6/5/2025
司法試験合格者に受験の体験談を聞く本連載・令和5年ver。第5回目は、法政大学法学部を経て慶應ロースクールに入学し、修了後に司法試験に一発合格した沖野勇磨さんです。
司法試験合格を目指したきっかけや、再現性を高めた勉強法について話を聞きました。
沖野悠磨(おきの・ゆうま)さん/令和5年司法試験合格。法政大学法学部を卒業後、慶應義塾大学大学院法務研究科法曹養成専攻(既修コース)に入学。2023年3月に修了し、同年の司法試験を受験して合格。現在は77期の弁護士として活躍中。
✅慶應ロー・既修コース
✅一発合格
✅絶対に失敗しないコンディション調整
ーー司法試験を目指した理由や経緯を教えてください
大学受験のときには単に、「潰しがきくから」という理由で法学部を選びました。
大学3年生になり、周りの友人たちが就職活動を始める姿をみて、改めて自分がどのような仕事をしたいのかを考えました。そうした中で、私の父親も祖父も自営業だったこともあり、自営業の魅力を聞きました。
自分が正しいと思う信念に基づいて仕事ができ、独立して自分の事務所を構えることもできる弁護士という仕事を目指すようになりました。
自営業の親族を身近で見て、話を聴いてきたことで、自然とそのような発想が備わっていたのかもしれません。
ーー司法試験を受験されての感想を教えてください
多分受けた皆さんがまず思うことだと思いますが、とにかく長いです。
試験自体も中日を挟んで4日間ありますが、なにより、1科目ごとの時間が長いです。
また、一発勝負という緊張感や周りの緊迫感も相まってかなり疲れます。
本当に体力勝負です。
ーー長い試験本番に備えてやっておくべきことはありますか
この長さの試験を初めて体験してしまうと、自分の想定より断然長く感じてしまいます。すると、疲労が溜まりベストが出せなくなってしまうので、事前に同じ時間で行われる模試を受けておくことが大切だと思います。
もし、模試を受ける余裕がなかったり、模試を受けてしんどいと感じた場合には本番と同じ時間を組んで、自宅で過去問を解いて見るのもおすすめです。
私は、在学中受験世代ではなく、ロースクール既習2年生のときから本番を想定して勉強をしていました。本番はもちろん疲れましたが、模試も受けましたし、覚悟ができていた分ベストのパフォーマンスが出せたと思います。
ーー試験当日や試験期間はどのように過ごされましたか
美味しいもの食べてゆっくりお風呂に入ってしっかり寝ましょう、これで中日後のパフォーマンスが変わります。
まず、焦らないことが大事。
付け焼刃の知識で何とかなる試験ではないので、試験期間中に遅くまで勉強しない。ベストを尽くせるよう、その分しっかり睡眠をとる。緊張で寝れなくても目を瞑ってるだけで疲労は回復します。あとはご褒美に美味しいものでも食べましょう。中日も同じスタンスがいいと思います。
試験当日も、不安があれば論証集を見直すくらいにして、部屋から出て散歩したり、眠くならない程度にしっかり食事をとったり。
友人と話すこともリフレッシュにつながりますが、受け終わった試験の内容について話すと動揺してしまうこともあるので、避けましょう。司法試験はメンタル勝負でもあります。
あとは、試験当日は、基本書を見直す暇はないので、論証集だけ持って行って、休み時間に苦手な分野があれば見直すくらいでいいと思います。
とにかく、次の科目に向けて心と体を休ませることが大切です。
ーー試験に挑むにあたって作戦はありましたか。
試験時間は意外と長いので、焦らずじっくりとやることです。
まずは、しっかり問題を読むことです。
ケアレスミスが一番もったいないと考えてください。また、出題者の意図と違う答えを書いて点数が入らないのももったいないので、しっかり読み込んで、出題者は何を書かせたいのかを理解した上で問題に取り掛かります。
そして、答案構成が苦手な私の場合、ざっくりと出題意図と論点を書き出すくらいにとどめて、その準備が出来てから回答に取り掛かりました。回答を始めたら自分を信じて書くだけです。
ここでもメンタルは大事で、「自分が自信を持てないところはみんなもできてない。みんなが解けていそうな問題を落とさないようにしよう。」と考えましょう。
ーー司法試験の勉強法について教えてください
私は、基本書はほとんど読んでいません。予備校の教材と各科目1、2冊だけです。
基本書は、試験対策という意味では必要以上の情報が載っているので、自分のキャパシティを考えたときに基本書中心の勉強は向いていないと考えたからです。
予備校に通っていなかったり予備校の教材がない人でも多くの基本書に手を出すのではなく、1冊に絞ってしっかり覚えることが重要だと思います。
これは法曹としては恥ずかしい話ではありますが、私は修習生になるまで、「基本刑法」を知らずにいました。それでも刑法はAですし、民法の著名な学者の名前はほとんど知らないですが、民事系はすべてAで合格できています。
そのくらい基本書を多く読まなくても、試験には合格できます。
私の場合、基本書を使わない分、試験時間と同じ時間を計って起案を繰り返しました。
もちろん、最初はなかなか解けない問題が多く、知識も足りないし、論文問題に対応する技術もなく、答案の内容はひどいものでした。しかし、繰り返し問題を解いて起案をしていると、論証の知識を覚えたり、論文問題の書き方、初めての問題や現場思考問題の対応の仕方などが身についてきて、少しずつですが解けるようになって、論文問題と向き合うことの苦痛が少し和らいてきます。ここでのポイントは、一度出てきてわからなかった論証は必ずメモし、電車の中や寝る前などに繰り返し見返して、知識として定着させることです。
