2/29/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
九州大学法科大学院2023年 刑事訴訟法
2023年度 九大ロー 刑事訴訟法
問1
被告人と被疑者の間で弁護人選任権に関して制度的に異なる点は、選任できる弁護人の数である。
被告人の弁護人の数は、原則として制限されない。ただし、特別の事情がある場合は3人までに制限することができる(刑事訴訟法(以下略)35条、刑事訴訟規則(以下「規則」)26条1項)。
一方、被疑者の弁護人の数は、原則として3人までである。ただし、特別の事情がある場合はそれを超える数が許可されることもある(規則27条)。
問2
被告人と被疑者の間で弁護人等との接見交通権の保障の程度について異なる点は、接見指定の可否である。
39条3項では接見指定を行える条件を「公訴の提起前」と限定している。そのため、被告人とその弁護人との接見につき、当該被告事件の捜査の必要を理由として、日時等の指定をすることは許されない。なお、被告人が余罪について逮捕・勾留されている場合には、余罪を理由として接見指定され得る。
問3
1. 198条1項は、捜査機関による被疑者の取調べ権限を定めているが、被疑者が逮捕又は勾留中であるか否かによって、取調べ権限の強弱について違いがあるのか。
2. 身体拘束中であるか否かに問わず、共通して比例原則による規制は及んでいる。すなわち、任意の取り調べであっても、諸般の事情から「相当性」を欠く場合には違法とされることになる。
3. 一方、身体拘束中の場合、身体拘束中でない場合には許されない取調受任義務があったり身体拘束中でない場合には問題とならない余罪取調べの可否の問題があったりと取調べ権限の強弱について違いがあると考えられる。以下、それぞれについて検討する。
⑴ 取調受任義務の有無について
取調受任義務については学説対立があり、否定説の立場は、かかる義務を肯定すると、被疑者に供述義務はないと言っても実質的には供述を強いるのと異ならず、黙秘権(198条2項)も侵害することになること、198条1項は「取調室」への出頭規定ではなく「捜査機関」での出頭規定であるところ、同項但書はすでに捜査機関に身柄拘束されている被疑者には出頭・退出は問題とならない、すなわち、当然のこととして除いたものと解すべきであることなどを理由として、取調受任義務を否定している。
しかし、198条1項但書の反対解釈から、取調受任義務は肯定するのが素直であるし、被疑者に供述義務まで課すものではないから、黙秘権侵害には当たらず、そのように解したとしても問題はない。そのため、被疑者が身体拘束中である場合には被疑者に取調受任義務があると解するのが相当である。
⑵ 余罪取調べの可否について
身体拘束中の被疑者に対して余罪取調べをすることができるかどうかは、学説対立がある。身体拘束中でない場合には、この点について問題とならない。余罪取調ができるかどうかは、大きく分けて限定説と非限定説に分かれるが、これらも上記取調受任義務をめぐる見解の対立などとも絡んで一様ではない。
4. よって、身体拘束中であるか否かによって、上記のような取調権限の強弱についての違いが存在する。
問4
1. 身体拘束を受けていない被疑者が取調を受けている間に弁護人等から接見の申出があった場合に、弁護人等が立ち会った上で取調べを継続することを選択することは可能であるか。
2. 刑事訴訟法には、弁護人が取調べに立ち会うことについての明示的な規定はなく、否定されているわけではない。また、弁護人の立ち合いは取調官による違法・不当な取調を防ぎ、被疑者の供述に沿った供述調書を作成することに役立つことが考えられる。そのため、弁護人等が立ち会った上で取調べを継続することを選択することは可能であると解することが相当である。
3. もっとも、かかる選択は原則として可能と解するべきではないと考える。前述の通り、刑事訴訟法上に弁護人が取調べに立ち会うことについての明示的な規定はなく、選任した弁護人を取調に立ち会わせる権利があると当然に解されているわけではない。そして、現行制度の中では、実務上、検察官において、取調機能を損なうおそれや捜査の秘密が害されるおそれ等を考慮して、事案に応じて適切に判断されている。そのため、検察官の同意が得られた場合にのみ、例外的にかかる選択をすることができると解することが相当であると考える。
以上