし・ゆうき)さん

2013年に東北大学法学部を卒業。2015年に東北大学法科大学院を修了後、同年の司法試験に合格。裁判所事務官・書記官として勤務中の2020年に『法廷遊戯』メフィスト賞を受賞し、作家・五十嵐律人としてデビュー。2020年司法修習に参加し、現在はベリーベスト法律事務所で弁護士として勤務する傍ら、小説家「五十嵐 律人」としての活動も続けている。








法律家×小説家、異色の経歴


──なぜ法律家を目指したのですか

高校の時、先生から「法学部に入れば民間就職も公務員も法曹も、大学入学後に興味を持った分野に進める」と言われ、もともと法学部に憧れもあったので、軽い気持ちで東北大の法学部に進学しました。当時から弁護士を目指していたわけではありません

大学2年の春に東日本大震災があり、大学が休みになったり、知り合いの知り合いが被災したりしているのをみて、「当たり前」って簡単に崩れていくんだなと感じたんです。このまま漫然と大学生活を送っていくのかな、何か取り組んでみようかな、と思ったときに、法律の授業を面白いと感じていることに気が付きました。

そこで、もっと法律を勉強してみようとロースクールに進学しました。弁護士を目指したというより、法律を面白いと感じたのがきっかけでロースクールに進学し、せっかくだからと司法試験も受験したら合格したのが実際です。


──司法試験に合格した後、司法修習に参加せず小説家を目指したのはなぜですか

司法試験に受かったら、普通は直後に司法修習に行って、法曹三者(弁護士・裁判官・検察官)のどれかになると思うんです。でも本当にそれでいいのかなと、確信が持てなかったんです。

65歳まで働くとして40年間、司法試験に受かるまでに25年しか生きていないのに、その倍近くを弁護士として過ごすことになる。なんか普通の人生だなあと思っちゃって……。一人で海に行って、海を見つめながらどうするか考えていたときに、ふと小説を書こうと思ったんです。
僕はすごく法律が好きで、面白いと思ってます。自分はなんとなく法学部に進学して、巡り合わせで法律を学べたけど、法律に触れてこなかった人も人もたくさんいるわけです。法律の面白さを伝えたいという思いがあったので、じゃあそれを小説に書こうと。

追い込んだ方がやるタイプという自覚があったので司法修習には行かず、裁判所で書記官として働いて、小説の取材ができる環境に身を置きながら小説を書くことしました。


──裁判所書記官として働くことを選んだのは、小説の取材以外の理由もあるのでしょうか

職場としてホワイトだからというのも理由です。公務員の中でも裁判所は9時5時で……、あ、弁護士業界あるあるの朝「5時」上がりではなく、夕方の5時ですよ(笑)。裁判所から徒歩1分の場所に家を借りて、朝起きて小説を書いてから出勤し、昼休みも家に帰って執筆し、帰宅後また小説を書く生活を送っていました。

もう1つは、自分の武器になるのはリーガルの専門性だと感じていたからです。
裁判所に係属している事件って、数ある法律相談の中から、訴訟が起こされる段階までいった「選ばれしもの」じゃないですか。それを書記官として間近で見れるのは、弁護士になる以上に良い経験になるかもしれないと思ったんです。

──仕事と小説を両立するのは大変そうですね

裁判所で働いてた時は作家というより「作家になりたい人」だったわけですが、今よりも小説を書いていましたね。両立できたのは、司法修習を遅らせてまで小説を書いているのに結果が出ない焦燥感があったからですね。「楽しいから頑張ろう」というわけでは全然なくて、早くここから抜け出したいという思いが原動力でした。裁判所書記官の仕事が悪かったわけではなく(笑)。自分の問題ですよね。

──裁判所での経験で小説に生きたことはありますか

デビュー前は青春寄りの内容が多く、リーガル部分は「法学部」や「法律相談サークル」を設定として盛り込む程度でした。もっと法律をメインに書きたいなと思って書いた小説が、映画化もされた『法廷遊戯』なんです。

『法廷遊戯』は、まさに裁判所で学んだことが生きた小説です。法学部やロースクール時代の経験と、裁判所書記官としての経験を1つの本にして、そこにリーガル要素や青春要素、謎解き要素が加わっています。自分がそれまで生きてきた経験を全部詰め込んだ作品ですね。


