5/19/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
東北大学法科大学院2025年 刑事訴訟法
設問1
1. Pらは、逮捕状の呈示なくXを逮捕したうえ、緊急執行の手続きをとっていない。そこで、本件鑑定書は、違法収集証拠として、証拠禁止に該当するために証拠能力が否定されないか。
⑴まず、明文の規定はないが、①適正手続(憲法31条)、②将来の違法捜査の抑制、③司法の廉潔性という3つの要請から、違法に収集された証拠の証拠能力は否定されうると解する。ただし、軽微な違法があった場合にまで証拠能力を否定すると、真実発見の要請(1条)に反する。そこで、①証拠物の押収等の手続に令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、②証拠として許容することが将来における捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合に証拠能力が否定されると解する。
⑵本件でみるに、確かにPは、Xに対して任意の尿検査を求め、Xもこれに応じている。また、緊急逮捕には、①死刑・無期または長期3年以上の拘禁刑に当たる罪であること、②十分な嫌疑があること、③緊急性が認められることが必要とされる(210条)。覚醒剤使用は長期3年以上の拘禁刑に該当し(覚醒剤取締法41条の3第1号、19条)、Xの左腕に真新しい注射痕のようなものが認められたことから、十分な嫌疑がある。また、覚醒剤は代謝によって証拠が散逸するおそれがあるため、緊急性も認められる。したがって、緊急逮捕の要件は充足している。そのため、尿の採取手続自体には、違法性は認められない。
しかし、Xに対する本件逮捕手続は令状なく行われたもの(199条1項)として違法である。確かに、Xは尿検査については任意に応じているものの、かかる違法逮捕がなければXの身柄は拘束されておらず、注射痕の発見にも至らなかったと考えられることから、本件違法逮捕と当該証拠との間には密接な関連性があるというべきである。
また、Pらは本件逮捕状をXに対して呈示していないにもかかわらず、逮捕状を呈示したとの虚偽の通常逮捕手続状を作成しており、違法手続を糊塗しようとする意思が伺えるものであるから、令状主義を潜脱する意図を有するものとして違法の重大性は大きい。
さらに、警察官が逮捕状を携行せずに逮捕に及ぶ事態は少なからず生じうるものであり、これを是認することは将来の違法捜査を助長する危険がある。
⑶したがって、本件では、令状主義の精神を没却する重大な違法が存在し、かつ、それを証拠として許容することは相当でないといえる。
2. よって、本件鑑定書は違法収集証拠として証拠能力が否定される。
設問2
1. 本件覚醒剤は、本件鑑定書の派生的証拠にあたる。そこで、証拠能力が否定されないか。
⑴まず、派生的証拠の証拠能力の有無は、先行手続の違法の重大性、両証拠間の関連性の程度、派生的証拠の重要性等諸般の事情を総合的に考慮して判断すべきである。
⑵本件において、先行手続である逮捕手続については、上記のとおり重大な違法性が認められる。
ここで、本件捜索差押えは、本件鑑定書を主要な疎明資料として発付された捜索差押許可状②に基づいてなされており、本件覚醒剤は先行手続により得られた証拠との密接な関連性が認められるとも思える。
しかし、本件捜索差押えそれ自体については、捜索差押許可状に基づき適法に行われており、手続きの違法性は希釈化されているといえる。また、本件鑑定書はXが任意に応じた尿検査に基づき作成されており、先行する違法な逮捕手続きがなかったとしても不可避的に発見されていたと考えられる。
さらに、覚醒剤事案においては証拠隠滅が容易であるため、客観的な物証である覚醒剤の重要性は高いといえる。
2. よって、本件覚醒剤の証拠能力は否定されない。
以上