11/22/2023
The Law School Times【ロー入試参考答案】
東北大学法科大学院2021年 刑法
第1 Yの罪責
Yが、Vを殴打しナイフで胸部を刺し同人を死亡させた行為について、殺人罪(刑法(以下略)199条)が成立するか。
1. Yによる上記行為は、殺人の実行行為にあたり、Vの死亡結果との因果関係もある。また、Yは、「Vを殺害することになってもやむを得ない」と思っており、殺人の未必の故意(38条1項本文)もある。
よって、Yの上記行為は、殺人罪の実行行為に該当する。
2. もっとも、Yは、Vから暴行を受けたことから身を守るために上記行為をしている。そこで、正当防衛(36条1項)が成立し、違法性が阻却されないか。
⑴ まず、「急迫不正の侵害」とは、法益侵害が現に存在しているか、又は間近に押し迫っていることをいうところ、YはVから殴打・足蹴りという暴行を現に受けており、違法な侵害が現に存するといえ、「急迫不正の侵害」がある。
⑵ また、「防衛するため」の行為というためには防衛の意思が必要であり、防衛の意思とは、急迫不正の侵害を意識しつつこれを避けようとする単純な心理状態のことを意味する。Yは、Vから暴行を受けて「身を守るためには、Xの前期指示どおりナイフを使用するしかないと考え」て上記殺人行為に及んでおり、急迫不正の侵害を意識しつつこれを避けようとする単純な心理状態すなわち防衛の意思があるといえ、Yの生命・身体という「自己の…権利」を「防衛するため」といえる。
⑶ では、「やむを得ずにした」といえるか。
ア 「やむを得ずにした」とは、防衛行為の相当性をいうと解する。
イ 本件で、Vは32才・男性であり、Xは25才・男性であるところ、いずれも武術を得ていたという事情もなく、X・Vの体力は同程度であるといえる。また、Vは、Xを手拳等で顔面を殴打した上、路上に転倒させて足蹴りするという激しい暴行を加えている。しかし、対してXは、Vの顔面を殴り返すにとどまらず、ナイフという殺傷力の高い凶器を使用して胸部という身体の中枢部を数回強く突き刺しており、Vの暴行に比して行為態様が激しい。そうだとすれば、確実な防衛効果を期待できるより侵害性の低い侵害排除手段が存在していたといえる。
これらを総合考慮すると、Xの反撃行為は、防衛行為として相当性を欠き、「やむを得ずにした」といえない。
⑷ よって、正当防衛は成立せず、違法性が阻却されない。
したがって、殺人罪が成立し、後述の通りXと傷害致死罪(205条)の限度で共同正犯(60条)となる。
3. もっとも、過剰防衛(36条2項)として、刑が任意的に減免される。
第2 Xの罪責
1. 前述第1のYの行為につき、Yと殺人罪の共同正犯(60条、199条)が成立するか。
⑴ 共同正犯の処罰根拠は、結果に対して物理的・心理的因果性を及ぼした点にある。そして、かかる因果性は、実行行為以外の行為によっても認められうる。そこで、共謀共同正犯も「共同正犯」にあたりうると解する。具体的には、共謀の事実、共謀者の中の一部の者による実行行為、共謀者の正犯意思が必要と解する。
⑵ 本件では、確かに、Xが、Yを説得してVに暴行を加えることを提案しており、凶器たるナイフを使うことも容認している。しかし、Xは、侮辱的な言葉を浴びせてきたVを痛めつけるために暴行することを決意しただけである。また、Xは、YがナイフでVを刺すことになるだろうと思ってはいたが、ナイフが小型であるためVが死亡することはないだろうと思っており、Vが死んでも構わないといった殺人の未必の故意もない。対してYも、自ら進んで暴行を加えるまでの意思はない。
とすると、事実2の時点において、殺人の共謀までは認められない。
よって、殺人罪の共同正犯は成立しない。
2. では、Yと傷害致死罪の共同正犯(60条、199条)が成立するか。
⑴ 前述の通り、XY間で少なくとも、Vに対する有形力の行使という「暴行」(208条)の共謀がある。また、かかる共謀に基づき、共謀者たるYが、前述第1の暴行を加えている。そして、Xは自らYにVに暴行を加えるために協力してほしい旨説得しており、ナイフを使用することも指示していることから、Xは首謀者的な地位にあるといえる。また、XはYの先輩であり、上下関係に伴うXの影響力は強い。とすれば、Xに正犯意思もある。
よって、少なくとも暴行罪の共同正犯は成立しうる。
⑵ では、傷害致死罪の共同正犯までも成立するか。結果的加重犯の共同正犯の成否が問題となる。
ア 結果的加重犯の基本行為は、重い結果を発生させる高度の危険性を内包している。とすれば、基本行為と重い結果との間に刑法上の因果関係があれば足り、重い結果についての過失は不要と解する。
イ 本件でも、基本行為たる暴行・傷害がなければ重い結果である死亡という結果は発生しなかったといえ、また暴行・傷害の危険がV死亡結果として現実化したといえ、刑法上の因果関係がある。
⑶ よって、傷害致死罪の共同正犯が成立する。
3. もっとも、Yに過剰防衛が成立する結果、Xにも過剰防衛の効果が及ばないか。
⑴ 36条2項が任意的な減免を認める根拠は、恐怖・興奮などにより責任が減少することにあると解する。そして、責任とは、行為者に対する非難可能性である以上、行為者ごとに個別的に判断すべきである。
⑵ 本件でXは、YがAに向かえばVとYが喧嘩になり、YがナイフでVを指すことになることを予想した上で、このことを強く願ってYを説得しており、専ら攻撃の意思を有していたといえる。よって、Xには、急迫不正の侵害を意識しつつこれを避けようとする単純な心理状態がなく、防衛の意思が認められない。
よって、Xについては、過剰防衛の効果が及ばない。
4. 以上より、Xに、Yと傷害致死罪の共同正犯が成立し、かかる罪責を負う。
以上