
11/26/2025
ロースクールスタートダッシュ大宴会では、実際に活躍される弁護士の先生に来ていただき、キャリアの疑問を座談会などで直接聞ける機会を設けています!
登壇事務所の一つ、AZX総合法律事務所はスタートアップ(革新的なビジネスモデルやアイディアで、社会に新しい価値を提供する新規企業)を中心に法務、税務、会計、労務、特許などの幅広い領域をワンストップでカバーするプロフェッショナルファーム。
今回は、AZXの佐藤ひなた弁護士に、仕事のやりがい、若手がどこまで挑戦できるのか、忙しさのリアル、そして将来のキャリアの広がりを聞きました。
(聞き手・文:晋川陸弥/The Law School Times編集長)
「スタートアップ法務」とは?
AZXのスタートアップ法務関わり方
なぜAZXを選んだか——カルチャー、働き方のリアル、成長環境
ロースクール入学予定の皆さんへメッセージ
ーーまず、「スタートアップ法務」とはどんな仕事でしょう。一般的な企業法務との違いも教えてください。

「スタートアップ法務」の定義は決まっているものではないかもしれませんが、いちばんわかりやすいのはクライアントがスタートアップだという点です。創業直後からIPO前後まで、スタートアップのライフサイクル全体に寄り添います。
そのため、日常の契約はもちろん、資金調達、労務、IPOに向けたガバナンス整備、紛争まで、幅広く見ることが多いですね。お医者さんで言えば、「総合診療医」のようなイメージで広い範囲をサポートするイメージです。
また、大手企業を相手にする企業法務よりも経営者との距離が近く、意思決定者に直接アドバイスすることになることが多い点も特徴です。
ーーVCとスタートアップの両方を支援する場面もあると伺いました
※「VC」とは…スタートアップに出資し、株式を取得、IPOなどで大きな利益(キャピタルゲイン)獲得を目指す投資会社や投資ファンド。ただ投資するだけではなく、時にはスタートアップの伴走者となりさまざまな面でスタートアップを支援する。(AZX総合法律事務所「スタートアップの世界」より)
2001年の設立当初から、国内大手VCを始めとした多くのVCのサポートをしています。またAZX代表の後藤弁護士は、日本ベンチャーキャピタル協会の顧問も務めています。
スタートアップ側のみならず、VC側も多数支援しているため、スタートアップエコシステム全体を見渡せる点が弊所の強みです。
ーー最近増えている相談や典型的な案件は?
資金調達のディールは通年で多いです。年末に向けてクロージングが集中する傾向もあり、期日がタイトななかで走り切ります。着金の瞬間に、経営陣の表情が一気に晴れるところを見ることができるのが、この仕事の醍醐味の一つですね。その他には、会社法関連のお手続きのご相談や利用規約、サービスの適法性のご相談、訴訟対応などもよくご依頼いただきます。
テーマでいうと、ここ数年はAI関連が多い印象ではありますが、スタートアップは世の中のトレンドを捉えてサービス展開をしていることが多いので、様々な業種、領域でのご相談をいただいています。
ーーどのようなフェーズのスタートアップを支援していますか?
事務所全体としては設立直後〜上場企業まで幅広く支援しています。特に私は大学発ベンチャーの支援も多いので、シード〜シリーズA・Bあたりの初期段階の企業を担当することが比較的多いです。


