5/12/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
東北大学法科大学院2025年 刑法
1. 甲の罪責
Xの、Vの本件バッグを奪い、Vの顔面を右手拳で一回強く殴打し、また、YとともにYがVの腹部を右足で思い切り蹴り上げ、Vに口腔内裂傷の傷害を負った行為に強盗致傷罪(刑法240条前段)は成立するか。
⑴まず、強盗致傷罪は「強盗」が人を負傷させた時に成立するところ、本件で「強盗」とは事後強盗(238条)であるため、Xの行為に事後強盗罪が成立するか検討する。
ア 事後強盗罪は、窃盗が犯す犯罪であるため、Xの行為に窃盗罪(235条)が成立するか検討する。
本件バッグはV所有のものであり、また、Vは本件バッグを本件ベンチに置いたまま本件ベンチを立ち上がり、本件バッグに背を向けているが、Vは本件ベンチから5メートルしか離れておらず、本件ベンチに本件バッグがあることを認識しているため依然としてVの占有があると言えるため、本件バッグは「他人の財物」に当たる。
「窃取」とは、他人の占有する財物を、占有者の意思に反して、自己または第三者の占有に移転させることをいうところ、Xは本件バッグを手にとっているため、Vの意思に反し本件バッグをXの占有に移転させており、Xの行為は「窃取」に当たる。
Xに窃盗の故意(38条1項本文)があり、本件バッグの中の金目のものを自己のものにしようと考えているのであるから不法領得の意思も認められる。
よって、Xの行為に窃盗罪が成立する。
⑵次に、後述の通りXの行為に「暴行」が認められるが、その「暴行」はVが本件バッグを取り返そうとするのを防ぐためであるから、「財物を得てこれを取り返されることを防」ぐ目的でなされたものである。
⑶Xの行為に「暴行」が認められるか。
まず、XとYに共同正犯(60条)が成立するかを検討するに、YはXに加勢して、金目のものを自分たちのものにしようと考えXに対し「助けに来たぜ。」といい、XはYの意図を理解してYに対し「おう、助かったぜ。」と答えているのだから、共謀が成立している。そして、「暴行」とは、反抗を抑圧するに足りる有形力の行使をいうところ、かかる共謀に基づき、XはVを地面に投げ飛ばし、YはVの腹部という身体の枢要部を思い切り蹴り上げており、XYが若くて体格のいい若者2人であり、実際にVは動かなくなっていることから、XYの行為は反抗を抑圧するに足りる有形力の行使と言えるため、「暴行」に当たる。よって、共謀に基づく実行行為もあるといえ、XとYに共同正犯が成立する。
⑷事後強盗罪において「暴行」は窃盗の機会になされる必要があるところ、Xが本件バッグを持って立ち去った直後にVに気づかれ、その直後に上記の「暴行」がなされているのであるから、上記の「暴行」は窃盗の機会になされていると言える。
⑸Vは口腔内裂傷という傷害を負っているところ、強盗致傷罪において負傷結果の原因となる行為は強盗の機会になされている必要があるが、本件ではどうか。
たしかに、Vの口腔内裂傷の原因行為たるXの殴打行為は、VがXよりも体格が優れ、また若く、またその行為があってもなおVはそれに怯まずXに立ち向かっていることから、反抗を抑圧するに足りる有形力の行使とは言えず、それ自体では「暴行」には当たらない。しかし、上述のXY暴行と時間的場所的に近接した行為であり、その目的も財物奪還阻止であるから上述のXY暴行と一連の行為と捉えることができるため、Xの殴打行為も上述のXY暴行と一連の行為として「暴行」に当たる。よって、Vの口腔内裂傷の原因行為たるXの殴打行為は強盗の機会になされていると言える。
⑹Xに同罪の故意があり、金目のものを自己のものにしようと考えているのだから不法領得の意思も認められる。
⑺以上より、Xの行為に強盗致傷罪が成立し、後述の通り事後強盗罪の限度でYと共同正犯が成立する。
2. Yの罪責
⑴窃盗に関与していないYが、Vの腹部を右足で思い切り蹴り上げた行為について、事後強盗罪の共同正犯(60条)が成立するか。
ア まず、事後強盗罪を窃盗罪と暴行・脅迫罪との結合犯と捉え、承継的共同正犯の問題として処理すべきとする見解がある。
しかし、事後強盗罪を結合犯と解してしまうと、事後強盗の目的を持って窃盗に着手した時点で事後強盗罪の未遂犯が成立することになりかねず、妥当でない。
そこで、事後強盗罪は窃盗犯人であることを身分とする身分犯であると解し、65条により処理するのが妥当である。
そして、65条の文言から、同条1項は真正身分犯に、同条2項は不真正身分犯に、それぞれ適用されると解する。
イ では、事後強盗罪は真正身分犯か、不真正身分犯か。
不真正身分犯であると解する見解もあるが、非財産犯である暴行・脅迫罪と財産犯で事後強盗罪の間に加重類型であるという性質を見出すことは困難である。
そこで、事後強盗罪は真正身分犯であると解する。
そして、非身分者も身分者を通じて身分犯の法益を侵害することは可能であるから、65条1項の「共犯」には、共同正犯も含まれると解する。
ウ したがって、上述の通り、共謀と共謀に基づく実行行為があるため、65条1項により、Yにも事後強盗罪の共同正犯が成立する。
⑵では、強盗傷害罪の共同正犯は成立するか。
ア 60条が「すべて正犯とする」として一部実行全部責任を定めるのは、他の共犯者によって引き起こされた法益侵害と因果性を有するためである。
そこで、共謀前の他の共犯者の行為を利用することで、結果について因果性を有する場合には共同正犯となる。
イ 本件では、負傷結果はXY共謀成立前のXの行為によるものであり、YがVを蹴り上げた行為によりVが傷害を負っていない以上、傷害結果についてYは因果性を有さないため、強盗傷害罪の共同正犯は成立しない。
⑶以上より、Yの行為につき、事後強盗罪が成立し、Xと共同正犯となる。
以上