6/25/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
九州大学法科大学院2024年 憲法
設問(1)
1. ⑴まず、13条後段の保障根拠は、私生活への介入の排除により、個人の私生活領域を保護する点にある。私生活上の自由は、「幸福追求に対する国民の権利」として13条後段により保障されると解する。逮捕事実は、前科に準じて、それが公開されれば社会的生活を営むことが困難となる情報であり、私生活上の情報である。そのため、みだりに逮捕事実を公開されない自由は、13条後段によって保障される。Xの、みだりに他人の身体をのぞき見する目的でカメラを設置したとの事実で逮捕されたことを公開されない自由は13条後段により保障される。
⑵本件各投稿は、同逮捕事実のシンガー利用者への拡散に寄与しているから、同自由の制約が認められる。
⑶Google事件判決は、⒜本件事実の性質及び内容、⒝本件事実が伝達される範囲とAが被る具体的被害の程度、⒞Aの社会的地位や影響力、⒟本件事実を提供することの目的や意義、社会的状況の変化等諸般の事情を考慮し、①本件事実を公表されない法的利益が②本件事実を提供する法的利益に優越することが明らかな場合には、削除請求が認められると判断したと解される。明白性が要求された根拠は、㋐自身の表現行為といえること、㋑国民の知る自由に資するため重要で、削除により思想の自由市場も歪むこと、㋒インターネット上の情報流通の基盤として公共的な役割を果たしている点に求められると考える。シンガーの情報提供が方針に沿ってなされ、性質上一貫性が求められるということはなく、シンガー社の表現行為とは言い難い。また、報道機関の報道に準じて国民の知る自由に資するため重要とは言えず、Google等の検索エンジンと異なり、インターネット上の情報流通の基盤として公共的な役割を果たしているとまでは言えない。むしろ、時系列順に投稿が羅列されるTwitter上の投稿の消除が問題となった、Twitter事件の射程が及ぶというべきであり、明白性は要求されないと考える。
⑷本件で、事実を公表されない法的利益については、逮捕の数年後に婚姻しており、配偶者に対して本件事実を伝えていないため、本件事実が配偶者に知られてしまうと困るというものがある。時間の経過とともに公開されないことが合理的に期待される事項については、個人の私生活領域にあるものといえるため、それを公表されない期待は大きい。すでに事件から12年が経過しており、Xは現在公職から離れていることも加味すると、秘匿する利益は大きくなっている一方、情報提供の重要性は低下しているというべきである。よって、本件事実を公表されない法的利益が優越すると言える。
2. 以上より、裁判所は、Xによる本件各投稿の削除の求めに応じるべきである。
設問(2)
1. 北方ジャーナル事件判決は、表現行為の事前抑制は、㋐表現の自由市場に出ることを制限することでその意義を失われること、㋑予測に基づくものとなり事後規制の場合よりも広汎にわたりやすく、濫用のおそれがあること、㋒実際上の抑制的効果が事後規制の場合よりも大きいことから、「厳格かつ明確な要件」のもとにおいてのみ許容されるとの判断を示したものと解される。
そして、同判例を前提に、週刊文春記事差止事件決定は、私生活上の自由と表現の自由が対立する場合における差止の要件について、①当該出版物が公共の利害に関する事項に係るものといえないこと、②専ら公益を図る目的のものでないことが明白であること、③被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被るおそれがあることという3つの要件を満たす場合に認められるとの判断を示したものと解される。
2. 本件で問題となっているのも、Xの私生活上の自由を制約する表現物たる記事の差止であるから、同伴例の射程が妥当する。よって、かかる3要件を満たす場合には裁判所はXをモデルとした小説の出版差止めの判断を肯定するべきである。
以上