AZX総合法律事務所「スタートアップの世界」より
相談のきっかけは、VCからの紹介、大学連携経由、お問い合わせなど様々です。VCからの紹介は弊所の特徴的な点だと思います。
事務所としては、設立からIPOまで伴走した事例も数多くあります。途中でピボットしたり、解散したりするケースももちろんありますが、その全ての局面で法務が価値を出せると感じます。
案件を処理するにあたっては、そのビジネスに最も熱量を持っている経営者と直接お話しすることも多いので、事業の方向性や意思決定の背景は最短距離で伝わってきます。ただ、本人も課題に気づいていないことは多いです。そのため、何に悩んでいるのかを理解し、法務として拾うべき論点を確実に拾うために、ビジネスの理解は意識的に深めています。
ーー佐藤弁護士がAZXを選んだ理由は?
学生時代、たまたま家の近くにあったスタートアップでアルバイトをしていたのですが、その会社の顧問事務所がたまたまAZXで、見てみようと思ったのがきっかけです。
当時は、まだスタートアップという言葉よりベンチャーという言葉の方がよく使われていましたし、業界としても今ほど注目度が高くなかったので、本当にご縁です。
また、スタートアップ法務も企業法務の一分野なので、ビジネスの現場を支援することになるのですが、一般民事との比較で、企業法務の方が肌に合ったという点もあります。
一般民事では消費者の生活や権利の保護を中心に据えるのに対し、企業法務では事業計画や資金調達などでは一定の指標が判断の拠り所になるため、合理的な指標に基づく判断がしやすいところが自分に合っていると思っていました。
さらに、大企業を相手にする企業法務とは異なり、スタートアップ法務では、意思決定者である経営者などと対話することが多く、熱い想いをダイレクトに感じることができます。クライアントの役に立っていると感じられる機会が多いことにも魅力を感じました。
ーー入所前後でのギャップは?
よく「スタートアップ法務=キラキラ」と誤解されますが、実際は想像の3倍まじめな事務所でした(笑)。
スタートアップは勢いのある会社も多いですが、法的なリスクなど丁寧に確認しサポートをしています。緊急の対応依頼をいただくこともあり、そんな時は現場はバタバタしますが、やりがいは非常に大きいです。
ーー若手の働き方について教えてください
弁護士の席は、パートナーと先輩アソシエイトに挟まれる形で新人アソシエイトが配置される、6人1部屋になっています。部屋といっても、壁ではなく背の高さくらいのパーテーションで区切られているだけで、ドアもないので、オフィス全体を通してコミュニケーションが取りやすい動線になっています。
また、同部屋の先輩アソシエイトが週1の面談で状況をキャッチアップし、手持ち案件の量の調整や、業務のサポートを行う「指導担当制度」があります。
さらに、若手がやりたいと思っている案件を可視化するための「アソシエイトカルテ」があり、自分の興味分野にどんどんチャレンジできる制度になっています。
ーー忙しさの目安はどれくらいですか?
個人差はありますが、200〜250時間/月あたりに収まる人が多い印象です。
ただし、無理なときは先輩がストップをかけます。ここは事務所としてかなり丁寧に見ている部分です。適切な稼働時間は本当に人によりますし、単純な時間数だけでなく、案件の難易度や締切の重なりなども加味してハンドリングします。
難しい案件にどんどんチャレンジしつつも、自分の働く量の限界が見えたらペースを落とせる。そんな仕組みが出来上がっていると感じます。
ーー幅広い法分野を扱う中で、専門分野はどのように獲得するのですか?
スタートアップの現場は会社まるごとを見るので、ジェネラリスト寄りになりやすいとは思います。そんな中でも、本人の意思と工夫次第で専門性も育ちます。
所内には暗号資産、バイオヘルスケア、AIなどに尖った弁護士もいます。普段の総合的な業務をやりつつ、自分の「好き」を明確化し、案件希望を出し、学びを積むことで専門分野を作ることは十分可能です。
私自身は、いつでも相談してもらえる弁護士であることに面白さを見出しているので、いまはジェネラリスト寄りです。ただ、テクノロジー領域を扱うことも多いので、面白いテーマがあればいずれ専門的な分野を作ろうとも思っています。
ーーこれからロースクールに入学する読者へメッセージをお願いします
もし、関心があるなら、スタートアップでインターンを行うなど、ぜひ事業に近い現場に飛び込んでみてください。社長との距離が近く、社会課題に真正面から挑むプロダクトに触れられるという、スタートアップの最大の面白さを感じられると思います。
スタートアップ法務は先進的な案件を多く取り扱い、社会的に意義もあるので、やっていてとても楽しいです。
学業としては、基礎法学の地力はどんな選択肢を選ぶにしても成長の基礎になるのでしっかり取り組むとよいと思います!
ーーAZXのインターンについても教えてください。
毎年8~9月にサマークラークを実施しています。翌年司法試験を受験される予定の方を対象としており、例年ロースクール入学直後くらいから募集を開始しています。
実際の案件に沿った課題検討のほか、「キャピタリスト研修」という投資契約の模擬交渉はとても好評です。弁護士からのフィードバックも丁寧におこなっているので、現場の解像度が一気に上がるはず。関心があれば、ぜひエントリーしてみてください。

弁護士 佐藤ひなた(さとう・ひなた)
AZX総合法律事務所 アソシエイト
2014年 東京大学教養学部理科二類入学
2018年 東京大学法学部 卒業
2019年 司法試験合格により東京大学法科大学院中退 司法研修所 入所
2021年 AZX Professionals Group 入所