6/19/2025
ロー入試における最終目標は、「合格答案」を書き上げることにあります。
基本書や論証集は、あくまでその目的を達成するための手段に過ぎません。
それにもかかわらず、学習の初期段階で「合格者の答案」に触れ、その中身を分析している方は、意外と少ないのではないでしょうか。
しかし、合格者がどのように思考を巡らせ、どこまで記憶・整理していたのか——そのすべてが、実は答案に凝縮されています。
今回の記事では、中央大学法科大学院に全額免除で合格し、同時に予備試験にも合格した筆者が、実際に全免合格を果たした年の「中央ロー民法入試」を再構成し、その模範答案と当時の思考プロセスを丁寧にご紹介いたします。
そして、ロー入試に合格するために暗記すべきはどの部分か、学習すべき範囲はどこまでか、この記事を通して学んでいきましょう。
(ライター:サカモト/『司法試験独学道場』連載統括・The Law School Times編集部ディレクター)
🔳ロー入試に短答知識は必要か?
🔳全免合格者の答案分析
🔳答案分析の総論
🔳LEVEL① 暗記すべき箇所
🔳LEVEL② 条文知識・背景知識で書いている箇所
🔳LEVEL③ 現場思考で書いている箇所
🔳まとめ
まず、ロー入試に合格するために必要な勉強の範囲を考える前提として、ロー入試段階での短答知識の取り扱いについて筆者の考えを述べます。
司法試験では、論文式試験に加えて短答式試験もあるため、短答知識の習得が欠かせません。
一方で、ロー入試には短答式試験がなく、論文が書ければそれだけで合格できます。
短答知識は論文知識よりも量が多く、習得には相当な時間がかかります。
実際、基本書の多くのページが短答向けの知識に使われています。
しかし、ロー入試ではこうした知識は必要最低限でよく、重点的に学習すべきは論文に必要な知識です。
将来的に予備試験や司法試験を受ける予定がある人の中には、「今のうちに短答もやっておこう」と考える方もいるかもしれません。
ですが、論文知識という土台ができてからの方が、短答の理解もスムーズに進みます。
また、短答式試験の点数は直前期の追い込みで大きく伸ばせるため、今から取り組むのは効率がよくありません。
ロー入試の段階では、まず論文で必要な知識をしっかり身につけることが最優先です。
そして、その論文知識とは具体的に何かを知るためには、実際の合格答案を見るのが最も確実な方法です。
それでは早速、合格答案を見ていきましょう!
この答案では、書かれている内容を次の3つに分けて整理しています。
また、筆者が答案を書くときに考えていたことは赤字でコメントしています。
この答案を読むときは、次のポイントを意識してみてください!
✅ロー入試のゴールがどんなものかをつかむ
✅LEVEL①〜③の違いを見分ける
この視点で読み進めることで、合格に必要な力が明確になっていきます!
