11/22/2023
The Law School Times【ロー入試参考答案】
東北大学法科大学院2022年 憲法
1. 設問1
一元的内在制約説は、13条後段の「公共の福祉」を人権相互の矛盾・衝突を調整するための実質的公平の原理であると定義し、それは憲法規定にかかわらずすべての人権に論理必然的に内在しているとする。すなわち、かかる説によれば「公共の福祉」はすべての権利を規制する原理となる一方で、権利の性質に応じて権利の制約の程度が異なると解されている。
この説によると、公共の福祉は、自由権を各人に公平に保障するための制約を根拠づける場合には、必要最小限度の規制のみを認め、社会権を実質的に保障するために自由権の規制を根拠づける場合には、必要な限度の規制を認めるものといえる。
2. 設問2
先行する学説の一つとして、一元的外在制約説がある。一元的外在制約説は、「公共の福祉」の指示対象を、人権を制約する理由となる法益(反対利益)とした上で、その具体的内容について、公益や公共の安寧秩序と言うような抽象的な最高概念として捉えていた。この学説に対しては、基本的人権よりも公益である「公共の福祉」が常に優先するという思考に結びつき、基本的人権の保障について法律の留保を認めない意義の大半が失われることになるとの批判があった。
先行する学説の二つ目として、内在・外在二元的制約説がある。内在・外在二元的制約説は、憲法13条後段の「公共の福祉」規定の法的性格を否定し、憲法22条・29条の「公共の福祉」規定についてのみ法的性格を肯定する。そして、自然的人権と社会的人権の区別を前提として、外在的制約が認められる人権は経済的自由権と社会的人権に限られ、その他の自然的人権には内在的制約のみが認められるとする。しかし、この説については、憲法13条後段を訓示規定であるとすれば、同条を新しい人権を基礎付ける人権規定と解釈することができないことに加え、社会的人権を保障する憲法25条や26条には「公共の福祉」規定が存在せず、外在的制約の根拠が明らかでないことに対する批判があった。
これらの学説に対して、一元的内在制約説は、憲法13条後段の「公共の福祉」を反対利益と人権を調整する実質的公平の原理であると位置付ける。その上で、新たに「自由国家的公共の福祉」と「社会国家的公共の福祉」の区別を導入する。また、社会国家的公共の福祉は、社会的人権に対する制約ではなく、市場経済の弊害を除去・緩和するための経済的自由を制約する原理として位置付けがなされているため、社会権と経済的自由との衝突の調整原理であると説明することが可能となる。
このような理解は、憲法13条後段の法的性格を認めつつ、権利の性質に応じて制約の程度が異なると理解することが可能となる点で、憲法的価値の観点から優れている。また、憲法13条後段の「反しない限り」という文言と整合的である点や、憲法13条後段と憲法22条・29条の「公共の福祉」を統一的に解釈することができる点で、条文解釈の観点からも優れている。
以上