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刑事弁護人のキャリアや司法過疎問題について、櫻井光政弁護士に聞いてみた!
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刑事弁護人のキャリアや司法過疎問題について、櫻井光政弁護士に聞いてみた!

9/17/2024

司法過疎問題の解消のために若手弁護士を教育し、弁護士が足りない地域に派遣する仕組みをつくるため、刑事弁護のレジェンド・神山啓史弁護士とともに「桜丘法律事務所」を設立した櫻井弁護士。その経緯や、若手時代に心がけていたこと、桜丘法律事務所の若手教育とは。(ライター:後藤 光/The Law School Times ライター、写真:諸井)


◇櫻井弁護士の若手時代◇

――弁護士になろうと思ったきっかけを教えてください

私が高校生の時、1学年上の先輩が文化祭の催しで模擬裁判をしていたのがきっかけです。当時各地で起こっていた公害問題について、実際の原告の弁護団から記録を借りてきて、裁判での尋問を再現していました。深刻な被害を受けた被害者の代理人として大企業に挑んでいく姿を見て、弁護士という仕事に魅力を感じました。公害問題だけでなく、社会を変えていく運動にも携わることができる点にも引かれ、弁護士になることを決めました。

――弁護士としての専門分野は何ですか

専門というと、なかなか答えるのが難しいです。というのも私が弁護士登録した頃は弁護士の数も少なく、専門化もそれほど進んでいなかったので、依頼された事件が自分でできる事件であれば、断ることなく、最後までやり遂げると決めて仕事をしてきたからです。

アメリカでは、法廷での弁護活動が専門分野として確立されているのですが、強いていうなら、私もこのような訴訟を中心に扱う弁護士です。

――印象に残っている担当事件を教えてください

私が一番初めに受けた刑事の国選事件ですね。幼児の身代金目的誘拐殺人事件で、一審で死刑判決を受けた控訴審の弁護でした。

当時は、弁護士会館に行くと国選事件のファイルが積んであり、弁護士がその中から事件を選んで引き受ける流れでした。その中に皆が敬遠するファイルがあり、中を見ると幼児の身代金目的誘拐殺人事件でした。

当時、国選事件の裁判を傍聴していると「適当にやっている」と感じる弁護が多く、「もっとちゃんとやれよ」と呆れる経験を何度もしていました。当時はまだ駆け出しの弁護士でしたが、1つの事件に多くの時間を割けば、手を抜く弁護士よりは良い仕事ができると思っていました。私なら時間のないベテランの先生と遜色のない弁護活動ができると、その誘拐殺人事件の弁護を引き受けることにしました。

(櫻井弁護士の若手時代:先方提供)

――その幼児誘拐殺人の国選事件では、どのような弁護活動をしたのですか

実際に受任して被告人と話をしていると、被告人から精神鑑定を頼まれたんです。もちろん、重大事件を起こした被告人は、当時の自分はどうにかしていたと思うものです。ただ、その一事をもって精神的な疾患が犯罪の原因だと主張立証することは困難です。

なぜ鑑定をしたいのか尋ねると、一審の弁護人が「心神喪失で無罪」という主張一本で弁護をしていたのだといいます。当時の重鎮の弁護士だったらしいのですが、被告人はその弁護士から精神鑑定しか助かる道はないと刷り込まれ、その考えにしがみついていたのです。「ふざけるな」という話です。私は、闘う手段は精神鑑定だけではなく、情状酌量を取る方向もあると説明した上で、一応、上智大学の福島章先生という当時の心理学の大家に精神鑑定について相談しつつ、被告人の強い希望に従って精神鑑定を改めて求めるほか、情状や死刑制度の違憲を主張していく方針で控訴趣意書を書きました。

――やはり駆け出しの弁護士が1人でやるには荷が重すぎる事件であるように感じます

そうなんです。あるとき、死刑囚を支援している団体が被告人と面談することがありました。そこで、新米の弁護士が1人でこの事件をやっていると知られ、当時死刑囚支援の活動を積極的に行っていた安田好弘弁護士とその友人の弁護士が弁護に加わってくれて、本格的な情状弁護の準備に入りました。

当時、身代金目的誘拐殺人事件で死刑にならなかったケースは1件もなかったのですが、安田弁護士の協力のおかげで、裁判所が誘拐から殺害までの足取りを追う検証の申し出に応じてくれたのです。

身代金目的の誘拐で身代金を手にして解放するという計画が成功する確率はかなり低く、初めから殺害を計画している犯人が多かったのですが、その被告人は違っていました。一緒に何日も連れ歩いている際に泣かれて泣かれて、見つかりたくないから仕方なく殺してしまったというものでした。初めから殺害を計画に入れていたものよりも悪質性が低いことを主張して、結果的に無期懲役の判決を得ることができました。

