8/12/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
九州大学法科大学院2023年 民法
第1 設問(1)
AはCに対して、不法行為による損害賠償(民法709条、以下法名略)を求めることができるか。
1. 2022年9月1日、AはBより甲を買受け、同月9月10日時点でこれを所有していた。Cはこれに放火し焼失させ、Aの甲に対する所有権という「権利」を「侵害」している。Aは甲を失う「損害」をうけ、Cの行為とAの損害は因果関係がある。Cは「故意」に侵害行為を行なっている。よって、Aの請求は認められるとも思える。
2. もっとも、Aは甲の所有権移転登記を備えていない。AはCに甲の所有権を対抗できない結果、請求も認められないのではないか。Cが「第三者」(177条)にあたるかが問題となる。
⑴ 「第三者」とは、物権変動の当事者またはその包括承継人以外の者で、登記の欠缺を主張する正当の利益を有する者をいう。
⑵ Cは、AB間売買の当事者または包括承継人以外の者であるが、単なる不法行為者であり、甲に対し何ら正当の利益を有しない。
⑶ よって、Cは「第三者」に当たらない。
2. 以上、AはCに対して、甲の消失による損害の賠償を求めることができる。
第2 設問(2)
AはBに対して、売買契約を無催告解除(542条)して既に支払った甲の代金の返還(545条1項本文)を求めることができるか。
1. 本件では、甲は滅失している。
2. しかし、本件では、甲は既にAに「引き渡」されている。そして、「その引渡しがあった時以後に」甲は無関係の第三者Cによる放火という、A・B「当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失」したといえる。そのため、Aは契約の解除をすることはできない(567条1項)。
たしかに、甲の所有権移転登記については未了であり、滅失した甲についてもはや移転登記手続きをすることは叶わないのであるから、登記移転債務の限度でBに債務不履行があるとも思える。
しかし、売買契約の主たる効果はあくまで目的物の所有権移転及び引渡債務の発生にある以上、これが果たされた時点で甲についての危険は全てAに移転したと考えるべきであり、登記移転債務についての一部解除を認める合理性は乏しいといえる。
2. 以上、Aは売買契約を解除して甲の代金の返還を求めることはできない。
第3 設問(3)
1. AはCに対して甲の焼失による損害の賠償を求めることはできるか。
⑴ 第1で述べたのと同様、Aの請求は認められるとも思える。
⑵ もっとも、本件では、Cは登記を確認してBを甲の所有者だと誤信し、Bに対して賠償として300万円を支払っている。478条の適用により、CはAに対する損害賠償債務を免れないか。
ア この点、478条が適用されるためには、「取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するもの」に当たる必要があるところ、土地の所有者については、実質的所有者の探求は困難であり、登記の外観を信用した者を保護する必要がある。また、実質的にも登記名義人から不法行為に基づく損害賠償請求をされた者が、登記名義人が実質的所有者でないとしてその請求を拒むことは困難である。したがって、Bは、「取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するもの」にあたる。加えて、登記を信用要したCに過失が認められる事情はない。
イ したがって、本件では478条が適用されCのBへの弁済は有効である。
⑶ 以上、AのCに対する請求は認められない。
2. では、AはBに対して不当利得の請求(703条、704条)として、Cから受領した300万円の支払いを求めることができるか。
⑴ Bは甲の所有者ではなかったにも関わらずCから300万円を受領し、「法律上の原因なく」「利益を受け」たといえる。
⑵ そして、上記の通りCのBに対する請求が有効となった結果、AはCに損害賠償請求をすることができなくなった。したがって、Aは、「損失」を受けたといえる。
⑶ よって、AはBに300万円の支払いを求めることができる。
以上