1/7/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
名古屋大学法科大学院2023年 公法系
第1 設問Ⅰ
1. 小問⑴
内閣提出法案(内閣法5条)について、憲法上、内閣に法律案提出権があることを明示した規定はないため、国会単独立法の原則(憲法41条後段)に反しないかが問題となる。内閣に法律案提出権が認められるかが問題となる。
この点、たしかに法律案提出が立法作用の一部であると捉えると、内閣の法律案提出権は国会単独立法の原則に違反する。
しかし、法律案の提出は、立法過程の不可欠の要素ではあるものの国会の議決を拘束するものではないから、立法の契機を与えるにすぎない。。また、憲法72条の「議案」提出権でいう「議案」には法律案も含まれていると解することができる。さらに、議院内閣制(67条1項、68条1項、69条等)の下では、国会と内閣の協働が要請されることからすれば、内閣の法律案提出権を認める必要がある。
そこで、内閣の法律案提出権は、憲法72条の「議案」提出権として許容され、国会単独立法の原則に違反しないと解する。
2. 小問⑵
行政の安定とその円滑な運営のために、無効原因としては違法の重大性が必要である。また、処分の有効性に対する関係者の信頼を保護するために、違法の明白性も必要である。
「例外的な事情」がある場合には、明白性要件が認められない場合でも無効となる。たとえば、課税処分など、処分の存在を信頼する第三者を保護する要請がない場合には、関係者の信頼保護という明白性を要求する根拠が妥当しないため、明白性要件は不要となる。また、原子炉施設設置許可処分など、処分の瑕疵が有する潜在的危険性の重大さが処分に対する関係者の信頼保護の要請に上回る場合にも同様に、明白性は不要である。。
第2 設問Ⅱ
1. Aは、B 県教育委員会の実施する管理職(校長及び教頭)試験を受験しようとしたが、日本国籍を有していないことのみを理由として、Aが受験申込書の受取りを拒否されたことから、同試験を受験することができなかった(以下「本件措置」という。)。これは、公務就任権(憲法(以下略)同22条1項)を侵害し、又は14条1項に反するものとして違憲ではないか。
2. 22条1項違反
⑴ 人権の前国家性、国際協調主義に鑑み、憲法3章の基本的人権は、外国人であっても、権利の性質上日本国民のみを対象としていると解されるものを除き保障される。
職業は国籍を問わず就くから、職業選択の自由は外国人であっても保障される。よって、Aが管理職を選択する自由も保障される。
Aは管理職への任用を希望しているのに管理職試験を受けられないことから、Aが管理職になること、つまりAの職業選択の自由が制約されている。
⑵ たしかに、誰を管理職として採用するかはB県の裁量が広く認められるとも思える。しかし、職業は個人の人格的生存と不可分の関係にあるため、職業選択の自由は重要な権利である。さらに、採用について広く裁量が認められる根拠は職業上の能力を多面的に評価する必要があるためである。そうすると、国籍は職業上の能力と関係がないため、広い裁量が認められない。以上を鑑みると、B県に広い裁量は認められない。
他方、国民主権原理(憲法1条)を鑑みると、住民の権利義務や法的地位の内容を定め、あるいはこれらに事実上大きな影響を及ぼす公権力行使等地方公務員については、外国人の就任は想定されていないと解するべきである。
したがって、当該の管理職が公権力行使等地方公務員に当たらない場合、受験を認めない特段の事情がない限り、B県の措置は違憲と解するべきである。
⑶ たしかに、学校教育法37条4項、7項によれば、校長および教頭は所属職員の監督権限を持つ。しかし、校長および教頭が影響力を及ぼすのは所属職員に対してであり、地域の住民一般に対してその権利義務や法的地位の内容を定めるとは言えない。よって、校長及び教頭は、公権力行使等地方公務員には当たらない。
そして、Aは6歳という幼少期から日本で生活しており、20年の教員経験を有している。よって、教員としては他の日本人と同等の能力を有しているといえるから、受験を認めない特段の事情も認められない。
したがって、本件措置は憲法15条1項に違反する。
3. 14条1項違反
「平等」とは事実上の差異に着目した相対的平等を意味する。そして、14条1項に違反するかどうかは、差別の理由、対象となる権利利益の重要性、制約の態様、制約についての裁量の広狭から判断する。
本件は、国籍という個人の意思や努力では変えることのできない事柄であるから、14条1項後段列挙事由に準ずる差別である。さらに、前記の通り、職業選択の自由という権利は重要であり、制約は直接的であり、B県の広い裁量も認められない。したがって、特段の事情がない限り、本件措置は違憲と解するべきである。
