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2024年 刑法 北海道大学法科大学院【ロー入試参考答案】
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2024年 刑法 北海道大学法科大学院【ロー入試参考答案】

6/27/2025

The Law School Times【ロー入試参考答案】

北海道大学法科大学院2024年 刑法

第1問

1. Xの行為に殺人罪(刑法(以下法名省略)199条)が成立するか。

⑴まず、本件では、Xは理髪用のハサミという凶器で、Aの腹部を突き刺すという、死の結果の現実的危険性のある行為を殺意を持って行っている。
 そして、その行為によって、Aは腹部に傷害を負い、それを原因をする出血多量で死亡という結果が生じた。
 また、Xは行為の際に死んでもいいと思っており、死の結果を認識認容していたといえるので、故意(38条1項本文)も認められる。
 したがって、Xの行為は殺人罪の構成要件に該当する。

⑵もっとも、Xは、AがXに対して殴る蹴るの暴行を加えてきたため、それから身を守るために前述の行為を行ったといえ、正当防衛(36条1項)が成立しないか。

ア まず、「急迫不正の侵害」があったといえるか。
 本件では、AはXに対して、実際に殴る蹴るの暴行を加えているため、現にXの身体という法益に対する侵害がある。
 ここで、XはAにより襲撃されると考え、反撃できるように理髪用のハサミをズボンの後ろポケットに入れており、Aの襲撃を事前に予測していることから、「急迫不正の侵害」がないとも思える。
 しかし、Xは、Aから襲撃された際に反撃できるようにハサミを用意していたに過ぎず、積極的にAを加害する意思はなかったものであるため、「急迫不正の侵害」は認められる。

イ 次に、防衛の意思が認められるか。防衛の意思の要否及び内容が問題になる。

(ア)この点について、違法性の実質は、社会的相当性を逸脱した法益侵害・危険性の惹起にあり、行為者の主観は、社会的相当性の有無に影響を与える。そこで、防衛の意思が必要であり、本能的な防衛行為にも正当防衛を認めるべきであるから、その内容としては、急迫不正の侵害を認識しつつ、これを避けようとする単純な心理状態で足りる。

(イ)これを本件についてみると、本件では、確かにXは死んでもいいと思って本件の行為を行っているが、XはAからの急迫不正の侵害を認識したうえで、それを避けようとすると単純な意思は有しており、その意思がある以上、攻撃的意思が併存していても防衛の意思は認められる。

ウ また、本件における防衛行為は「やむを得ずにした行為」といえるか。
 本件では、XとAは体格が同程度であるにも関わらず、素手で暴行に及んだAに対してXは、ハサミという刃物の凶器を使って反撃しており、また、腹部という身体の枢要部に対してハサミを刺すという生命侵害の危険性が極めて高い行為を行っており、かかる行為はやむを得ずにした行為とはいえず、Xの防衛行為が相当であるとはいえない。

エ したがって、Xの行為は相当性を欠くとして正当防衛は成立しない。

⑶もっとも、上記行為については過剰防衛(同条2項)が成立する。

2. したがって、Xには殺人罪が成立し、過剰防衛として、任意的減免がなされる。

第2問

1. Xの行為に名誉毀損罪(230条1項)が成立するか。

⑴まず、Xは不特定多数による認識可能性のある新聞の記事に掲載しているため、「公然と」、A教授はB社から総額1000万円の賄賂を収受しているとの「事実を摘示し」ており、それによってA教授の社会的信用性を低下させるおそれが生じているため、「名誉を毀損」させたといえる。したがって、名誉毀損罪の構成要件を充足する。

⑵もっとも、公共の利害に関する場合の特例(230条の2第1項)から罰せられないのではないか。
 Xは、A教授が賄賂を受け取ったという事実を新聞記事として掲載・頒布した。しかし、その真実性の証明には失敗している。
 ここで、公共性が疑われる報道において真実とされる事実の摘示が証明されなかった場合、名誉毀損罪が成立するかどうか、刑法230条の2の解釈が問題となる。

ア この点について、公共性・公益性・真実性がある場合、名誉毀損の故意が阻却されると考える故意阻却説については、構成要件的故意の意味を過度に狭く解釈しており、一般的な故意論と離れているため、採用できない。
 また、同条は、構成要件・故意・違法性すべて成立するが、230条の2は処罰をしないという特別規定として機能すると考える処罰阻却事由説については、条文文言を形式的に捉えすぎており、230条の2が名誉毀損の例外的正当化根拠として機能するという実質を反映できていないため、採用できない。

イ そこで、230条の2は違法性阻却事由を規定したものであり、真実性の誤信について確実な資料、根拠に照らし相当の理由がある場合には、真実性の証明はないとして違法性は阻却されないものの、犯罪事実の認識がなかったものとして責任故意が阻却されると解する。
 本件では、Xは徹底した調査を実施し、取材に基づいて収集した確実な資料・根拠に照らして上記事実が真実であると確信しており、真実性の誤信について確実な資料、根拠に照らし相当の理由がある場合にあたる。

ウ したがって、責任故意が阻却される。

2. よって、Xの行為に名誉毀損罪は成立せず、Xは何らの罪責を負わない。

以上



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