7/3/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
東京大学法科大学院2025年 公法系
問1⑴
1. まず、許可制という重大な規制であるかで判断枠組みを変える姿勢を示したという限度で、薬事法距離制限違憲判決を参考にすべきである。同判例は、営業許可要件として距離制限という客観要件が定められていた事案において、職業選択の自由そのものに対する許可制という重大な規制は、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置でなければならないとの判断を示している。
その理由は、職業は、生計の資本のもととなるだけでなく、分業社会においては、これを通じて社会の存続と発展に寄与する社会的機能分担の活動たる性質を有し、自己の個性を全うすべき場として、人格的価値とも不可分の関連を有するところ、許可制は、かかる人格的価値を有する職業の自由に対する強力な制限である点にあると考えられる。
本件条例11条は、規制対象事業と認定された協議対象事業を行うことを一切禁止するものであるから、規制対象事業と認定された協議対象事業についての許可制に比肩する強度の制約を課していると言える。
2. もっとも、規制対象事業と認定された協議対象事業が職業であるとは即断できない。そこで、要指導医薬品ネット販売規制事件の職業の認定方法、すなわち、法が職業であると見ていると解されるものを一つの職業であるという旨の判断をした点が参考になる。
本件条例16条は、各号において、事業がもたらす水源滋養機能ないし地下水源への悪影響といった弊害に着目して、規制事業を定義しており、社会的機能分担の活動たる性質には着目していない。そのため、規制対象事業と認定された協議対象事業を一つの職業と見ることはできない。
よって、本件11条の規制は許可制に準じた規制とは言えず、薬事法距離制限規定違憲判決の射程外である。
3.ここで、要指導医薬品ネット販売規制事件は、インターネット販売をひとつの職業とは捉えずに、医薬品販売の一方法である非対面販売についての規制である点を捉えて、職業の自由に対する強力な制約とは言えないとして、立法事実に踏み込んだ判断をしなかったものと解される。本事例でも、砂利の採取がおよそ禁止されているのではなく、そのうち、上記の通り16条各号の自由に当てはまる態様のもの飲みが規制されるに過ぎないから、砂利採取行の一方法が規制されているに過ぎないと言える。そこで、要指導医薬品ネット販売規制事件を参考にすべきである。
問1⑵
1. 本件条例11条は違憲無効であり、法律の根拠を欠くから、本件認定があっても、Xは本件事業を行うことができるとの主張が考えられるも失当である。すなわち、以下の理由から、本件条例11条は憲法22条1項に反さず合憲である。
2. 「職業選択の自由」には、前記の職業選択の自由の人格的価値を十分保障するという観点から、狭義の職業選択の自由のみならず、職業遂行の自由、すなわち、職業活動の内容、態様における自由が含まれるところ、条例11条は、採石業その他の地下水源に何らかの影響を及ぼす事業の方法・態様を規制するものといえ、職業遂行の自由を制約するものといえる。
3.⑴もっとも、職業は、その性質上社会的相互関連性が大きく、職業の種類、性質、内容、社会的意義、それを規制する理由・目的及びその重要性は各種各様であり、これに応じて、規制措置も各種各様の形をとるため、規制措置の具体的内容及び必要性と合理性については、立法裁量に委ねられるべき要請が強い。事の性質上、立法裁量は広く認めるべきであり上述の通り立法事実に踏み込んだ判断をしなかった要指導医薬品事件に照らして判断すべき本件においては、目的・手段が合理的で、権衡のとれた措置といえるときには合憲であると考える。
⑵条例11条の目的は、町内の健全な水循環の保全を図り、町民の健康で文化的な生活の確保する点にあると解される(条例1条参照)。2020年頃から、本件採石場では採石に伴い出水が発生するようになり、B町の住民らは、住民が農作業用水や生活用水として利用してきたC山を水源とする湧き水に影響が出ることを危惧するようになった事実がある点に照らすと、かかる目的は合理的であるといえる。
また、16条各号は、水源滋養機能ないし地下水源へ悪影響を及ぼす事業を規制対象事業としており、かかる事業を11条が規制することが、同目的の達成に資することからすると、手段の適合性も認められる。