そして、Aの幼少期からの生活と教員経験を鑑みれば、特段の事情は認めれない。
よって、14条1項に反し、違憲である。
第3 設問Ⅲ
1. BのCに対する懲戒免職処分は、地方公務員法29条1項1号及び3号に基づくものである。そこで、同処分の法的問題点を検討するにあたって、地方公務員法29条1項に基づく公務員の懲戒処分に裁量が容認されるか否かが問題となる。
2. 要件裁量
⑴ 行政裁量の存否は、法の文言及び処分の性質から判断する。
⑵ 同項1号は「この法律……に違反した場合」と規定し、同法33条は、「職員は、その職の信用を傷つけ、又は職員の職全体の不名誉となるような行為をしてはならない。」と定め、信用失墜行為を禁止している。そして、同法29条1項3号は「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合」と規定している。この33条や29条1項3号の文言は抽象的である。これは、該当する事項が様々であることから個別事情に応じた柔軟な判断が必要であり、市長の判断に委ねる趣旨であることから、同要件の認定につきA市長に裁量が認められる。ただし、懲戒処分は不利益処分であることに鑑み、裁量は大きくはない。したがって、市長の判断過程が合理性を欠く結果、当該処分が社会通念上著しく妥当性を欠く場合には、当該裁量処分は裁量権の逸脱濫用として、違法となる(行訴法30条)。
⑶ 酒気帯び運転はそれ自体運転免許に関して重い行政処分を受ける行為であるだけでなく、事故を起こした場合危険運転致死傷罪に問われるような危険な行為である。そして、上記の行為には社会的批判も強い。よって、29条1項1号、3号該当性を認めた判断が著しく不合理とは言えない。
⑷ よって、要件裁量の観点からは問題ない。
3. 効果裁量
⑴ 前述のとおり、法の文言と処分の性質から裁量の存否広狭を判断する。29条1項柱書は「懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。」と定める。これは、個別事情に柔軟に対応するために市長の判断に委ねる趣旨であることから、処分の選択につきA市長に効果裁量が認められる。ただし、懲戒免職はもっとも不利益な処分であるから、その裁量権は慎重に行使しなければならない。
⑵ A市長Bが酒気帯び運転が発覚した職員は地方公務員法 29 条1項1号及び3号に基づき懲戒免職処分に処する旨の方針を立て、記者会見で発表している。この方針は講学上の裁量基準に当たる(以下、本件裁量基準)。裁量基準はただちに行政庁を拘束しない。しかし、裁量権の行使においては公正・平等を確保しなければならないから、平等原則(憲法14条)や信義則を媒介として国民に対する関係でも行政庁を拘束することになり、裁量基準と異なる取り扱いを相当と認めるべき特段の事情がない限り、裁量基準に従った処分を行わなければならないと解するべきである。
⑶ 上記の酒気帯び運転の危険性、社会的批判の強さを考えれば、酒気帯び運転に重い処分を科すという裁量基準自体は合理的である。
⑷ また、Cの酒気帯び運転も事実であり、酒気帯び運転に当たるとの判断にも不合理な点はない。
⑸ 本件裁量基準に適合するという判断に誤りがないとしても、これを機械的に適用するのは許されないのではないか。
ア 行政裁量を認めている趣旨は個別事情に応じた柔軟な対応を可能にする点にあるから、行政庁は裁量基準があっても個別事情考慮義務を負う。そのため、行政庁が個別に考慮するべき事情があるのにそれを適切に考慮することなく裁量基準を機械的に適用することは、考慮不尽として裁量権の逸脱・濫用になる。本件では、懲戒免職処分は最も重い処分であるから、個別事情は慎重に考慮する必要がある。
イ 本件裁量基準は酒気帯び運転の危険性及び社会的批判の強さに着目している。そのため、当該運転の危険性及び社会的批判の強さについて別に考慮する事情があるかどうか、あるとしてそれを適切に考慮しているか否かを判断する。
本件では、Cの酒気帯び運転の原因は前日の飲酒であり、C自身に酒気帯びの自覚がなかった。しかも、前日の飲酒であるから、酒気帯びの程度は小さかったと考えられる。そのため、Cの酒気帯び運転が著しく危険で社会的に批判されるべき行為とは言えない。にもかかわらず、上記基準を考慮せず、記者会見後に酒気帯び運転が発覚した最初の事案であったことから、本件基準を機械的に適用している。
ウ 以上のように、本件の懲戒免職処分は、上記の個別事情考慮義務を欠いていると判断される恐れがある。
4. 以上より、本件の懲戒免職処分は、個別事情考慮義務を欠いているという法的問題点がある。
以上