5/27/2025
実は…合格者の答案は「完璧な三段論法」ばかりじゃないんです!
再現答案を見ると、省略されている部分も多いんですよ。
✅「論文の書き方がわからない」
✅「そもそも法的三段論法ってなに?」
✅「三段論法しないと点数入らないの?」
✅「合格者の答案、三段論法してなくない?」
こんな疑問、ありませんか?
この記事では、令和5年度予備試験合格者が、あなたの悩みを解決します!
(ライター:サカモト/『司法試験独学道場』連載統括・The Law School Times編集部ディレクター)
連載『司法試験独学道場』vol.0はこちら!
・ライター サカモトの自己紹介
・『司法試験独学道場』とは
・独学が可能な理由
司法試験独学道場〜ロー入試編〜Vol.0 独学で司法試験を目指す全受験生へ
🔳答案で法的三段論法しないとどうなる?
🔳ゼロから始める法的三段論法
⚫︎演習【設問1】
🔳法的三段論法の階層化
⚫︎演習【設問2】
🔳法的三段論法の実践
⚫︎演習【設問3】
🔳法的三段論法を崩す
🔳法的三段論法の崩し方
司法試験では、正しい内容を書いても「法的三段論法」を使わなければ点数が入らず、不合格になってしまいます。実際、同じ内容を書いていても、三段論法を使った受験生が合格し、使わなかった受験生が不合格となるケースもあります。
「同じことを書いているなら、形式は関係ないのでは?」と思うかもしれません。しかし、出題趣旨や採点実感を見ると、「問題提起 → 規範 → あてはめ → 結論」という論理の流れを前提に評価されていることがわかります。
法的三段論法は、一度身につければ、なにも意識せずに答案を書くことが出来るようになります。あとは、その書き方に知識を流し込むだけで答案が完成します。答案を書くファーストステップとして、法的三段論法を習得しましょう!
法的三段論法を理解するには、まず三段論法そのものを理解することが重要です。
三段論法とは、簡単に言うと
一般論(大前提)→具体的な事実(小前提)→結論の順に文章を組み立てること
です。
具体例を挙げると、以下のようになります。
・大前提:すべての人間はいつか必ず死ぬ。
・小前提:ソクラテスは人間である。
・結論 :ゆえにソクラテスはいつか必ず死ぬ。
この流れが三段論法の基本構造です。
三段論法を法律に当てはめたものが「法的三段論法」です。
簡単に言うと、次のような流れで論じるのが法的三段論法です
・大前提:法規範
・小前提:具体的事実(あてはめ)
・結論:結論
これを刑法の傷害罪で書いてみると以下のようになります。
・大前提:人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する(刑法204条)。
・小前提:甲は乙という人の身体を傷害した。
・結論:甲は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処される。
このように、法的三段論法では、法規範を基準として具体的な事実を当てはめ、そこから結論を導き出します。
ここで、注意するべきポイントがあります。
それは問題提起の必要性についてです。法的三段論法においては本来的に問題提起(問題の所在を指摘すること)は必須の要素としては、含まれていません。しかし、司法試験では、採点者に自分が抱いている問題意識を共有するために、問題提起を明示的に行う必要があります。
したがって、司法試験の答案では、
➀問題提起
➁規範
➂あてはめ
➃結論
という流れで論述を行うことになります。
次に上記の説明を元にして、問題を解いてみましょう。
【問題文】
甲とVは2024年10月1日、口論となり、甲は怒りに任せてVを殺害した。
甲の罪責を論ぜよ(故意及び因果関係については論じる必要がない)。
なお、以下の条文を参照して、法的三段論法を用いて答えなさい。
【条文】
第199条(殺人)
人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の拘禁刑に処する。
【解答例】
甲がVを殺害した行為にいかなる犯罪が成立するか。(問題提起)
「人を殺した者」(刑法199条)は殺人罪に処される。(規範)
甲はVという「人を殺し」ている。(あてはめ)
したがって、甲の上記行為は殺人罪に該当し、その罪責を負う。(結論)
【解説】
本問では、甲の罪責を論じるように求められています。刑法では特定の行為を抽出して、それについて罪責を検討するのが通常であり、問題提起は解答例の1行目のようになります。
大前提は、法規範であるため、199条の条文そのものが大前提になります。
小前提は具体的事実であるため、設問中の事案を引用します。もっとも、全ての事実を引用する必要はなく、法律要件の充足に必要な部分のみを引用すれば足ります。
最後に結論を示します。
上述の通り、司法試験の答案は法的三段論法によって構成します。