次の【事実】を読み、下記の【設問】に答えなさい。
次の1から8までの事実があった。
:LEVEL①暗記すべき箇所
:LEVEL②条文知識・背景知識で書いている箇所
:LEVEL③現場思考で書いている箇所
赤字:答案作成時に考えていたこと
1 ➀の請求の根拠は、CのAに対する、債務不履行に基づく損害賠償請求(415条1項本文)であると考えられる。ではこれが認められるか。
→問題文の事情から、415条の問題であるとあたりを付け、条文を引いて請求の根拠を明示しつつ、問題提起をした。
2(1)要件
上記請求の要件は、債務不履行、損害の発生、債務不履行と損害の因果関係、帰責事由があることである。
→暗記していた要件を提示した(条文にも書いてある。)
(2)債務不履行
まず、AC間では、賃貸借契約(601条)が締結されていた。
そして、外からは見えない甲の屋根の内部で毀損箇所が生じていたのだから、Aは上記毀損箇所について、修繕義務(606条1項本文)を負っていた。
また、Aは、2023年9月21日にCから修繕を求められており、「履行の請求を受け」ているが、修繕義務の履行をしていないから、債務不履行がある。
→問題文の修理をしていないという事情から、修繕義務違反を想起し、条文を探して、その債務不履行を認定した。
(3)雨漏りにより、Cの美術作品乙が毀損し、50万円の価値を喪失したのであるから、「損害」がある。
→問題文の事情から、損害額が書かれているところを損害の要件にあてはめた
(4)因果関係
ア 次に、債務不履行と損害に因果関係が認められるか。416条の解釈が問題となる。
→本問では、損害が甲を使用収益出来なかったことによる損害ではなく、美術品の毀損であったことから、因果関係が問題になると考え、問題提起を行った。
イ 416条の趣旨は、公平の観点から、損害の賠償範囲を相当なものに限定する点にある。
よって、同条1項は相当因果関係の原則を規定したものであり、通常生ずべき損害は当然に賠償請求が認められる。
一方、同条2項は相当因果関係の基礎とすべき特別事情につき、当事者が予見すべきであった事情に限定するものに限定している。そして、同項の「当事者」とは債務者をいい、「予見すべきであった」基準時は債務不履行時をいうと解する。
→暗記していた、論証集の規範をコピー&ペーストした
ウ まず、本件における通常生ずべき損害は、修繕義務違反によって通常生ずる損害である。そして、修繕義務は、賃借人の賃借目的物の使用収益を保護するためのものであるから、それを超えて賃借物の中に置かれていた美術品の毀損により生じた損害をも補償すると解すべきではなく、上記50万円の損害は通常損害に当たらない。
次に、Cが著名な美術家であること、AC間の賃貸借契約で甲がアトリエとして利用されることが合意されていること、屋根が毀損していることについて、Aは上記債務不履行時において悪意であった。そうすると、修繕を行わなければ、自然災害等によって雨漏りが発生し、中の美術品が毀損する可能性があったことは、上記時点においてAが予見すべきであったと評価でき、因果関係の判断の基礎とすべき特別事情にあたる。
この事情を基礎にすると、台風が発生し雨漏りによって美術品乙が毀損したことによる上記50万円の損害は通常生ずべきものであり、債務不履行との相当因果関係が認められる。
→上記で提示した規範に問題の事情を評価しながらあてはめた。あてはめにあたっては、論証集に追記していたあてはめの手順を参考にしている。
(4)Aは、屋根の毀損について気付いていながら、それを放置していたのであり、Aには帰責事由がある。
→最後の要件は問題にならなそうであったため、問題提起せずに、条文を引用して簡単にあてはめた。
3 よって、Cの上記請求は認められる。
→設問に答えるように、結論を示した。
今回ご紹介した答案をご覧いただくとわかるように、受験生が答案を書く際に、完璧に暗記している部分は実はごく一部にすぎません。
したがって、基本書の中で暗記すべき箇所も限られたごく一部だけです。これは、法学部の授業でも、予備校の講義でも同じことが言えます。
論文を書けるようになるためには、「覚えるべきポイント」を確実に暗記することが重要です。一方で、それ以外の部分を無理に覚えようとする必要はありません。
むしろ、基本書を隅々まで暗記しようとする学習は、合格に直結する知識の習得を妨げてしまう危険があります。
限られた時間で効率よく合格を目指すには、このような学習法は避けるべきです。
つまり、論文式試験の対策では、「どこを重点的に覚えるか」を見極め、学習に強弱をつけることが不可欠です。
この姿勢こそが、ロー入試を最短ルートで突破するための鍵となります。
以下では、LEVEL①〜③の分類に応じて、具体的にどのような学習が求められるかをさらに詳しく解説していきます。
上記の答案を見ると、暗記すべき箇所は全体の4分の1程度に過ぎません。
意外と少ないですよね。
そして、暗記すべき箇所は法的三段論法でいうと「規範」部分に限られています。
「規範」は合格までに確実に暗記するようにしましょう。
一方で、規範だけでなく、「理由付け」も暗記すべき箇所に含まれています。
しかし、理由付けは規範よりも暗記の優先度は低いです。
また、理由付けは全てを暗記する必要はなく、一つ主要なものを覚えておくぐらいのレベルで十分です。
✅規範は必ず暗記する
✅理由付けは一つは暗記する
この2つが重要なポイントです。
論証集は、試験に出題されやすい論点の、規範と理由付けをまとめた本です。
規範と理由付けの暗記は論証集を用いて行います。
これは多くの受験生が論証集を使用しているためです。
皆が書ける論点の規範と理由付けを覚えていなければ、致命傷になりますが、だれも知らない論点であれば、自分が知らなくても痛手にはなりません。
内容が不正確であるとして、使用しない人もいますが、上記理由から、合格のためには論証集をつかったインプットを行うべきです。
論証集の詳しい使い方については次回以降の記事で詳しく解説します!
