4/22/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
明治大学法科大学院2021年 民法
問題1
小問1
1. 本件債権が売掛金債権である場合、DCいずれの請求が認められるか。
⑴供託金還付請求(498条1項)を行うことができるのは「債権者」であるから、CとDのいずれが「債権者」であるか問題となる。
本件債権はAがBに対して有していた債権であり、令和2年5月3日にAからCへ、同年6月4日にDが差押え、同年同月10日にBが債権額に相当する金額を供託している(466条の2第1項)。
⑵ではCとDのいずれが優越するか。
ア 467条1項が通知・承諾を債権譲渡の対抗要件として定めた趣旨は、債権譲渡に関する債務者の認識を通じて、債務者をして公示機能を営ませようとした点にあるが、債務者がかかる公示機能を営むためには、債務者が債権譲渡の事実を知る必要がある。
そこで、差押債権者と債権譲受人との間の優劣は、債権差押命令が第三債務者に到達した日時と確定日付のある証書が第三債務者に到達した日時の先後によって決すると解する。
イ これを本件についてみると、AのCへの債権譲渡に関する通知が内容証明郵便(民法施行法5条1項6号)でBに令和2年5月4日に到達しているのに対し、Dによる差押命令は同年6月10日に到達している。
そのため、Cの確定日付のある証書がDの差押命令より先に第三債務者たるBに到達したといえ、到達日時をみればCが優越するといえる。
ウ もっとも、本件債権には譲渡制限特約が締結されているところ、AのCに対する本件債権の譲渡はかかる譲渡制限特約に反するものであるため、AのCへの債権譲渡が無効となりDが優越することになるとも思える。しかしながら、譲渡制限特約が付された債権の譲渡であっても、その特約違反によって債権譲渡が無効になるということはない(466条2項)。 同条3項は、弁済についての規定であって、債権者の確定とは別次元の話である。よって、譲受人は有効な債権者としての地位を取得する。
したがって、AのCに対する債権譲渡は有効といえ、Dより先に確定日付のある証書を到達させているCが、Dに優越するといえる。
2. よってCに供託金還付請求権の取立権があるといえ、Cの請求が認められる。
小問2
1. 本件債権が預金債権である場合、DCいずれの請求が認められるか。
前述の通りAのCへの債権譲渡に関する通知がDの差押命令より先にBに到達しているため、CがDに優越しCの請求が認められるようにも思える。
もっとも本件債権は譲渡制限特約が付されているところ、譲渡制限特約が付された債権が預金債権であった場合には、譲渡制限特約について悪意又は重過失によって知らなかった譲受人との間ではその譲渡は無効となる(466条の5第1項)。
本件において、CはAから譲渡制限特約のことについて聞かされていたため、譲渡の時点で譲渡制限特約につき悪意だったといえる。したがって、AC間の債権譲渡は無効である。
一方、預金債権に譲渡制限特約が付されていたとしても、差押債権者に対しては譲渡制限特約を対抗することができない(同条2項)。
よって、Dが本件債権をCに優越して差し押さえることができると解する。
2. 以上よりDの請求が認められる。
問題2
小問1(1)
F弁護士として、以下のように助言する。
Cに対しBの本件損害賠償条項を設定した行為(以下、本件行為)は無権代理行為(113条1項)に該当する。
たしかに、Bは従来からAの身の回りの世話をしており、旧建物の賃貸等も行っていたことから、旧建物の賃貸等について包括的な代理権が認められていて今回の上記行為もかかる代理権の範囲内になるとも思える。しかしながら、Aが、Bに対してAの建物の賃貸等の管理を任せたことはなく、代理権授与行為は存しない。また、Bは後見人の地位に就いてたわけでもなく、法定代理権も有しない。そのため、本件行為は、代理権授与(99条1項)を欠く無権代理行為である。
よって、Dは、Aの後見人となり追認拒絶をし、損害賠償請求を拒むことができる。
小問1(2)
1. これに対して、Dは、「Cは無権代理行為を行ったBと親族関係という密接な関係にある者が無権代理行為を追認拒絶することは、信義則(1条2項)に反し許されず、追認を強制される。追認により、本件行為の効果はAに帰属する(113条1項反対解釈)と反論すると考えられる。
2. では、DのAに対する損害賠償請求は認められるか。
⑴後見人は被後見人との関係においては、善管注意義務(869条644条)を負うため、後見人はその時点における被後見人の状況に応じて代理権を行使することが求められる。そこで、制限行為能力者保護と取引安全の調和の見地から、法律行為の内容性質、相手方が被る不利益、関与の程度など諸般の事情を考慮し、相手方の信頼を裏切り正義に反するような例外的な場合でない限り、後見人は、その地位に基づき追認を拒絶できると解する。
⑵Bが行った法律行為は損害賠償条項の設定とAにとって一方的に不利になりうる条項の設定であるとも思われる。しかし、損害賠償条項の設定は、旧建物の建て替え計画の実施を円滑するために重要な意義を有する。すなわち、旧建物の居住者からすれば、その生活の本拠となる旧建物からの転居は、受任しがたいものである。本件予約は、建て替えによって転居させられることはないことを担保する趣旨であり、これを定めたことにより円滑に建て替え計画が実施できるのだから、Bにとって一方的に不利益なものではない。損害賠償条項は、旧建物取壊しの許諾の判断の基礎となる重要な事項であって、これが破棄されることは相手方にとって非常に大きな不利益である。その上、条項の設定はCの臨席のもとでも行われており、Cの関与の程度は小さいとは言えない。
以上を考慮すると、BCの立ち合い下で本件損害賠償条項があることを信頼し本件予約をしたにもかかわらず、本件損害賠償条項を追認拒絶することはDの信頼を裏切り正義に反するものといえる。
⑶したがって、Cの追認拒絶は信義則に反するものとして無効である。
3. よってDのAに対する請求は認められる。
小問2
1. DのAに対する請求が認められない場合にDがBに対して取り得る手段は無権代理人に対する損害賠償請求(117条1項)がある。
2. では、かかる請求は認められるか。
⑴かかる請求が認められるための要件は、無権代理行為があったこと、同条2項各号該当性がないことである。
⑵本件において前述の通りBによる無権代理行為は認められる。また、DはBに代理権がないことにつき悪意ではなく、過失によって知らなかったとの事情もない。仮に過失で知らなかったとしても、Bは自己に代理権がないことを知っていた。さらにBが制限行為能力者である事情もない。したがって、各号該当性はない。
3. そして、Bは自己に代理権があることも証明できず、追認も得られないため。上記請求は認められるといえる。
以上