しかし、問題の中ではいわゆる「論点」(条文の適用の結果が条文からは一義的に明らかにならない箇所)が登場します。そして、答案の中では「論点」を的確に解決していかなければならないのですが、その場合の答案の構成はさらに複雑なものになります。
では、論点が出てきたときにはどのように答案を構成するのでしょうか。
このような場合には、以下のように「大きな三段論法で構成された答案の中でさらに小さな三段論法を行う」ことになります。
問題提起:論点の指摘
大前提:規範
【論点➀】問題提起:論点の指摘
大前提:規範
小前提:あてはめ
結論
【論点②】問題提起:論点の指摘
大前提:規範
小前提:あてはめ
結論
〃
小前提:あてはめ
結論
では、具体的に論点が含まれる場合の法的三段論法の論じ方を見てみましょう。
【問題文】
甲とVは2024年10月1日、口論となり、甲は怒りに任せてVを殺害した。
Vは母体から頭のみを露出した状態の赤ちゃんであり、体の全部が露出してはいなかった。
甲の罪責を論ぜよ(故意及び因果関係については論じる必要がない)。
なお、以下の条文・補足知識を参照して、法的三段論法を用いて答えなさい。
【条文】
第199条(殺人)
人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の拘禁刑に処する。
【補足知識】
一部露出説:胎児は母体から一部を露出した時点で「人」にあたる。
∵一部が露出した以上、母体に関係なく、死亡をきたすべき侵害を加えられる。
全部露出説:胎児は母体から全部を露出した時点で「人」にあたる。
【解答例】
1甲がVを殺害した行為にいかなる犯罪が成立するか。(問題提起)
2「人を殺した者」(刑法199条)は殺人罪に処される。(規範)
Vは体の全部が体から露出していないから、「人」に該当するか、「人」の意義が問題になる。(問題提起)
この点、身体の一部が露出した以上、母体に関係なく死亡をきたすべき侵害を加えられるから、胎児は、母体から一部を露出した時点で「人」にあたると解する。(規範)
本件において、Vは母体から身体の一部である頭部を露出している。(あてはめ)
したがって、Vは「人」に該当する。(結論)
4また、甲はVを「殺」している。(あてはめ)
5したがって、甲の上記行為は殺人罪に該当し、その罪責を負う。(結論)
説明の最後に少し細かいお話をします。勉強が進んでからではないと分かりにくい話ですので、一読する程度で構いません。
ここでお話するのは、規範と理由付けの違いです。解答例の以下の部分は、便宜上規範と記載していますが、厳密には前半の理由付けと後半の規範に分かれます。規範は上記の説明の通り、法律の解釈を示した一般論であり、理由付けはその名の通り規範を導く理由です。
【答案】
身体の一部が露出した以上、母体に関係なく、死亡をきたすべき侵害を加えられるのであるから(理由付け)、身体が母体から一部を露出した時点で「人」にあたる(規範)
重要なのは両者の重要度の違いです。
<規範・理由づけの重要度>
✅規範:答案の作成に必要不可欠であり、時間がなくとも省略するべきではない。
✅理由付け:答案の作成に必要不可欠ではないため、省略が可能。
一般的に、理由付け部分は省略をしても答案自体は完成します。もっとも規範がなければ答案は完成しません。したがって、規範は理由付けよりも重要であり、規範は絶対に覚えるべきですが、理由付けはそれに比べて優先度が下がります。
ただ、そうはいっても、司法試験の出題趣旨や採点実感を見ると、理由付けに対する評価がなされていることがうかがわれ、理由付けにも配点があると考えるのが妥当でしょう。
また、規範はその場で導くこともできますが、司法試験では論証集で主要な論点に対する規範及び理由付けを覚えてくる受験生が多いです。他の受験生に遅れを取らないように、皆さんも主要な論証は暗記するべきですが、その際には、規範は必ず覚える、理由付けは出来たら覚える程度の意識を持つと、濃淡が出来て覚えやすくなるでしょう。
最後に実践問題です。
今までの知識を生かして以下の問題を解いてみましょう。
【問題文】
甲は、女性Vの頭髪をはさみで根本から切断した。
甲に傷害罪は成立するか(故意及び因果関係については論じる必要がない)。
なお、以下の条文・補足知識を参照して、法的三段論法を用いて答えなさい。
【条文】
第204条(傷害)
人の身体を傷害した者は、15年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する。
【補足知識】
・生理機能傷害説:「傷害」とは、人の生理機能を侵害することである。
【解答例】
1甲が、女性Vの頭髪をはさみで根本から切断した行為に傷害罪(刑法204条)が成立しないか。
2(1)「人の身体を傷害した」場合には、傷害罪が成立する。
