2/29/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
東北大学法科大学院2023年 民事訴訟法
問1
1. 判決が有効に成立した場合の効力について
判決が有効に成立すると、自己拘束力が働く。これは確定前であっても裁判所は理由なく判決を撤回したり、変更したりすることができなくなる効力である。もっとも、判決に計算間違い、誤記などの表現上の誤りが明白である場合は、裁判所は職権または申立てにより乙でも判決を更生することができる(民事訴訟法(以下略)257条1項)。また、法令違反に裁判所が自ら気づいた時は、言い渡し後1週間いないに限り、かつ、新たに口頭弁論をする必要がない場合に限り、変更することができる(256条)。
2. 判決が確定した場合の効力について
⑴ 判決が確定すると、大きく分けて形式的確定力と実体的効力の二つの効力が生じる。
⑵ 形式的確定力は、判決が確定すると、当事者は上訴によって不服を申し立てることができなくなる効力である。
⑶ 実体的効力について、具体的には、訴訟物の存否確定を確定する既判力(114条1項)、相手方当事者が判決に任意に従わないときに裁判所に判決の執行を求めることができる執行力、形成の訴えの場合、判決の確定によって法律関係の発生・変更・消滅が生じる形成力が生じる。
問2
1. 主観的範囲
⑴ 本問では判決が確定した場合の効力として主に既判力について論ずる。
既判力(114条1項)の主観的範囲とは、既判力が及ぶ者の範囲のことを意味するところ、115条1項1号において原則当事者に及ぶと規定されている。また、既判力の紛争の蒸し返し防止、手続保証が与えられたことによる自己責任という趣旨から、同条2号ないし4号において例外的に既判力が及ぶ者が規定されている。
⑵ 本件前訴において、Yが原告、X・Zが被告であるため、X・Y・Zは全て「当事者」(115条1項1号)に該当するため、原則通り3人ともに既判力が及ぶ。
2. 客観的範囲
⑴ 既判力の客観的範囲とは、判決の効力の及ぶ対象の範囲を意味し、既判力は原則として訴訟物すなわち主文に含まれる判断にのみ生じ、判決の理由には既判力は生じない。訴訟物に限って既判力を生じさせることで弾力的で迅速な審理を実現させるためである。また、既判力には時的限界があり、既判力が生じている前訴確定判決の判断内容と矛盾抵触する主張のうち、基準時前の事由を主張するものは、既判力により遮断されるのが原則である。終局判決は事実審の口頭弁論終結時までに提出された資料を基礎とし、当事者もこの時までに資料を提出できる。そのため、それ以前に生じた事情については手続保障が与えられている。よって、既判力の基準時は事実審の口頭弁論終結時となる。
⑵ 本問をみるに、本件前訴の訴訟物は不動産甲に関するYの所有権そのものである。そして前訴判決はYの請求が全部棄却された。よって、Yが前訴の事実審口頭弁論終結時において不動産甲の所有権を有していない旨の判断につき既判力が生じる。
問3
第1 小問(1)
1. 所有権確認請求訴訟で敗訴した原告Yが、後訴において共有持分の取得を主張することは前訴の確定判決の既判力に抵触して許されないのではないか。
2. この点について、既判力は主観的範囲として当事者に及び、かつ客観的範囲として訴訟物すなわち主文に含まれる判断にのみ生じる。また、時的限界として事実審の口頭弁論終結時前の事由を主張するものは、既判力により遮断される。
3. 本件において、所有権確認請求訴訟において請求棄却の判決が確定しているため、Yが前訴の事実審口頭弁論終結時において不動産甲の所有権を有していない旨の判断につき既判力が生じる。そのため、Yが事実審口頭弁論終結時よりも前に生じた所有権の一部たる共有持分の取得原因事実を後訴において主張することは、前訴確定判決の既判力に抵触する。
4. したがって、裁判所は後訴の請求を棄却すべきである。
第2 小問(2)
1. Yの提起した遺産確認の訴えは適法であるか。
2. 確認の利益について
⑴ 確認の訴えは、その対象が無限定であり判決に既判力しか認められず紛争解決の実効性がある場合は限られているから、確認の利益は、紛争の抜本的解決のために確認判決をすることが有効・適切である場合に限られる。具体的には、①対象選択の適否、②方法選択の適否、③即時確定の利益の存否の観点から判断される。
⑵ ①対象選択の適否について、遺産に属したことの確認をすることは過去の法律関係の確認であって、対象選択が不適切なのではないかとも思われる。
もっとも、一定の財産が遺産に属することの確認は、当該財産が現在に共同相続人による遺産分割前の共有関係にあることの確認である。そのため、対象選択として適切である。
⑶ ②方法選択の適否について、自己の法定相続分に応じた共有持分の確認を求めれば足りるため、方法選択が不適切なのではないかとも思われる。
もっとも、判決主文における共有持分権を有することについてのみ既判力が生じ、理由中の判断である遺産帰属性には既判力は及ばないため、紛争の抜本的解決という点で適さない。そのため、遺産確認の訴えによることが紛争解決において有効であり、方法選択として適切である。
⑷ ③即時確定の利益について、Yらには既に遺産帰属性に関する紛争が顕在化しているため、即時に当該法律関係につき確定する必要があり、認められる。
⑸ よって、確認の利益は認められる。
3. もっとも、所有権確認請求訴訟で敗訴した原告Yが、後訴において同一の不動産について遺産確認の訴えを主張することは前訴の確定判決の既判力に抵触して許されないのではないか。
⑴ この点について、遺産確認の訴えは、特定の財産が被相続人の遺産に属することを共同相続人全員の間で合一に確定するための訴えであるところ、所有権確認訴訟の請求棄却判決は、原告被告間において当該不動産につき原告の所有権の不存在を、既判力をもって確定するにとどまり、原告が相続人の地位を有することや当該不動産が被相続人の遺産に属することを否定するものではないから、かかる訴えは前訴既判力に抵触しない。
⑵ したがって、前訴の確定判決の既判力がYの不動産甲の所有権の不存在に生じたとしても、Yが不動産甲につき遺産確認の訴えを提起することができると解する。
4. 以上より、訴えは適法であり、裁判所は不動産甲は亡Aの遺産に属するか否かを審理すべきである。
以上