5/11/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
明治大学法科大学院2024年 民法
Ⅰ
1. EのAに対する請求の根拠は、所有権(206条)に基づく返還請求権である。
2. Eは競売によって甲土地を買い受けているから、甲土地につきEに所有権が認められる。また、Aが甲土地を利用しているから、Aの占有が認められる。
3. そこで、Aは甲土地を時効により取得した(162条2項、145条)と反論している。
Aは1990年4月1日と2023年4月1日に甲土地を「占有」しているから、186条2項によりその間の占有が推定され、これを覆す事情もないから、「20年間」の占有が認められる。
「平穏」「公然」「善意」については、186条1項により推定され、これを覆す事情もないから、各要件が認められる。
「所有の意思」とは、外形的客観的に決せられるところ、Aは売買契約に基づいて占有しているから、自主占有であって「所有の意思」が認められる。
また、Aは時効援用の意思表示をしている。
よって、時効取得の要件を満たす。
⑴もっとも、所有権は登記をしなければ第三者に対抗することができない(177条)ところ、Aは甲土地を買い受けてから登記を移転していないから、登記をしているCに対して登記なくして対抗できないのではないか。
取得時効は原始取得であり、その効果は遡及効(144条)である。もっとも、実質的には、時効完成時に物権変動を観念できるから、占有者と譲受人は譲渡人を起点とした二重譲渡類似の関係に立つといえる。また、占有者は、時効完成後は登記を備えられるのだから速やかに登記を具備すべきであり、これを怠ったときにはその不利益を甘受すべきである。
そこで、譲受人は、占有者との関係で時効完成後の譲受人は登記の欠缺を主張する正当な利益を有する「第三者」(177条)にあたり、登記なくして対抗できないと解する。
⑵よって、Aは1990年4月1日を起算点とすると2010年4月1日に時効が完成するが、Cは2015年5月1日に抵当権設定登記をしているから、AはCに対して甲土地の時効取得を主張できない。
4. では、抵当権が設定された2010年5月1日を起算点として時効取得を主張できないか。
⑴不動産の取得時効の完成後、所有権移転登記を了する前に、抵当権が実行された場合、占有者は自らの所有権の取得を買受人に対抗できない。そうすると、抵当権設定登記がされた時から、占有者と抵当権者との間に、占有者が権利を取得すると抵当権者が権利を失うという関係が生じる。よって、抵当権の存在を認容していたなど抵当権の消滅を妨げる特段の事情がない限り、占有者は抵当権設定登記時を起算点とした時効取得を主張でき、その結果抵当権は消滅する。
⑵本問では、Aが抵当権の消滅を妨げる特段の事情は存在しないから抵当権が消滅するとも思える。しかし抵当権設定時を起算点とすると、時効が完成するのが2020年5月1日であるが、Eが登記をしたのが2016年6月1日であるから、Eは時効完成前の第三者となる。
⑶占有者からみて時効完成前の譲受人は、第三者ではなく物権変動の当事者であるから対抗関係に立たない。よって、占有者との関係て時効取得前の譲受人は、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する「第三者」ではなく、登記なくして時効取得を主張できる。
⑷したがって、AはEに対して2010年5月1日時効取得を主張できる。
5. 以上より、EのAに対する主張は認められない。
Ⅱ問題1
1. そもそも、Cの1000万円の支払請求は、AB間の請負契約(632条)に基づいて請負人Aが取得した報酬債権の一部である本件債権をAから譲り受けた(466条)として、本件債権を行使するものである。
AB間の請負契約は、仕事と目的物が特定された適法なものであり、Aは仕事を完成させている。そして、CはAから本件債権を適法に譲り受け、Bに内容証明郵便が到達しているから、債務者対抗要件(467条2項)を備えている。
2. 以上を前提にBからの反論を検討するに、Bは①修補請求(562条1項本文)との相殺(505条)②代金減額請求をすることが考えられる。
3. ①について
⑴「契約の内容に適合」するかは、契約当事者が特に合意した内容及び取引上の社会通念に照らして判断する。
⑵本件建物は、天井や床にゆがみ等の欠陥があり、居住に支障を生じるものではないが、社会通念上、価値が下がるほどの欠陥があった。本件建物はそのまま放置すれば本件建物の価値を2割程度下げるものであったから、「引き渡された目的物」が「品質‥に関して契約の内容に適合しない」といえる。また、本件欠陥は、Bの責めに帰すべき事由によるものではない(同条2項)。
よって、履行の修補請求をできる。
⑶もっとも、本件欠陥は債権譲渡の後の事情であるから、「対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由」(468条1項)にあたらず、Bの修補請求は認められないのではないか。この点について、「事由」の範囲を狭く解すると、債権譲渡通知のみによって債務者を不利な地位に置くことになりかねない。そこで、「事由」とは、既発生の抗弁や抗弁権の発生原因にとどまらず、抗弁権発生の基礎となる事由も含まれると解すべきである。
本問では、修補請求の欠陥は対抗要件具備後に判明しているが、修補請求の基礎となる請負契約は2月1日に締結されているから、対抗要件具備時までに生じたといえる。
⑷ 以上より、①の反論は認められる
4. 以上のように、契約不適合が認められるから、催告後相当期間修補債務が履行されない場合には、代金減額請求(反論②)が認められる。
Ⅱ問題2
1. Bが自ら業者を探して修補をさせた場合、Bは損害賠償請求(564条、415条)と相殺(505条1項)を主張する。
Aは修補請求に応じなければいけないという債務を負っているのに対し修補に応じていないため、「債務者がその債務の本旨に従った履行をしない」といえ、それによりBは自ら業者を探して修補してもらっているため(「によって」)、修補代金が「損害」となる。また、Aが修補に応じない理由についてAの責めに帰すべき事由によるものではないという事情はない(同条但書)。
よって、損害賠償請求は認められる。
2. もっとも、請負契約における損害賠償請求権と報酬支払請求権が相殺できるか問題となる。
損害賠償請求権と報酬支払請求権は同時履行の関係にある(533条かっこ書)。そうすると、自働債権に抗弁権が付着しているものとして、相殺は許されないのではないかとも思える。
たしかに、原則として自働債権に抗弁権が付着しているときは相殺することができない(505条1項ただし書き)。しかし、例外的に、自働債権と受働債権が互いに同時履行の関係にある金銭債権の時には、同じ原因に基づく金銭債権であるから、現実に履行する必要はないし、両債権の相殺は実質的に代金減額請求の意味を有し、相殺を認めた方が清算方法として合理的なので、相殺が許されると解する。
損害賠償請求権と報酬支払請求権は、上記の通り互いに同時履行の関係にあるので、相殺できる。
3. したがって、Bは損害賠償請求権とCからの請求権を相殺すると反論することができる。
以上