6/25/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
広島大学法科大学院2025年 民法
第1問
1. AはCに対して、甲土地の所有権(206条)を主張することができるか。
2. ここで、Cとしては、自身が「善意の第三者」(94条2項)に該当するとして、AはA・B間における甲土地の贈与が無効であることをCに対抗できない、と反論することが考えられる。
⑴本件で、A・B間における通謀(94条1項)は認められないため、94条2項を直接適用することはできない。しかし、同条は虚偽の外観を作出した本人の帰責性を根拠に、かかる外観を信頼した第三者を保護する趣旨の規定であるところ、①外観作出についての本人の帰責性、②虚偽の外観の存在、③相手方の信頼、が認められる場合、94条2項を類推適用できると解する。
⑵ア ①について
本件で、Aは、甲土地の所有権移転登記がAからBへと移転されていることを知りながら、3年以上もの間、それを放置していたものである。そうすると、Aはかかる虚偽の外形について事後的に承認していたといえ、自ら作出したのと同様の帰責性が認められる。
イ ②について
甲土地の所有者はAにもかかわらず、Bが登記名義人となっており、虚偽の外観の存在が認められる。
ウ ③について
上記の通り、本人たるAには94条2項を直接適用するのと同様の帰責性が認められるため、Cは「善意」であれば保護されると解する。本件で、Cは甲土地の所有者がAであることを知らなかったのであり、「善意」であったといえる。
⑶したがって、94条2項が類推適用できる。CはBとの間で甲土地の売買契約を締結しているところ、当事者及びその包括承継人以外の者であり、行為の外観を信頼して新たに独立の法律関係を有するに至った者であるから、「善意の第三者」にあたる。
3. よって、Cの上記反論が認められ、AのCに対する主張は認められない。
第2問 小問(1)
1. BはCに対して、甲土地の所有権の取得を対抗することができるか。
2. Cとしては、自身が「第三者」(177条)にあたるとして、Bは登記なくして甲土地の所有権を対抗できない、と主張することが考えられる。
⑴「第三者」とは、当事者及びその包括承継人以外の者であり、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者、をいう。このとき、自由競争を逸脱し、登記の欠缺を主張することが信義則(1条2項)に反する者については、同条によって保護される利益を欠く。そこで、従前の物権変動について悪意であり、登記の欠缺を主張することが信義則に反する者については、「第三者」にあたらないと考える。
⑵本件で、CはA・B間における甲土地の売買契約について知っていた。また、Cは登記名義がAのままであることを奇貨として、Bに対する嫌がらせのために甲土地を廉価で買い受けているところ、このような不当な動機については保護に値せず、登記の欠缺を主張することが信義則に反するといえる。
3. したがって、Cは「第三者」にあたらず、上記主張は認められない。よって、BはCに対して、甲土地の所有権の取得を対抗することができる。
第2問 小問(2)
1. BはDに対して、甲土地の所有権の取得を対抗することができるか。
2. ここで、背信的悪意者からの譲受人であるDについて、「第三者」にあたるかが問題となる。
⑴背信的悪意者であっても有効に物権は取得しているのであり、無権利者ではない。そして、信義則に反するかは個別的に判断するべきであるため、Dが「第三者」にあたるかについては第一譲受人たるBとの間で相対的に判断するべきである。
⑵本件で、DはCがAから甲土地を購入した際の事情を一切知らなかったものであり、登記の欠缺を主張することが信義則に反するとはいえない。そして、Dは当事者及びその包括承継人以外の者であり、登記の欠缺を主張する正当な利益を有するものであり、「第三者」にあたる。
3. したがって、BはDに対して、甲土地の所有権の取得を対抗することができない。
第3問
1. Bとしては、Aに対する必要費償還請求権(608条1項)を自働債権とし、AのBに対する賃料支払請求権(601条)を受働債権とする相殺(505条1項)を主張し、20万円分の支払いを拒むことが考えられる。
2. 「賃借人」であるBは「賃貸人」であるAに対して「修繕が必要である旨を通知」したにもかかわらず、Aは「相当の期間内に必要な修繕をしな」かった(607条の2第1号)。そのため、Bは自ら本件建物の修繕を行うことができる。そして、建物の屋根における雨漏りの修繕は「必要費」(608条1項)にあたるため、BはAに対して必要費償還請求権を有する。
3. 上記自働債権は発生時に弁済期が到来するため、「債務が弁済期にある」(505条1項本文)といえる。また、両債権はいずれも金銭債権であり、「同種の目的を有する債務」にあたる。したがって、Bは意思表示によって相殺することができる(506条1項前段)。
4. ここで、かかる相殺を譲受人であるCに対して対抗できるか。
⑴上記債権は、対抗要件具備時である令和6年5月15日より後に取得したものである(469条2項本文)ところ、「対抗要件具備時よりも前の原因に基づいて生じた債権」(469条2項1号)にあたらないか。
⑵同条の趣旨は、債務者における相殺への期待を保護することに求められる。そこで、「対抗要件具備時よりも⋯債権」にあたるかについては、相殺への合理的期待が認められるかという観点から実質的に判断するべきである。
⑶本件で、Bは上記対抗要件具備時よりも前の時点から、Aとの間で本件建物の賃貸借契約を締結していたものである。そうすると、Bにおいては本件建物について必要費償還請求権利が生じた場合には、賃料債権との間で相殺することへの合理的期待が認められるといえる。したがって、「対抗要件具備時よりも前の原因に基づいて生じた債権」にあたる。
5. よって、Bは上記相殺をCに対して対抗することができ、20万円分の支払いを拒むことができる。
以上