──29歳の時『法廷遊戯』で講談社・メフィスト賞を受賞し、作家としてデビューが決まりました。その後司法修習に参加したのはなぜですか

出版社から、受賞連絡を受けた時に「仕事は辞めないでください」と言われたんです。

やっぱり、作家は上澄みしか食べていけない職業なんですよね。やりがいはあるけど、そんなにお金にはならない仕事です。だから兼業した方が良いというのが出版社側の意見で、僕もそう思ったので、何かしら仕事は続けようと思いました。そこで、兼業するなら弁護士かなと…。

裁判所書記官の時に弁護士の仕事を見て、依頼者の利益のために全力で取り組むのは、仕事としてやりがいがあるだろうと感じていました。裁判所で選ばれた事件を見るのではなく、選りすぐりになる前の原石の段階、法律相談から自分で扱ってみたいなと思い、弁護士になろうと修習に参加しました

──もし作家としてデビューできなかったら、どんな人生を歩んでいたのでしょうか

よく「30歳になる前に賞を取れなかったら諦めていた」と口では言っているんですが、やっぱり賞の最終候補で落ちたとしたら、絶対そのまま続けていたと思います。諦められなかっただろうなと。

20代で司法試験に合格しているのに、30歳をすぎてから作家の道を諦めて司法修習に行くんだと、ただただ人生6年間ぐらい損してるわけじゃないですか。それはやっぱり嫌だったので、何かしら結果を出すまで頑張ったんじゃないかと思います。


キャリアに悩む受験生へ

──弁護士と兼業するのにお勧めの職業はありますか

「スラッシュワーカー」などいろいろな考え方がありますが、僕自身は弁護士との兼業は全員に勧められるものではないと思います。1日は24時間しかないので、兼業していてもどっちかの仕事に偏りますよね。弁護士はそれだけで食べていける職業なので、弁護士一本でも良いと思っています。

でもその中で、何かしら自分にしかできないことがしたいと思ったときに、「弁護士×◯◯」という選択肢が出てくるのかなと…。とはいえ、弁護士×企業が企業法務だったり、弁護士×学校問題がスクールローヤーだったりと、弁護士の仕事として確立しているものも「弁護士×◯◯」ですよね。弁護士の活動領域の幅が広いから、別にスラッシュワーカーにならなくても良い。

作家とかは別だと思います。お笑い芸人とかもね。やりたいことが軸としてある人が、やりたい仕事をするために弁護士を仕事としてやるのは、1つの考えとして成り立つのかなと思っています

──弁護士との兼業を考えている学生に、アドバイスをお願いします

僕は弁護士の上位1%に入る自信はないし、作家として上位1%になる自信もないのですが、作家と弁護士の知識を掛け合わせたら上位1%になれると思っています。組み合わせの問題だと思うんですね。
職人気質で、1つのことを突き詰めるのが好きなのであれば、余計なリソースを割かずに弁護士だけやった方が良いと思います。逆に、いろいろなことに手を出すのが好きな人は、司法試験終了後に模索するのもありだと思います。そういう人は、いろいろ突き詰めていった先で幸せになることもあります。

でも、僕が今「弁護士作家」になっているのは小説の新人賞が取れたからで、賞が取れなければ司法修習を遅らせるだけ遅らせて、何年たっても作家になれない未来もあったわけです。「弁護士作家」になった今、結果論で語っている面もあるので、やっぱり最終的に自己責任かなと思います。


編集後記

弁護士と小説家という、一見全く異なる二つのキャリアで活躍する五十嵐弁護士。「作家になれない未来もあった」と語りつつも、法律の知識を小説家人生の大きな武器にしているキャリアについて迷いなく話す姿がとても印象的でした。

今後もThe Law School Timesでは、第一線で活躍している弁護士のキャリアインタビュー記事を掲載していきます。
自分のキャリアを考える際の参考にしてください!

【修正】2024年8月28日午後10時30分 誤字を修正しました。

おすすめ記事

ページタイトル
キャリアインタビュー

民事・刑事事件から海外ベンチャー案件まで、日本をUPDATEするため拡大中。東京スタートアップ法律事務所【PR】

ページタイトル
司法試験・予備試験

【令和6年・司法試験合格者インタビュー Vol.1】大手航空会社勤務からローへ。過去問高速周回で在学中一発合格 山内さん(慶應ロー・3年)

#勉強法#司法試験
ページタイトル
キャリアインタビュー

伝統と変革。テクノロジーと協働し、顧客の感情と向き合う弁護士を育てる。Authense法律事務所代表・元榮太一郎弁護士インタビュー【PR】