4/16/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
九州大学法科大学院2024年 刑事訴訟法
設問1
1. 甲は、極めて硬いビール瓶で、急所であるAの頭部を強く殴打している。かかる行為は、人の身体に対する不法な有形力の行使といえる。よって、甲の上記行為に、暴行罪(208条)が成立する。
2. 次に、甲がビール瓶でAの首あたりを突き刺した行為に、傷害罪(204条)が成立するか。
⑴まず、甲は、底の割れたビール瓶という鋭利な物を、Aの急所である首に突き刺している。その結果、Aは、左後頸部血管損傷を負っている。よって、甲の行為は、人の生理的機能を害する行為といえ、「傷害」(204条)にあたる。
⑵次に、故意(38条1項本文)とは犯罪事実の認識認容をいうところ、甲は上記行為を認識しながら行なっているため、傷害罪の故意も認められる。
⑶よって、甲の上記行為に、傷害罪が成立する。
3. では、上記行為に、傷害致死罪(205条)が成立するか。
⑴まず、Aは、左後頸部血管損傷に基づく脳機能障害によって「死亡」(205条)している。
⑵では、甲の行為とAの死亡結果の間に因果関係が認められるか。
ア まず、刑法上の因果関係は、条件関係に加えて、行為の危険性が結果へと現実化したといえるか否かで判断すべきと解する。
(ア)本件でみるに、甲の行為が無ければ、Aに脳機能障害は生じなかったといえる。よって、条件関係が認められる。
(イ)次に、行為の危険性が結果へと現実化したかについて、たしかに入院後の継続的な治療により、3週間程度での回復の見通しが立っていたにも関わらず、医師の制止に従わず、自らの意思で体から治療用の管を引き抜き暴れたことにより、Aの容態が急変し、脳機能障害が生じ、死に至っている。しかし、甲の上記行為は人の枢要部である首の血管を鋭利なもので突き刺すというそれ自体死の結果をもたらし得る身体への傷害であり、実際にAの死因を形成している。よって、Aの死は甲の上記行為の危険性が現実化したものと言える。
イ よって、因果関係は認められる。
⑶したがって、甲の上記行為に、傷害致死罪が成立する。
4. 以上より、上記各行為に①暴行罪と②傷害致死罪が成立する。両罪の行為は時間的・場所的に近接しているうえ、被害法益に実質的同一性が認められるため、①は②に吸収されると解する。したがって、甲は、傷害致死罪の罪責を負う。
設問2
1. まず、「不法原因給付物の横領」事案における問題の所在は以下の通りである。民法708条本文は、不法原因給付物について、給付者に不当利得返還請求権が認められなくなることを規定している。そして、この反射的効果として、当該給付物の所有権が給付を受けた者に移ると解するのが民法上の判例(最大判昭和45年10月21日)である。そこで、不法原因給付を受けた者が当該不法原因給付物を横領したとしても、それは「他人の物」(252条、253条)の横領とはいえず、横領罪は成立しないことになるのではないか。これが、「不法原因給付物の横領」事案における問題の所在である。
2. 次に、贈賄用に預かった金銭を費消した事案において、横領罪の成立を認めた判決(最判昭和23年6月5日)がある。この判決は、委託物が不法原因給付物であり、委託者に返還請求権が無いとしても、所有権は委託者にあるから、委託物は「他人の物」であり、横領罪が成立するという見解に立っていると考えられる。
3. では、横領罪の成立を認めた判決(最判昭和23年6月5日)から、肯定説の論拠としていかなるものが考えられるか。
⑴まず、刑法上の所有権は民法上の所有権とは異なるとする見解が考えられる。この見解からは、民法上、委託物が不法原因給付物であり、委託者に返還請求権がないとしても、刑法上は委託者に所有権があるから、受託者が不法原因給付物を費消すれば、横領罪が成立することになる。
⑵次に、委託物は不法原因給付物に当たらないとする見解が考えられる。この見解は、不法原因給付における「給付」とは、所有権を与える意思で占有を移したことをいうとし、そうでない委託と給付を区別する。そうだとすれば、横領罪の成立が認められる事案では、不法原因給付が成立しておらず、民法708条は適用されない。この見解からは、前述の民法上の判例(最大判昭和45年10月21日)と矛盾することなく、横領罪の成立を肯定できる。
以上