6/2/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
広島大学法科大学院2024年 憲法
1. 本件規定は、「表現の自由」を保障した憲法21条1項に違反し違憲となるか。
⑴「表現」とは、人の思想を外部に表明することをいう。猥褻表現は、人の思想を外部に表明する行為であるから、形式的には、「表現」にあたる。もっとも、全ての猥褻表現を表現の自由として保障して、個別具体的に内容を審査して、制約が相当かされるかを検討すれば、萎縮的効果が大きく妥当でない。そこで、定義づけ衡量により、猥褻表現を明確に定義し、かかる定義に当たる表現は表現の自由として保障されないと考えるのが妥当であると考える。
そして、チャタレイ事件によれば、猥褻表現とは徒らに性欲を興奮または刺激せしめ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいい、「わいせつな…図画」(刑法175条1項)とは、かかる内容の図画をいうと解されるから、かかる図画を頒布する自由は「表現の自由」として保障されない。
⑵ 以上より、本件規定は憲法21条1項に違反せず、違憲とはならない。
2. もっとも、本件描写に対して本件規定を適用することが、憲法21条1項に反しうる。本件描写が「わいせつな…図画」に当たらない場合には、猥褻表現にあたらず「表現の自由」として保障される表現行為を、専ら内容に着目して規制する処分として、憲法21条1項に違反することになるため、「わいせつな…図画」該当性が問題となる。
⑴「わいせつな…図画」の定義は上述の通りであり、「わいせつな…図画」に当たるかどうかの判断は、事実認定の問題ではなく法解釈の問題であり、裁判所が社会通念に基づいて判断するものである。よって、芸術面において優れた作品であっても、これと次元を異にする法的評価においてわいせつ性を持っていると判断することは可能である。そして、わいせつ性の存否は純客観的に、作品自体からして判断されなければならず、作者の主観的意図によって影響されるべきものではない。
⑵本件で、たしかにY1の写真は芸術作品として国内外で総じて高く評価されてきたのであるが、わいせつ性を持っていると法的に評価することは可能である。また、Y1は本件描写は自然の中の人々の姿をY1独自の美意識によって描こうとしたもので、ことさら性器を強調する意図があったわけではないのであるが、わいせつ性の存否は作者の主観的意図によって影響されるべきものではない。
一方で、成人男女の性器が鮮明に映っている写真は、客観的に見て、徒らに性欲を興奮または刺激せしめ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものであると言える。
⑶よって、本件描写はわいせつな…図画」に当たるため、本件描写に対して本件規定を適用することは、憲法21条1項に違反しない。
以上