4. 以上より、本件条例11条は22条1項に反さず、合憲である。
問2⑴
1. 本件条例は、法律の委任なくして制定された自主条例である。
2. ここで、自主条例は、「法令に違反しない限り」(地自14条1項)、すなわち「法律の範囲内」(憲法94条1項)において定められる。そして、「法律の範囲内」であるかは、徳島市公安条例事件判決に照らし、条例と法律それぞれの文言、趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者に矛盾抵触があるか否かをもって判断する。
まず、法律と規制対象が異なる場合でも、規制をせずに放置する趣旨である場合は、条例は制定できない。一方、ある事項について既に法が定立されており、法律と条例の目的が同一の場合でも、その法が別段の規制を許す趣旨である場合は、同事項についての条例を制定できる。また、ある事項について既に法が定立されているが、法律と条例の目的が異なる場合には、条例が法律の目的効果を侵さないならば条例を制定できる。
3. まず、採石法と本件条例は、規制対象事業と認定された協議対象事業である採石業について、規制対象を同じくする。
ここで、採石法の目的は、「岩石の採取に伴う災害を防止し、岩石の採取の事業の健全な発達を図ることによって公共の福祉の増進に寄与する」点にある(同法1条)。一方、本件条例の目的は上述の通りであって、これは災害の防止を具体的に規定したものと評価できるから、岩石の採取に伴う災害を防止するという法の目的と、同じ目的であると言える。
もっとも、採石法が、地域の実情に応じた上乗せ規制を禁止する趣旨であるとは解されないから、法が別段の規制を許す趣旨であると言える。
よって、本件条例は、「法令の範囲内」の条例であり、94条1項に反さず、法律との関係において適法である。
問2⑵
1. まず、審議会が、地下水脈を損傷するおそれがあるかについては調査資料が不十分であり判断できない旨の意見書を提出しているにもかかわらず、調査資料を補充することなく本件認定を行ったことは、重要な事項について考慮を尽くさなかったものとして、裁量逸脱として違法であるか問題となるも、以下の理由から、この点に違法はないと解する。
審議会が意見書にて言及しているこの点は、16条3号該当性において問題となる事項である。本件認定の理由としては、16条3号該当性は認められていないのであって1号2号、4号の認定においては、この点についての検討は条例の文言及び趣旨からして不要である。
2. 次に、事前協議がなされていないから、条例14条の手続きがとられておらず、11条の定める手続き要件を欠いており、違法がある。このことから直ちに実体上の違法を構成するわけではないが、行政手続法によって手続上の権利が法定されたといえ、重要な手続を適切に履践しないで行われた処分は特段の事情のない限り、違法となると解する。
事前協議は、市民等に計画の合理性・安全性を説明する(条例15条)前提として、市長と協議を重ねる重要な手続きであり、手続きの適正担保を目的とするものであるから、重要な手続きと言える。よって、事前協議を欠く点は原則として実体上の違法を構成する。
もっとも、14条は事前協議者に届出義務を課しており、同義務が履行されないような場合には、手続き的権利を放棄しているものと評価できるから、実体上の違法は構成しないと考える。本件では、Xは申し出を行っておらず、Yからの提案にも応じていないから、実体上の違法は構成しない。
3. 最後に、理由提示(行手法8条1項)が不適法である。
同条の趣旨は、行政庁の判断の慎重と公正妥当を担保し、恣意を抑制するとともに、申請者の不服申し立ての便宜を図ることにある。かかる趣旨を全うするため、原則として①いかなる事実関係に基づき、②いかなる法条を適用して処分がなされたかを記載自体から了知しうることを要する。
掘削の深さや面積といった数値からは、各号のおそれがどのように認定されるのかが不明であるから、仮に裁量基準があるならば、それも提示すべきであり、ない場合には、一層丁寧な法条の適用関係の記載が求められる。それにもかかわらず、事実関係がひとくくりに記載され、どの事実関係が、各号のいずれの事由に該当するのかが明らかでない。
よって、理由提示として不適法である。
そして、上記理由提示の趣旨からすれば、理由提示は、重要な手続といえるから、本件処分は実体上の違法を構成する。