2/29/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
筑波大学法科大学院2023年 公法
1. 法21条1項が「引き続き3箇月以上登録市町村等の住民基本台帳に記録されている」ことを選挙人の要件(以下、本件要件とする)としている点は、Xの選挙権を侵害するものであって、違憲ではないか。
⑴ 憲法(以下、略)は、国民主権原理(前文、1条)の下、代表民主制を採用している(前文1段、43条1項)。そして、15条1項は国民に公務員の選定及び罷免権を保障している。さらに、憲法44条1項但書は、選挙人資格の差別禁止を定めている。とすると、憲法上国民には選挙権が保障されているといえる。
したがって、200X年5月23日に帰化したXによる同日以降の投票行為は、選挙権の行使といえるから、15条1項、同条3項、43条1項及び44条但書により憲法上の権利として保障されているといえる。
⑵ 本件要件の存在により、Xは200*年7月19日の参議院議員通常選挙で投票することができなかったから、Xの選挙権に対する制約が認められる。
ア 上記権利は無制約のものではなく、公正な選挙(前文1項)の下、制約を受ける。確かに、選挙制度の仕組みの決定に際しては、立法府に裁量が認められる上、日本国内に居住する外国人の選挙権の行使については、国内に居住する日本国民に比して様々な社会的、技術的な制約を伴うから、かかる立法府の裁量は広汎なものになるとして、憲法適合性の判断は厳格に行うべきではないとも思える。しかし、選挙権は、国民の国政への参加を保障する権利として、代表民主制(前文1段、43条1項)の根幹をなす重要な権利であるだけでなく、本件では、Xによる選挙権行使のそれ自体が制限を受けていることから、その規制態様は選挙権の行使方法に対する規制に比して、非常に強いものといえ、上記判断は厳格に行うべきである。
イ 以上より、自ら選挙の公正を害する行為をした者等の選挙権について一定の制限をすることは別として、国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許されず、国民の選挙権又はその行使を制限するためには、そのような制なしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であるようなやむを得ないと認められる事由が存する場合に限り、正当化されると解する。
ウ 法21条1項は、居住関係の公証を一元化し、複数箇所における同一人の選挙行使を防止し、選挙の公正を実現する目的で設けられており、同項の撤廃の必要性及びその可否が国会において過去に議論され或いはその法案が提出されたとの事情はないことからすれば、同項が本件要件を定めているという制限なしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であるようなやむを得ない事由はあるとも思える。しかし、帰化前から数年間にわたり一度も転居することなく現住所に居住し続けた外国人については、帰化前に届出(出入国管理及び難民認定法第19条の7第1項および第19条の9第1項)を行えば、同人が居住する市区町村はそのような事実をかねてから把握できるはずであること、同法の制定当時と異なりコンピュータにより大量の情報を迅速に処理することが可能であること、さらに、最近の帰化件数が各市区町村レベルでは数件あるかないかに過ぎないことからすると、帰化のため新たに住民基本台帳に記録された者につき3か月もの事務処理期間を確保することは、もはや無用となっており、法21条1項が本件要件を定めているという制限なしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であるようなやむを得ない事由が存するとはいえない。
2. よって、法21条1項が本件要件を定めている点は、憲法に反し違憲である。
以上