繰り返しになりますが、ロー入試受験においては、論文知識だけを重点的に学習することがもっとも効率的です。
そして、主要な論点の規範、理由付けは、論文知識であり、かつ暗記が必要なものです。
基本書を読んだり、講義を聴いたりするときにも、論点の規範と理由付けは特に注意深く理解するようにしましょう(逆に他は力を入れて読む必要はありません)。
条文や背景知識が必要なのは、主に、あてはめや問題の所在(論点)を発見するときです。
そして、これも全体の約4分の1に過ぎませんでした。
条文や背景知識は、論証集には記載されていないことも多く、その場合には、基本書等で知識を得ることになります。
しかし、このような知識は、暗記を要するものではなく、条文や問題文を見たら思い出せる程度で十分です。基本書を読む際も、意味を理解できる程度にざっと読めば足ります。
このレベルにある知識でも、重要な条文で何回も問題に出てきたり、自分が間違えやすいものについては、その知識も論証集とともに暗記をしておくべきです。
このように論証集等に論文に必要な知識を貯めておくと、とても便利です。
答案の半分ほどが現場思考を要する部分でした。
そしてそのほとんどが当てはめ部分です。
近年の予備試験においては、事案が長文化し、当てはめが重要視されています。
しかし、作文が上手い人が受かるほど、簡単な試験ではありません。
現場思考にも事前準備で対応できる部分はあります。
あてはめは、
1. 事実を抜き出す
2. その事実を評価する
3. 規範に当てはまるか判断する
の3ステップで行います。
そして、どの事実を取り上げてどう評価するかは、判例や学説が「重要だ」と考えているポイントをもとに判断します。つまり、「あてはめのガイドライン」は事前に知っておけるのです。
また、論点によっては、あてはめの仕方が複雑になっている場合もあります。たとえば「伝聞証拠」などは、どうやって書くかの順序を、ある程度、型として把握しておくことが試験対策上は重要であり、あてはめの流れ自体を暗記しておくことが好ましいです。
つまり、あてはめは「現場で考えるもの」ではあるけれど、「何をどう考えるか」はあらかじめ準備しておくことで、質もスピードも格段に上がるということです。
ちなみに私は、論証集に「あてはめのやり方」も書き込んで、規範と一緒に覚えていました。ロー入試の段階ではそこまでやらなくても大丈夫ですが、難関ローや予備試験を目指す方には、当てはめの型まで覚える勉強をおすすめします。
ロー入試に合格するためには、やみくもに全てを暗記するのではなく、「合格答案を書くために必要なこと」を見極め、学習に強弱をつけることが何より重要です。
本記事で紹介したように、答案に書かれる内容は大きく3つに分類できます。
このように、どの部分を「覚えるべきか」、どの部分は「理解・整理で足りるのか」、そしてどこで「現場思考」が求められるのかを明確に区別することこそが、最短ルートで合格するための鍵となります。
今後の学習では、今回のレベル分けを意識しながら、限られた時間をもっとも効果的に使う学習方法を身につけていきましょう。次回以降の記事では、具体的な論証集の使い方等も紹介していきます。どうぞご期待ください。