4/4/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
東北大学法科大学院2024年 刑事訴訟法
1. 捜索は「強制の処分」(刑訴法197条1項但書(以下法名略))にあたるところ、捜索が捜索差押令状がなく行われれば、令状主義(218条1項前段、憲法33条)に反して違法となるのが原則である。しかし、本件捜索はZの現行犯逮捕(213条、212条1項)の後に、また、Xの緊急逮捕(210条1項)の直前に行われているから、逮捕に伴う無令状捜索(220条1項2号、3項)として例外的に許されないか。
2. まず、Zの現行犯逮捕に伴う無令状捜索として、例外的に許されないか。
⑴前提として、Zの現行犯逮捕(213条、212条1項)は適法か。
Zは覚醒剤約1.5gを所持していたから、「現に罪を行」っている者として、「現行犯人」(212条1項)に当たる。ゆえに、「罪を犯したと疑うに足りる相当な理由」(199条1項本文、2項本文)がある。そして、「明らかに逮捕の必要がない」(199条2項但書、規則143条の3)とはいえない。よって、この逮捕は適法である。
⑵次に、逮捕に伴う無令状捜索として適法か。
ア 令状主義の例外として逮捕に伴う無令状捜索が許されるのは、「逮捕の現場」(220条1項2号)には、逮捕の基礎をなす被疑事実に関連する証拠の存する蓋然性が一般的・類型的に高く、捜索差押許可状の発付の必要がないからである。よって、「逮捕の現場」の捜索として許されるのは、「逮捕の現場」と同一管理権の及ぶ範囲の場所をいうと解する。
イ 本件では、Zを現行犯逮捕したのは、T町路上でありその管理権者は公機関である。他方で、Pらが捜索したのは、Zの逮捕現場から10分離れたX宅であり、その管理権者はXであるから、両者は同一の管理権の及ぶ範囲の場所とはいえない。
よって、Zの現行犯逮捕に伴う無令状捜索としては許容されない。
3. 次に、Xの緊急逮捕に伴う無令状捜索として、例外的に許されないか。
⑴まず、Xの緊急逮捕は適法か。 覚醒剤の譲渡し及び所持の罪は「長期三年以上の懲役若しくは禁錮あたる罪」であり、X宅内の寝室から、覚醒剤約200グラムが発見されたから、上記「罪を犯したことを疑うに足りる十分な理由」がある。さらに、覚醒剤という性質上毀棄隠匿が容易にできるため、証拠保全のためには「急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができな」かったといえる。以上より、220条1項の要件を満たすから、「罪を犯したと疑うに足りる相当な理由」(199条1項本文、2項本文)がある。また、「明らかに逮捕の必要がない」(199条2項但書、規則143条の3)ともいえない。よって、この緊急逮捕は適法である。
⑵次に、逮捕に伴う無令状捜索として適法か。
ア 逮捕の前後で証拠存在の蓋然性は異ならないから、「逮捕する場合」(220条1項柱書)を逮捕後に限る必要はなく、逮捕時と時間的に接着していれば「逮捕する場合」に当たると解する。
本件では、Pらが午後9時8分から引き続きX宅を捜索していたところ、そのわずか27分後の午後9時35分に、帰宅したXを覚せい剤取締法違反の被疑事実で緊急逮捕している。したがって、本件捜索は緊急逮捕と時間的に接着しており「逮捕する場合」にあたる。
イ XはX宅内で逮捕されておりその管理権者はXであるから、同一の管理権の及ぶ範囲を捜索したといえ、「逮捕の現場」での「捜索」にあたる。
また、「押収すべき物の存在を疑うに足りる状況」(222条1項、102条2項、規則156条3項参照)がある。
加えて、Zは覚醒剤を「Xの自宅で譲り受けた」と供述しているから、X宅に覚醒剤が存在する蓋然性があり、X宅を捜索する「必要があ」ったといえる(220条1項柱書)。
4. 以上より、本件捜索はXの緊急逮捕に伴う無令状捜索として適法である。