――その事件を通して学べたことは

安田弁護士の弁護士としての闘う姿勢です。非常に緻密で、裁判官に対しても丁寧な応対をしているのですが、主張すべきところはしっかりと主張しており、この姿勢は非常に勉強になりました。

また、事前準備の大切さも学ぶことができました。安田弁護士主導の弁護団として弁護を進める中で、裁判前に何度も議論を重ねました。調書を見ながら、今回の事件のどこが従前の身代金目的誘拐殺人と異なるのかを、徹底的に洗い出しました。その中で、計画性のない殺害であることの重要性に気が付き、結果、弁護に有力な材料として主張することができたのです。

法廷で威勢が良いことを言うのは簡単ですが、法廷弁護で大切なのは裁判官を説得すること。裁判官に真意を伝えるにはその場しのぎの弁護ではなく、事前に何度も議論を重ねて説得力のある主張を考えることが必要です。この事件で安田弁護士から学んだことは、今でも私の弁護活動に大きく役立っています。


◇「本気でやるなら、手伝うぜ」司法過疎解決に向けた、神山啓史との共闘◇

――現在の司法が抱える問題を教えてください

私が大きな問題だと思うのは、司法過疎問題です。司法過疎問題とは端的にいえば、弁護士が都市部に偏在している影響で、地方や人口の少ない島で弁護士が足りていないというものです。なぜこれがいけないかというと、被疑者国選制度の維持が困難になってしまうからです。

――被疑者国選制度と司法過疎問題の関連性はどのような部分にあるのでしょうか

昔は被疑者国選制度が存在せず、刑事弁護をする弁護士の共通認識として被疑者国選制度が必要だと考えられていました。冤罪事件の多くは被疑者段階で弁護人がついていない状態で嘘の自白をさせられて、それが決め手となって有罪となるものが多かったからです。自白の強要による冤罪を防ぐには、起訴される前から弁護士が関与していくことが必要と考えていました。ただ、この制度の実現はなかなかうまくいきませんでした。

――上手くいかない原因は何だったのでしょうか

当時から弁護士は都市に偏在している状態で、弁護士が足りていない地方では被疑者段階の時間的制約に上手く対応することが厳しかったんです。被疑者には、逮捕から48時間以内に送検、送検から24時間以内に勾留請求がなされるという時間的制約があります。その地域に弁護士がいない場合、本庁の弁護士がすぐに接見に行けと言われても、対応できるとは限らない。そうした状況の場所がある中で被疑者国選制度を実現すると、弁護士がいる場所では実施できるけれど、そうでない場所では実施できないということになって、被疑者の利益に差異が生じる。国はその格差を認めるわけにはいかないというのです。

――地域によって受けられる対応が異なるのは望ましくないですね。被疑者国選制度の実現に向けては、どのようにアプローチしたのでしょうか

地方に弁護士が足りていないのであれば増やせばいいという単純な考えの下、司法過疎地の裏をなす司法過密地である東京から、弁護士を地方に送ることで被疑者国選制度を実現できると考えました。

私は子どもが小さく事件も多く抱えていたので、自ら地方へ行くことはできませんでした。そこで、若手の弁護士を地方に派遣する仕組みを作れば良いと考えました。ただ、若手弁護士は実務経験が少なく、経済的な保障がないところで弁護士をやりたいわけがないというのが問題でした。

弁護士の大都市偏在を示すグラフ(弁護士会別会員数/日本弁護士連合会の数値を基に、編集部作成)


――私も弁護士になってすぐ、保証もなしに地方へ行くとなると、かなり不安です

きっとその不安は若手弁護士の皆が思うことです。そこで、若手を育ててから任期付きで地方に送り、任期が明けたらまた都市の事務所に戻るという仕組みを作れば、行ってもいいと思う若手弁護士が出てくると考えました。これを日弁連に提言しましたが、「難しい」と消極的な議論が起こったので、それなら私がやって見せようと思い、桜丘法律事務所を設立しました。

――若手弁護士が地方に行ってもいいと思えるためには、よほど素晴らしい教育を受けられる環境が必要だと思います

まさにその通りです。ただの教育であればどこの事務所でも受けられますから、どうせやるなら、どこに行っても負けないような刑事弁護をする弁護士を育てないといけないと思いました。そこで思い浮かんだのが、当時から刑事弁護人の中で名を馳せていた神山啓史弁護士です。

彼とは弁護士2年目の頃に同じ事件の弁護を行ったのがきっかけで知り合い、一生懸命刑事弁護に取り組んでいる印象でした。それから10年ほど経って、弁護士会は難事件となれば彼を頼ってばかりいるのに、専用の執務スペースを作るといった基本的なの環境作りもせずにいたのです。

神山弁護士が桜丘法律事務所に来て、若手の指導をしてくれれば神山弁護士にとっても働きやすい環境を用意できる上に、「神山弁護士に指導してもらえるなら行ってみたい」という若手も出てくると考えました。

