6/30/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
明治大学法科大学院2021年 商法
設問1
1. Aの責任
Aは、会社法(以下略)52条1項の出資の不足額を支払う義務を負わないか。
A所有の本件土地は現物出資財産として定款に記載されている(28条1号)ところ、本件土地の価格が定款に記載された価格に著しく不足している。したがって、Aは本件不足額を会社に対して支払う義務を負う(52条1項)。
免責の可否について検討するに、Aは「第28条第1号の財産を給付した者」に該当するから、免責は認められない(同条2項かっこ書き)。
2. Bの責任
Bは発起人であるから、Aと連帯して会社に対して本件不足額を支払う責任がある(52条1項)。そして、検査役の調査を経ていないため、52条2項1号による免責は認められない。
しかし、本件では弁護士Cによる証明(33条10項3号)及び不動産鑑定士による鑑定評価(同号かっこ書き)を受けており、検査役を選任しなくてよい(33条10項柱書)。そして、Bは本件土地の土壌汚染の事実を知らなかったのであるから、「注意を怠らなかった」場合に当たるといえ、52条2項2号による免責が認められる。
よって、Bは責任を負わない。
3. Cの責任
弁護士Cは、33条10項3号の証明をした者に該当するからABらと連帯して本件不足額を会社に対して支払う義務がある(52条3項)。もっとも、証明をするについて注意を怠らなかったことの証明に成功した場合は免責される(52条3項ただし書き)。
設問2
1. Aに対する請求
⑴ XはAに対して429条1項に基づき損害賠償請求をすることができるか。
同項は、株式会社が経済社会において重要な地位を占めていること、しかも株式会社の活動はその機関である役員等の職務執行に依存するものであることにかんがみ、役員等に法定の特別責任を課して第三者の保護を図ったものと解すべきである。そうだとすれば、同項による責任は不法行為責任とは独立の責任であり、①役員等の会社に対する任務懈怠、②①についての悪意または重過失、③会社に損害が生じ、ひいて第三者に損害が生じたこと(間接損害)または直接第三者に損害が生じたこと(直接損害)、④①と③との間の相当因果関係が認められれば、同項に基づく請求が認められる。
⑵①
まず、Aは取締役であるから「役員等」に当たる(423条1項)。
次に、取締役は会社に対して善管注意義務(330条、民法644条)と忠実義務(355条)を負う。その一内容として法令遵守義務がある。
取締役は「多額の借財」を行うためには取締役会決議を要する(362条4項2号)ところ、Aは取締役会の決議を経ることなく多額の資金を借り入れている。このことからAには法令遵守義務違反が認められ、任務懈怠があるといえる(①充足)。
⑵②
Aは銀行からの資金の借り入れが「多額の借財」に当たることを認識しえたにもかかわらず、取締役会決議を経ずに「多額の借財」を決定しているから、少なくとも重過失は認められる(②充足)。
⑶➂④
他の取締役は、Aが進めていた新規事業のリスクが大きいことを認識していた。そのため、Aが取締役会に借り入れについて諮っていれば、取締役会の決議が得られず、Aは借入を断念した可能性が高いといえる。よって、任務懈怠がなければ損害が発生しなかった可能性が高いから、任務懈怠と損害発生の因果関係も認められる(➂④充足)。
⑷ したがって、XはAに対して429条1項に基づく損害賠償請求をすることができる。
2. Bの責任
⑴Bは善管注意義務としての他の取締役の監視監督義務を負うところ、Aに法令遵守義務違反があることから、監視監督義務に違反した任務懈怠が認められる。そこで、XはBに対して、429条1項に基づく損害賠償請求をすることが考えられる。
⑵ここで、BはAの任務懈怠責任が行われた令和元年11月の時点で既に取締役を辞任していることから、「役員等」(429条1項)に当たらない。また、登記義務者でないから、「不実の登記をした者」にも当たらず、908条2項の直接適用も認められない。
しかし、外観理論という908条2項の趣旨に照らし、会社代表者に対して退任登記を申請しないことにつき明示的に承諾をした場合など、虚偽の外観を作出するに関与していると評価できるような特段の事情がある場合には、908条2項を類推適用し、退任した取締役も責任を負うと解するべきである。
本件では、Bは速やかに辞任登記をするようAに要求していた。そのため、辞任登記を申請しないで不実の登記を残存させることにつき明示的に承諾を与えていたなどの特段の事情はない。
⑶したがって、Bは「役員等」に当たらないため、取締役としての損害賠償責任を負わない。