10/23/2023
The Law School Times【ロー入試参考答案】
九州大学法科大学院2022年 行政法
1について
1. 行政庁が、法令に基づき、特定の者を名宛人として一方的に不利益を与える処分を不利益処分という(行政手続法2条4号)。そして、行政庁が不利益処分を行う場合には、理由の (行政手続法14条1項)を行わなければならない(同法14条1項)。
2. 理由提示の意義は、理由の提示を義務付けることによって行政庁の判断の慎重・合理性を担保し行政庁が恣意的な判断によって不利益処分を行うことを防ぐという点に加え、相手方が不服申立てを行う上での便宜を図ることで、相手方が不利益処分について防御する権利にも資するという点にある。
3. そうだとすれば、以上の意義をもたらすだけの十分な理由提示がなされる必要がある。具体的には、いかなる理由に基づき、いかなる法適用によって当該不利益処分がなされたのかということが、その理由自体から知り得る程度の理由提示を要する。もっとも、処分基準が設定され、公開されている場合には、処分基準の適用関係まで含めて理由提示がなされることが望ましい。平成23年判例も、処分の根拠法令の内容や、処分基準の存否や内容、処分の性質・内容等の要素を挙げ、処分基準の存在を前提として理由提示の十分性を判断することとしている。
4. 以上のことは、申請に対する拒否処分の場合の理由提示(同法8条)にも妥当する。
3について
1. 行政法の基本原理として、法律による行政の原理があるが、これは行政活動が法律に基づき法律に従ってなされることを求めたものである。これにより、国会が制定した法の下で行政活動が行われ、仮に法に反する活動がなされたならば事後的に裁判所の介入により解決されることから、権力分立に資するものである。
もっとも、かかる原理は、信義誠実の原則との抵触のおそれがありうる。すなわち、法に従えば特定の者に一定の処分を行うべき場合であるのに、そのような処分をすることがその者に対して著しく不利益になるなど、信義則による相手方の保護を図るべき場合には、法律による行政の原理と審議誠実の原則は抵触することになる。
2. 例えば、ある地方が工場誘致の政策を作り、それに基づき工場建設準備を行っていたにもかかわらず、選挙で誘致反対派の者が当選したことで政策が白紙に戻され、相手方に多大な不利益を与えた判例がある。選挙によって政策が変更されることは地方自治制度の根幹なのであって、政策変更それ自体が違法と評価されるものでは無い。しかし、判例は、社会観念上看過することのできない程度の積極的損害を被るような場合には、代償措置を講ずることなく施策変更をすることはやむを得ない客観的事情に基づくものでない限り信義則違反として違法性を生じると判示した。
4について
1.侵害留保説とは侵害行政についてのみ法律の根拠を要求し、それ以外の行政活動については法律の根拠を要しないと考える説である。これは、侵害行政と異なり、いわゆる給付行政がなされるような場合には、法律で縛るよりも、かえって行政の自由度を高めておくことがむしろ国民の利益になるという考えに基づいている。
2. 一方で、上記侵害留保説は明治憲法下で唱えられたものであり、現代の新憲法の下では国民主権が採用されているのであるから、給付行政であれあらゆる行政活動が民主的正当性を持たなければならないのにも関わらず、侵害留保説によればこれを無視しているという問題が存在する。そこで、これを克服するために全部留保説という、あらゆる行政行為につき法律の根拠を要求することが考えられる。
3. しかし、この説によれば、法の根拠を制定することを待たなければ行政が自由な活動を行うことができないという問題点があり、迅速に国民のニーズに応えるべきという現実的な要請に耐えるものではないともいうことができる。
5について
1. 行政事件訴訟法9条1項の括弧書きは、狭義の訴えの利益を要請しており、訴えの利益とは当該処分を取り消す必要性のことである。そして、かかる必要性は処分が取消判決によって除去すべき法的効果を有しているか否か、処分の取り消しによって回復される権利利益が存在するか否か、という観点から判断されるものである。2は、上記考慮要素に鑑みて訴えの利益について認められた具体例である。
2. ある公務員が免職処分を受けたところ、その者がその後市議会議員として当選したため、公務員としての職を辞したものとみなされ、公務員としての地位を保つため免職処分の取消を求めることは実益がなく訴えの利益を欠くのでは無いかが問題になった事案がある。この点については、仮に免職処分がなかったとすれば得られた給与請求権や、その他公務員の地位に基づく利益が回復するということができ、地位の回復それ自体ではなく地位に基づく請求権に着目することによって、訴えの利益を肯定することができる。
以上