4/6/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
神戸大学大学法科大学院2025年 刑事訴訟法
問⑴
1. 下線部①の行為について
⑴まず、下線部①の行為は、Xに対する職務質問(警察官職務執行法(以下「警職法」)2条1項)に伴って行われたことから、下線部①の行為が適法であるためには、かかる職務質問も適法に行われる必要がある。
本件において、Xは午前0時35分頃という人通りの少ない時間帯に、付近が覚醒剤や大麻取引事犯の検挙例の多い地域で自動車を停車し、遊び人風の男2人と話していた。そして、警察車両が近づいた際、車をすぐに発進させ、ホテルの駐車場に入ろうとするという不審な挙動をとった。そのため、Xが覚醒剤や大麻取引を行っていたと疑うに足りる「相当な理由」があった。
したがって、上記職務質問は適法である。
⑵次に、下線部①の行為は、職務質問に伴う所持品検査として、適法であるか。その根拠及び限界が問題となる。
そもそも、所持品検査は口頭による質問と密接に関連し、かつ、職務質問の効果をあげるうえで必要性、有効性の認められる行為であるから、警職法2条1項を根拠として職務質問に付随して行うことができると考える。そして、所持品検査は、上述のように、任意手段である職務質問の付随行為として許容されるのであるから、所持人の承諾を得てから行うのが原則である。もっとも、常に承諾が必要であるとすると、犯罪の予防・鎮圧等を目的とし、流動する各般の警察事象に対応して迅速適正に処理しなければならない行政警察の責務を果たすことが困難となり、妥当でない。そこで、相手方の承諾がなくても、①捜索に至らない程度の行為は、②強制にわたらない限り、③所持品検査の必要性、緊急性、これによって害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度においてのみ許容されるものと考える。
下線部①の行為は、確かに、中身を見られないという意味での正当な期待が認められる場所である上衣の内ポケットに手を入れる行為であり、この意味でプライバシー権を一定程度制約する。しかし、ポケット内部を探索したり、破壊を伴う行為をしていないため、捜索に至らないものと言える(①)。
また、Xに有形力を行使したりしてXの身体の自由や移動の自由を制約しているわけでもなく、穏当に行われているため、Xの重要な権利・利益に対する実質的な侵害・制約がないとして強制にもわたらない(②)。
次に、PがXに職務質問を開始した際、後部座席にいた高校生くらいと若いYがトートバッグを抱えうずくまるという不審な態度を示し、さらにXも落ち着きのない態度等の、Yとともに覚醒剤使用をしたと疑わせる状況があった。さらに、Xに所持品の提示を求めた際、Xは強い言葉で拒否し、上記ポケットを服の上から調べるとプラスティックケース様の何か固いものがあるとわかったため、覚醒剤使用の証拠となるものをもっている可能性が高かった。そして、覚醒剤使用等の薬物事犯では証拠の隠滅が容易で隠密に犯行がなされるため、証拠の獲得が困難である。したがって、下線部①の行為をする必要性、緊急性が高いと言える。
他方、上記の通り、プライバシー侵害の程度は高くはなく、また、所持品検査も制約の度合いが低いものから段階的に強いものへと行っており、Xの移動の自由や身体の自由への制約は認められないため、必要性、緊急性がこれを上回る。以上より、下線部①の行為は具体的状況のもとで相当と認められる(③)。
⑶よって、下線部①の行為は、適法である。
2.下線部②の行為について
⑴下線部②の行為も職務質問に伴う所持品検査として、適法であるかを、上述の基準で検討する。
⑵まず、バッグを取り上げただけで。内部を探索したり、破壊を伴う行為をしていないため、捜索に至らないし(①)、Yに有形力を行使したりしてXの身体の自由や移動の自由を制約しているわけでもないため、強制にもわたらない(②)。
そして、上述のようにYにはXとともに覚醒剤使用をしたなど、Xにより何らかの犯罪に巻き込まれたと疑わせる状況があった。この状況において、Xに対する職務質問の様子を見ていたYが、卒然と後部座席からトートバッグを抱えたまま外にでようとしたため、これを止めるために下線部②の行為をする必要性、緊急性が高かった。他方、たしかにQはXの犯罪の重要な関係者たるYをその場に留めさせるためだけにトートバックを取り上げたとも考えられるが、それにより侵害される財産権の侵害は一時的なものであり、プライバシー侵害や、Yの移動の自由や身体の自由への制約は認められないため、必要性、緊急性がこれを上回る。以上より、下線部②の行為は具体的状況のもとで相当と認められる(③)。
⑶よって下線部②の行為は、適法である。
問⑵
確かに、証拠の収集手続に違法があったとしても、証拠物自体の性質や形状に変化はなく、当該証拠の証拠価値も類型的に低下せず、また、刑訴法は「事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適切且つ迅速に適用実現することを目的とする」(1条)ものであるため、このような場合でも証拠能力を認めるべきようにも思える。しかし、違法な手続によって得られた証拠をいかなる場合にも証拠能力が認められるとすると、司法の廉潔性、適正手続の保障(憲法31条参照)、将来の違法捜査抑止の観点から妥当でないといえるので、一定の場合には証拠能力を否定すべきである。そこで、当該証拠収集手続につき、①令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、②これを証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合には、当該証拠の証拠能力は否定されるものと考える。
以上