6/20/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
岡山大学法科大学院2025年 刑事訴訟法
1. Kの行った、本件装置を作動させ音声を受信し、これを聞き取りつつ、30分間にわたって録音した捜査(以下「本件捜査」)は、「強制の処分」(刑事訴訟法197条1項ただし書)に当たるにも関わらず、必要な令状なく行っており(憲法35条)違法ではないか。そこで、「強制の処分」の意義が問題となる。
⑴「強制の処分」とは強制処分法定主義と令状主義の両面にわたり厳格な法規制に服させる必要があるものに限定されるべきである。また、承諾がある場合には権利・利益の制約を観念できない。
そこで、強制処分とは、個人の意思を制圧し、身体・住居・財産等の重要な権利・利益を実質的に制約する処分をいうと考える。
⑵本件捜査において、A男と思われるXアパート102号室の中の人が「この前の西口の件、分け前もらえた?被害者が警察を呼んだみたいだから、危ないかも。早くお金をもらって、そろそろやめたいな。」と、A男に嫌疑がかかっているO駅西口付近での強盗事件とA男との関連性を示唆するような会話をしており、誰も自身の犯した犯罪についての会話を他人に聞かれたくないと考えるのが通常である。本件捜査は、Xアパート居室内の人に知られることなく秘密裏に行われているので意思の制圧を直接的には観念できない。しかし、反対意思の形成機会を与えず、後述のようにプライバシーが保障されるべき居室内で自身の犯罪について話した会話を聞かれることは人の意思を制圧したものと同視できる。以上より、本件捜査はA男の意思を制圧していると言える。
また、本件捜査において、録音をしたのはXアパート102号室という個人のプライバシー権(憲法13条後段)が強く保障される住居(憲法35条1項)内である。住居への侵入を実質的に伴うものである。たしかに、同室の玄関扉に耳をつければ、同室内の音声は聞き取ることができる状況であったのであるが、公道から聞き取れるわけでもなく、また公道と同アパートの敷地は金網で仕切られ、居住者のプライバシーを守っていたのであるから、玄関扉に耳をつければ聞き取れることがA男のプライバシーを侵害していい理由にはならない。そして、住居についての権利は憲法で保障された重要な権利であるから、30分にもわたって居室内の音声を聞き録音した本件捜査はA男の重要な権利を実質的に制約する捜査である。
⑶よって、本件捜査は強制処分に当たる。
2. たしかに、本件捜査のような会話の無断の録音も、重大な犯罪であり、嫌疑が十分にあり、被疑事実に関連する会話が行われる蓋然性があり、録音以外の方法によってはその罪に関する重要かつ必要な証拠を得ることが著しく困難である場合には検証許可状に基づいて行うことが可能である。そして、本件捜査において、強盗という重大な犯罪であり、Vの供述や残された痕跡からA男に嫌疑がかかっており、Xアパートは強盗事件で目撃された犯人によく似た人物や、過去に強盗事件での前科がある者が多数出入りし強盗事件の拠点になっていると考えられていたのであるから、同アパートにおいてA男が強盗事件について話す蓋然性があり、A男に逮捕するだけの嫌疑は認められない状況にあったのだから録音以外の方法によってはその罪に関する重要かつ必要な証拠を得ることが著しく困難であったと言える。よって、検証許可状に基づき本件捜査をすることが可能であるが、Kはかかる令状を得ていない。
よって、本件捜査は違法である。
以上