ーー「現場思考」について教えてください。
論文問題は、短答の問題と違って、同じ問題はありません。しかし、どの問題もアプローチの仕方は同じ問題が多く、基本的には、論点とそれに対する事実のあてはめです。
なので、たくさんの問題を解くことで、①問題文から論点を抽出 ②その論点の論証に沿って事実をあてはめる という流れを身につける。すると、どんな問題が出ても、対応することができます。
特に最近の問題は現場思考といわれる問題が多く、基本書に載っている典型論点とは違った問題や、ひねった問題が多く、基本書の勉強を中心にやっていると、うまく書けないことが多いと思います。しかし、多くの論文を解いて論文の解き方を身に着けると、見たことない問題が出てきても、なんらかの論点・事実を抽出し、答案を作成することができます。
また、そのような現場思考問題は満点の回答をできることはほぼなく、ほとんどの受験生が正解しているかわからないような状態になります。仮に知らない論点が出ても、一定の論文力があれば、最低限の答案は書けるので、受験生の平均レベルの答案は書けるようになります。
私は、このように論文をたくさん書く勉強をしたので、現場思考問題が多い民事系の科目は全てAでした。
個人差はあれど、論文に慣れておくことは必要だと思います。
ーー短答式試験の勉強はどのようにしましたか。
短答式試験については、伊藤塾の速習短答式過去問を解いてました。
ですが、このテキストは基本的な問題が多いので、最低限全部解けるようにしました。あとは、インターネット上でできる一問一答を電車の移動中や歯磨き中など、隙間時間に解いていました。
短答に時間をかけるのは得策ではないので、論文を書く時間がないときにやることをお勧めします。また、短答の細かい知識は結構忘れてしまうことが多いので、試験が近くなってから過去問を解くなどした方がいいと思います。
ーー司法試験直前の過ごし方は工夫しましたか
私が伝えたいポイントは3点あります。
まず、1つ目は、新しいことはやらないこと。「今の自分」を信じるという事です。
今さら新しい判例や論点を詰め込もうとしても、逆効果になることが多いです。
直前期は「知っていることを確実に再現できる」状態を目指しましょう。
つまり、「詰め込む」より「整える」。焦りは誰にでもありますが、自分を信じて、軸をぶらさないことが何より大切です。
2つ目は、再現力を高める勉強をするこということです。
特に論文は「書けるかどうか」がすべて。過去問をざっと見直したり、答案構成だけしてみたり、テンプレや定型表現を整理したりするのがおすすめ。
手を動かすよりも、「頭の中で流れを再生できるか」を意識すると効果的です。
そして、勉強は本番と同じ環境を意識しましょう。
3つ目は体調管理を最優先にということです。
睡眠・食事・運動。この3つを軽視すると、どれだけ知識があっても本番で力を発揮できません。特に睡眠は1週間前から意識して整えるべきです。試験当日と同じ時間に起きて、リズムをつくりましょう。
また、精神的に疲れた時は、信頼できる友人や講師、SNSなど、どこでもいいので、感情を外に出す場を確保しておきましょう。試験当日の準備を早めにすることも、小さなことですが、ストレスを減らすのに大きく影響します。
受験票、交通手段、持ち物チェック、昼食の段取りなど、試験2〜3日前までにはすべて整えておくのがおすすめです。
司法試験は「当日勝負」ではないということです。
司法試験は、これまで積み重ねてきた力を、数日間で「正しく出す」試験です。
だからこそ、「自分のベストを出せる状態を整える」ことが、直前期の最大のテーマです。
合格した今、あらためて思うのは、この道は確かに険しいけれど、その分だけ意味がある道でした。
ここで簡単なアドバイスと、エールを送らせていただければと思います。
まず、できない日があるのは当たり前ということです。
勉強が手につかない日、何も覚えられない日、自信を失う日はどうしても生まれます。でも、それは決して「失敗」ではありません。むしろ、その時間をどう乗り越えたかが、自分の力になっていきます。
大切なのは、継続よりも回復力です。崩れても立て直せるのが、本当に強い受験生だと思います。
そして、やや繰り返しにはなりますが、完璧じゃなくていいということです。
司法試験に合格するために必要なのは、完璧な知識や模範答案のような論述力ではありません。合格点に届く答案を書けるかどうかです。
だから、迷ったら常に本番で出せる力に立ち返ってください。模試での失敗も、演習での未完成な答案も、「実戦の準備」にすぎません。
勉強がつらいときは、なぜ自分はこの道を選んだのかを思い出してみてください。
その想いこそが、合格後の将来を思い浮かべることにもなり、辛いときに自分を支えてくれます。
最後に、司法試験は、本当に大きな挑戦です。
けれど、それに向き合う姿勢そのものが、すでに法律家としての最初の一歩だと思います。
大変で苦しいこともあると思いますが、焦らず、自分を信じて、頑張ってください。
いつかあなたが合格し、今度は誰かにメッセージを贈る日が来ることを、心から願い、応援しています。
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