7/22/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
神戸大学大学法科大学院2024年 憲法
第1問
1. 以下のように、問題文記載の状況は憲法25条1項・14条1項に反し違憲である。
⑴ 人権享有主体性の問題
ア 主張
憲法上の権利は、前国家的な人権の固有性を有するものが列挙されているから、25条1項が保障する生存権も外国人にも当然に保障される。
イ 反論と私見
これに対し、憲法3章の表題が「国民の」となっているから、外国人には憲法上の権利保障が及ばないという反論が想定される(文言説)。
しかし、文言説によれば、外国人に国籍離脱の自由(22条2項)が保障されることになり不合理である。さらに、憲法が国際協調主義(前文3項、憲法98条2項)を採用し、国連人権規約にも批准していることに照らせば、外国人に対しても、権利の性質上日本国民のみを対象としているものを除き外国人にも保障が及ぶと解する。
生存権の性質について、財政的な制約があるうえ、国家に対して積極的な措置を求める社会権的な性質の権利であることから、権利の性質上当然には外国人を対象とはしておらず、日本国民を対象としているとして、保障を認めないとの反論がありうる。 もっとも、かかる権利は、人間らしく生きるために認められたものであり、これはいかなる国家に生まれようとも保障されるべき前国家的なものであるから 、日本国民のみを対象とするとはいえない。 仮に、外国人に一切生存権を保障しないとすると、国連人権規約A規約11条に反し、国際協調主義に悖るため、25条1項の趣旨に反しうる。それゆえ 、外国人への生存権も、性質上日本国民のみを対象としたものではなく、外国人にも保障されると解する。
⑵ 制度形成・運用上の問題
ア 主張
生活保護法1条および2項の運用上外国人に対し、日本国民と別異に取り扱うことは、日本国民と同程度の保障を志向する憲法25条1項・14条1項に反する。
イ 反論と私見
(ア) 想定される反論
生存権は外国人にも保障されるべき性質の権利であるとしても、生存権をいかなる制度の下、具体的に保障するかについては、立法府の広範な裁量に委ねられている。したがって、外国人について、生活保護法の適用対象とならないとしても、憲法上の問題は生じない、という反論が考えられる(反論①)。
(イ) 反論①について
たしかに、生存権を保障するといっても、方法は様々であり、また、生存権を実質的に保障するには、一定の財政支出を当然に伴うから、国家の財政政策的な判断を要する。
したがって、生存権を具体化する制度形成過程には、立法府の裁量が認められ、その判断が尊重される。しかし、生存権の理念を受けて、生活保護法という形で具体化されている以上、生活保護法の規定を解釈するに当たっては、憲法25条1項その他の憲法の規定の趣旨に沿うようになされなければならない。このことは、生活保護法1条が「憲法25条に規定する理念に基き」と規定していることかも読み取れる。そうであるならば、制度形成上の裁量を認めるとしても憲法問題は生じ得る。
本件では、たしかに、生活保護法1条は「国民」をその保護対象としており、外国人を排除しているとも思える。しかし、生活保護法の解釈において、憲法25条1項およびその他の憲法の規定の趣旨を読み込むとすれば、外国人に係る生存権保障の有無について、「国民」のという憲法第3章表題の文言にかかわらず、保障されると解しているところ、 生活保護法1条の保護対象を 日本国民 に限定して解釈することは、憲法25条1項の趣旨に反し許されない。
したがって、上記反論は失当であり、生活保護法の保護対象に外国人が含まれないという制度形成およびその運用は憲法25条1項に違反する。
以上