7/22/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
神戸大学大学法科大学院2021年 民法
第1 第1問
1. ①の場合
⑴ Cの請求
CはDに対して所有権(206条)に基づく返還請求として、甲土地の明渡請求をする。
⑵ 同請求が認められるには、甲土地の所有権がCに帰属している必要がある。そこで、本件売買契約によってCが甲土地の所有権を取得したかという点について検討する。
甲土地は、もともとAが所有していた。そして、Bは、Aのためにすることを示してして、Cに対して、甲土地を売却しており、これに先立ち、AからBに対して甲土地売却の代理権が授与していたから、AからCに対して甲土地の所有権が移転するのが原則である(99条1項、176条)。もっとも、本件売買契約は代理人Bが甲土地の売買代金着服という目的で行われているところ、代理権の濫用(民法(以下、法令名省略。)107条)として無権代理とならないか。
「代理人が自己…の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をし」たこと及び「相手方がその目的を知」っていた場合(107条)には無権代理行為として本人の追認が無ければ契約の効力は生じないことになる(113条1項)。
本件では、Bは自己の借金返済のための売買代金着服という「自己…の利益を図る目的」が認められる。そして、本件売買契約はAがBに与えた甲土地の売却という「代理権の範囲内の行為」といえる。また、Cはかかる事情をしっていたから「その目的を知」っていたといえる。
以上より、107条の要件を満たすから本件売買契約は無権代理行為とみなされ、Aの追認がない限りCの甲土地所有権取得は認められない(113条)。
⑶ したがって、CのDに対する甲土地明渡請求は認められない。
2. ②の場合
⑴ 前記1.の⑵記載の要件該当性を検討するに、Cは過失なくBの代理権濫用目的について善意であったことから本件売買契約が無権代理になるわけではない。そのため、原則通り「本人」たるAに本件売買契約の効果が帰属し(99条)、AからCに甲土地所有権が移転する(176条)。
⑵ 一方で、DはAから甲土地を買っていることから、CがDに対して甲土地の所有権を主張し得るか問題となる。ここで、本件では、CとDがAを売り主として二重譲渡類似の権利関係になっていることに着目して、対抗関係を規律する177条が適用される場面であると考える。
この点、177条は物権変動を公示することにより自由競争の枠内にある正当な権利利益を有する第三者に不測の損害を与えないようにする趣旨の規定である。
そこで、「第三者」とは、当事者及びその包括承継人以外の者で登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者をいうと考える。
DはAから、甲土地を買ったものである。Aは、Bに甲土地の売却を依頼しつつも、自らも売却先を探していたのだから、甲土地の処分権限を完全にBに委譲したのではなく、自ら適法に売却できる地位にあった。そうすると、Aから甲土地を購入(555条)したことで、Dは甲土地の所有権を取得しており(176条)、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者にあたる。したがって、Dは「第三者」にあたる。
⑶ よって、Cは甲土地の登記を具備していないことからDに対して甲土地所有権を主張することができず、甲土地の明渡請求をすることができない。
第2 第2問
1. 代金支払いの要否
⑴ BはAに対して本件売買契約に基づく代金支払請求をする。Aはこれに対し、536条1項に基づきこれを拒むことが考えられる。以下、この点について検討する。
⑵ 要件該当性の検討
ア 本件では、契約時の11月10日に先立つ同月9日に本件ソファが焼失している。
ここで、原始的に不能な契約も有効ではあるから(412条の2第2項参照)、Bは、応接セット効の引渡し債務を負っている。もっとも、原始的不能の場合、文言上「債務を履行することができなくなった」とはいえないから、本条を適用することはできない。
もっとも、本条の趣旨は、債務が履行される以前において、当事者双方の責めに帰することのできない事由により、履行不能となる危険を債務者に負担させようとした点にある。かかる本条項の趣旨が妥当する、本条の類推を認める。
ここで、履行不能か否かは、「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」判断する(412条の2)。
本件では、応接セット甲の引渡し債務のうち、その一部のみが滅失していることからすれば、残部のみの引渡しが可能であるとも思える。しかしながら、アンティーク家具の購入者は、一般にその見た目などを重視して購入する。そして、アンティーク家具は一点物であるから、センターテーブルと2人用のソファにマッチした見た目のソファを探すことは極めて困難である。このような事情を踏まえると、残部のみの引渡しでは、Bは本件契約の目的を達することができないというべきである。このことは、社会通念上もそういえる。以上から、応接セット甲の引渡し債務は、全体として、履行不能であるといえる。イ また、隣接する他社所有の倉庫で発生した火災の類焼が原因であるところ、かかる原因は「当事者双方の責めに帰することができない事由」といえる。
⑶ 以上より、536条1項類推適用により、「債権者」Aは「反対債務」である代金支払債務全額の履行を拒絶することができる。
⑷ 結論
Aは代金75万円支払いを拒絶することができる。
以上。