実際に神山弁護士に、あまりお礼はできないかもしれないけど一緒にやってくれないかとお願いしたところ「わしは礼なんかいらん。櫻井さん、本気でやるなら手伝うぜ。」と二つ返事で事務所に来てくれました。

――神山弁護士の漢気。格好良すぎますね

そうでしょう。私もこの返答を聞いて鳥肌が立ちました。こうして最強の刑事弁護人である神山弁護士とともに、若手を育てて地方に行ってもらう仕組みの端緒を作ることができました。

この仕組みを続けていくうちに、当時の若い弁護士たちの間の司法過疎問題への意識が高まっていったんです。ひまわり基金法律事務所や法テラスなどの拡充を背景に、2006年に一定の重大事件では被疑者段階で国選弁護人が付くようになり、2018年に刑事事件で勾留されている全ての被疑者国選制度が実現しました。私の実現したかったことの第一歩です。

――これまでのお話を通じて、司法過疎問題は解消に向かっている印象を受けました。今後の課題はありますか

私は今後も司法過疎問題が広がっていくと感じています。というのも、弁護士のニーズの増加とともに弁護士の数も増えてきているのは事実なのですが、その需要にAIなどの最新技術が絡んでいる関係なのか、弁護士の大都市偏在化が進んでいるんです。

そうなるとまた地方の弁護士が減って、被疑者国選制度の維持が難しくなる可能性もあると考えます。

――時代が変わるとそれに合わせて制度も変革が必要なんですね。では、現代の弁護士の大都市偏在に対して、司法過疎問題解消のためにどのような対策が考えられるのでしょうか

現状、地方における法律家へのアクセスの要となっているひまわり公設法律事務所では、安価で弁護士が仕事をするシステムになってしまっています。役所が予算をしっかり取り、弁護士に適切な対価を支払うことが大切です。そうすれば、地方で仕事をしても良いという弁護士が増えていくはずです。


◇桜丘法律事務所の紹介◇

――桜丘法律事務所の魅力を教えてください

先ほども神山弁護士の話で取り上げたように、若手の育成には本気で取り組んでいます。

刑事弁護について極めて優れた知見を持つ神山弁護士をはじめとした、実力ある弁護士が多数在籍しているので、若い弁護士にどんどん知見を共有しています。

現在、76期で入所したミロノワアンナ弁護士の教育を中心に、毎月1回、司法修習生やロースクール生から参加希望者を募って神山ゼミというゼミを開いています。実際に受任している事件を題材に、どのように弁護するのか、公判でどのような尋問をするのかといった点を、毎回2時間ほど議論していますね。

――私も神山ゼミに何度か参加させていただいていますが、事務所の所属弁護士がミロノワ弁護士に本気で向き合っているのが伝わってきます。この本気度はどこからくるのでしょうか

桜丘法律事務所の所属弁護士は、若手が今どのような事件を担当しているか、進捗状況はどうなのかと、若手の仕事に気を配っていますね。所属している弁護士は皆、司法過疎問題を解消して弁護士へのアクセスが不十分な人のために働こうという姿勢を持っています。そのため、自然と若手の教育に力が入るのです。

――弁護士の皆さんがとても良い雰囲気でお仕事をされているのも、1つの方向を向いているからなのですね

そうです。ですから、我々と同じような方向を見て司法過疎問題を解消しつつ刑事弁護の技術を身につけたいという若手の方にとっては、とてもいい環境だと思います。


◇「弁護士は、だれにでも誇れる仕事。」これから弁護士になろうとする人へのメッセージ◇

――これから弁護士になる人に向けて、櫻井先生からメッセージをお願いします

現在、弁護士は地域ごとに品質にバラつきがあると言われています。これは、若手がしっかりしていないのではなく、我々の世代がもっとしっかり教育する必要があるということだと思います。弁護士は誰にでも誇れる仕事だと思うんです。だからこそ、上の世代から吸収できるものはたくさん吸収して、若手のうちからどんどん案件を解決していく弁護士、カッコいい弁護士になっていただきたいと考えています。

もしも桜丘法律事務所の教育体制に興味を持っていただけた方がいれば、ぜひ私たちと一緒に司法過疎問題の解消を考えつつ弁護の技術を高めていきましょう!

弁護士 櫻井光政(さくらい・みつまさ)
桜丘法律事務所 代表
日弁連総合法律支援本部 スタッフ部会 部会長
刑事弁護フォーラム世話人
NPO法人「ストップいじめ!ナビ」弁護士チーム

経歴

1977年3月 中央大学法学部法律学科卒業
1982年4月 弁護士登録・高橋孝信法律事務所入所
1987年9月 櫻井光政法律事務所設立
1998年1月 桜丘法律事務所設立



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