(2)ア本件において、甲はVの頭髪を切断したに留まるところ、これが「傷害」にあたるか、「傷害」の意義が問題になる。
イ判例は、生理機能傷害説に立っているところ、これと同様に「傷害」とは、人の生理機能を侵害することであると解する。
ウ本件において、甲はVの頭髪を切断したに留まり、生理機能は侵害していない。
エしたがって、甲の上記行為は「傷害」に該当しない。
3よって、甲の上記行為は傷害罪は成立しない。
自分の論文答案と解答を照らし合わせる時に注意してほしいのは、論文の書き方に絶対的な正解はないということです。
私は勉強を始めた当初、司法試験の論文についてもマーク試験のように絶対的な正解があり、答案例と一字一句同じように書かなければならないと思っていたため非常に苦労しました。しかし、合格者の再現答案を見ても書き方や表現はバラバラですし、司法試験の出題趣旨や採点実感は画一的な論述を「論証パターン」と揶揄し、敬遠しています。したがって、論文の書き方に絶対的な正解はなく、自分の答案が正しい論述かどうかはある程度柔軟に判断する必要があります。
ただ、そうはいっても、法的三段論法は守っていなければ、正しい論述方法とは言えないので、常に法的三段論法を意識して論述を行うようにしましょう。
ここまでは、法的三段論法の重要性について説明してきましたが、実際の答案を書く時は常に法的三段論法を使うわけではありません。司法試験の再現答案を見てみると、法的三段論法を行っている箇所と行っていない箇所を見つけることが出来ます。
どんな問題でも法的三段論法で論じることは可能です。
しかし、法的三段論法で論じていないのは何らかの理由から、あえて省略しているんです(ただ忘れていた可能性もありますが…。)。
その理由としては以下のものが考えられます。
しかし、上記の場合であっても、三段論法をすること自体が間違えであるというわけではありません(冗長であり、問題の所在が把握出来ていないと判断される可能性はあります)。
まず最初の設問を使って、具体例を見てみましょう。
【問題文】
甲とVは2024年10月1日、口論となり、甲は怒りに任せてVを殺害した。
甲の罪責を論ぜよ。(故意及び因果関係については論じる必要がない)
なお、以下の条文を参照して、法的三段論法を用いて答えなさい。
【条文】
第199条(殺人)
人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の拘禁刑に処する。
法的三段論法を使って論述すると解答例は以下の通りです。
【解答例】
甲がVを殺害した行為にいかなる犯罪が成立するか。(問題提起)
「人を殺した者」(刑法199条)は殺人罪に処される。(規範)
甲はVという「人を殺し」ている。(あてはめ)
したがって、甲の上記行為は殺人罪に該当し、その罪責を負う。(結論)
法的三段論法を崩した場合の解答例は以下の通りです。
【解答例】
甲は、「人」であるVを「殺」しているため、殺人罪(刑法199条)の罪責を負う。
では本問で、法的三段論法を崩すとしたらその理由は何でしょうか。
まず、紙幅や時間については、本問では時間制限はありませんが、ロー入試や司法試験本番では時間制限は厳しいです。そして、設問においては「殺害した」と書かれており、甲に殺人罪が成立するのは明らかといえるでしょう。そうすると、このような犯罪の認定に大きな配点がされている可能性は低く、時間、紙幅との関係でも、端的に論じるのが望ましいということになります。
したがって、上記のような事例が、本番の試験の一部として出題された場合には、法的三段論法を省略して、端的に結論を示すことが求められるでしょう。一方で、二つ目の設問においては、人の始期が大きな論点となることから、法的三段論法をしっかりと行うべきであり、規範を導く理由付けまで論じられるとベターでしょう。
では、どのように、どの程度、法的三段論法を崩すのが正しいのでしょうか。
これについて明確な答えはないと思いますが、合格者の再現答案や予備校の答案等をもとに、どのように法的三段論法を省略しているのかを出来るだけ言語化すると以下のようになります。
✅問題提起を省略する
✅具体的事実を条文を引用しながらあてはめ、同時に結論を示す
2つ目は特に刑法でよく使われるテクニックで、成立に問題がない犯罪を数行で認定することができます。上記の問題文では、Vが「人」であることと、甲がVを「殺した」ことは明らかです。したがってこれらについて詳述する必要はありません。問題文の事実を直接条文を引用しながらあてはめをすれば必要十分です。
しかし、先述した通り、論文の書き方に絶対的な正解はありません。
どこを省略するか、どこまで濃淡をつけて書くかは、論文試験の現場で問題文、試験時間等と向き合って自分で決めることです。
そして、その感覚は問題をたくさん解くことによって自然に身につくものです。焦らず、演習を重ねていきましょう!