11/30/2023
The Law School Times【ロー入試参考答案】
中央大学法科大学院2023年 民法
設問1
1. Cは、Aに対し不法行為に基づく損害賠償請求(民法(以下、略)709条)として200万円の支払いを請求できないか。
⑴
ア まず、Aは、本件事故によりハンドルの操作コントロールを失ったため、交差点付近の道路脇の歩行者用道路に乗り上げ、自動車を歩行者用道路を歩いていたCに衝突させ、Cを負傷させており、Cの身体という「他人の権利…を侵害した」といえる。
イ 次に、「過失」とは、結果発生の予見可能性がありながら、結果発生を回避するために必要とされる措置を講じなかったことをいう。これをみるに、Aは、すでに信号が黄色になっていたため前方から右折車が来ることは予見できた。また、当該交差点は見通しのいい交差点であり右折車の存在を容易に確認することができた。したがって、Aは、衝突という結果を回避するために右折車の存在を確認するという措置をとることが義務付けられていたのにこれを怠っており「過失」が認められる。
ウ そして、Cには、本件事故「によって」負傷し、その治療費として200万円を出費しており、Cには200万円という「損害」が認められる。
⑵ 以上より、Cは、Aに上記請求ができる。
2. 次に、Cは、Bに対して不法行為に基づく損害賠償請求として200万円の支払いを請求できないか。
⑴
ア まず、Bは、本件事故を生じさせており、これによってAの自動車をCに衝突させているからCの身体という「他人の権利…を侵害した」といえる。
イ また、Bの右折時はたしかに黄色信号であったが、黄色信号でも駆け込みで直進してくる車がいることは十分予見できる。そして、上記のとおり、本件事故のあった交差点は、見通しのいい交差点であり、前方を直進してくる車の有無を確認することは容易であった。したがって、Bには、衝突という結果を回避するために前方を確認する措置をとることが義務付けられるにもかかわらず、これを怠っており「過失」が認められる。
ウ そして、Cには、上記のとおり200万円の「損害」が生じており、本件事故との因果関係も認められる。
⑵ 以上より、CはBに上記請求ができる。
3. なお、AとBが719条1項の適用を受けるかが問題となるも、被害者保護の観点から「共同」を広く解するべきであり、主観的な共同までは要せず、客観的関連共同があれば「共同」の要件を満たすと考える。そのため、本件では、AとBによる衝突事故によってCに損害が生じている以上、AとBに客観的関連共同が認められる。
よって、AとBは、Cの損害200万円全体について連帯して責任を負うことになり、Cは、AB両名に200万円全額の請求をすることができる。
設問2
1. Cは、D社に対し715条1項によって200万円の損害賠償請求ができないか。
⑴
ア まず、Aは、D社の従業員であり、D社の代表取締役Eの送迎の業務を担当していたから、D社は、D社の事業のためにAを使用していたといえ「ある事業のために他人を使用する者」にあたる。
イ もっとも、本件事故は、AがEを会社からEの自宅へと送り届けた後にAの自宅へ戻る途中で急な体調不良のため薬が必要になり、自動車で薬局に立ち寄った後、自宅へ戻る途中で起こったものである。そのため、事業の執行そのものではなく、「事業の執行について」Cに損害を与えたといえないと思える。
しかし、被害者の信頼保護の観点から、「事業の執行について」には、その行為の外形から観察して、あたかも被用者の職務の範囲内に属するとみられる場合を包含すると解すべきである。
これをみるに、本問でAは送迎の帰宅途中であり、さらに送迎ルート上に薬局がなかったため、衝突した交差点はあらかじめ決まった送迎ルートからは大幅に離れていた。また、Aの運転する車には、D社名の表記などの社用車であるとわかる表示はなかった。そのため、外形的にも、Aの職務の範囲に属するとは考えられないとも思える。
しかし、内規の内容は外部の者には明らかではなく、送迎ルートの存在をCが認識することは困難である。そのため、内規で定められた送迎ルートから大きく外れていたからといって外形的にも職務の範囲内と認識されないとは言えない。また、たしかにAの運転する車には、D社名の表記などの社用車であるとわかる表示はなかったが、Aの運転する車は、一般的な乗用車ではなく、一般的に役職者の送迎に使われるタイプの黒のセダンであり、当該車を運転するAが役職者の送迎の最中であったと外部から認識されうる状況にあったといえる。
以上より、本件事故時のAの運転は、その行為の外形から観察して、あたかも被用者の職務の範囲内に属するとみられるといえAは本件事故によって「事業の執行について」Cに損害を与えたといえる。
ウ また、本件では、D社が、Aの選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとの事情もなく、本件事故は相当の注意をしても損害が生ずべきであった場合とは言えない(715条1項但書)。
エ 以上より、CはD社に対し上記請求ができる。
第3 設問3
1. D社は、Bに対して50万円の求償請求ができるか。442条1項の適用の有無が問題となる。
2. この点、判例は、損害賠償債務を不真正連帯債務として、自己の負担部分を超えた場合に限り他の共同不法行為者に対して求償請求ができるとしている。この判例に従えば、本件でD社は、自己の負担部分は100万円であるから100万円の弁済のみでは自己の負担部分を超えたとは言えず、Bに対する求償請求は認められないことになる。
もっとも、当該判例は、改正前民法下における判例であり、改正民法は、連帯債務について相対的効力の原則を強化し、不真正連帯債務を民法の規定に取り込もうとしつつ、442条1項によって、弁済額が負担部分を超えたかにかかわらず、弁済額を基礎とした求償を認めることを明記しており、民法改正後は、共同不法行為における損害賠償債務であっても他の連帯債務と区別することなく442条1項の適用を受けるとも思える。この場合には、D社は負担割合に応じてBに対し50万円の求償をできることになる。
しかし、共同不法行為について規定する719条1項は、複数人で同一の債務を保証する通常の連帯債務と異なり、本来別々の行為によって生じた損害賠償責任を被害者保護の観点から連帯責任とした規定である。したがって、求償関係についても本来は別々の責任であるという観点を加味する必要がある。
したがって、改正民法下においても、共同不法行為者間の求償関係については442条1項の適用を受けず、上述の判例が妥当すると考える。
3. 以上より、本問では、D社は、自己の負担部分を超えた弁済をなしていないため、Bに対し50万円の求償請求をすることはできない。
以上