10/26/2023
The Law School Times【ロー入試参考答案】
北海道大学法科大学院2022年 憲法
第1問
1. 本件処分は、外国人たるXが日本に在留する自由を侵害し、憲法(以下略)22条1項に違反し違憲ではないか。
⑴ まず、Xは外国人であるが、外国人にも人権共有主体性が認められるか、ひいては在留の自由が22条2項で保障されるか。
ア 確かに、第三章の表題は「国民の」となっているため、外国人には一般に人権共有主体性がないとも思える。しかし、人権は前国家的・前憲法的性格を有する(11条・97条)。また、憲法は国際協調主義(前文3項・98条2項)を採用している。そこで、権利の性質上日本国民のみをその対象としているものを除き、外国人にも人権の保障が及ぶと解する(マクリーン判決)。
イ 本件では、外国人に在留の自由が憲法上保障されるかが問題となるが、前提として誰に入国を許すかは国家の自由裁量に委ねられているとするのが国際慣習法である以上、入国の自由は、権利の性質上日本国民のみをその対象としているといえ、保障されないと解する。そうだとすれば、在留の自由も同様に外国人には保障されないと解する。
よって、Xにも在留の自由は保障されない。
⑵ 以上より、本件処分は22条2項に反せず、合憲である。
2. 本件処分は、Xの政治活動を主たる理由としてなされたものであるところ、外国人たるXが日本国内において政治活動をする自由を侵害し、21条1項に違反し違憲ではないか。
⑴ まず、外国人に政治活動の自由が保障されるか。
ア 前述1⑴アと同様に考えるに、政治活動の自由は精神的自由権たる表現の自由(21条1項)の一環をなすものであるところ、精神的自由権は、前国家的・自然権的権利である。また、外国人による政治的見解も、日本人の政治に対する理解を向上させる場合があり、日本の民主主義に資するといえる。よって、権利の性質上、外国人にも政治活動の自由が保障されうる。
ただし、政治活動の自由は参政権の行使にかかわるものであるところ、参政権は国民主権(前文1項・1条)に基づき、日本国民にのみ認められる。そこで、外国人の政治活動の自由は、我が国の政治問題に対する不当な干渉にならない範囲で認められるにとどまると解する。
そして、政治活動をしたことが、在留期間の更新に消極的な事情としてしんしゃくされないことまでの保障が与えられているものとはいえないと解する(マクリーン判決)。
イ 本件で、XはA国籍の外国人であるが、政治的な集会や集団示威行進等へ参加するという政治活動の自由も、21条1項で保障されうる。
しかし、かかる活動の中には、日本の出入国管理政策に対する非難行動、あるいは日本の基本的な外交政策を非難し日本とA国間の友好関係に影響を及ぼすおそれがある活動も含まれており、我が国の政治問題に対する不当な干渉になるといえ、21条1項の保障が及ばない。
また、本件処分は、Xの政治活動を主たる理由としてなされたものであるが、前述のとおり、在留期間の更新に際して政治活動をしたことが消極的事情としてしんしゃくされない自由は、21条1項で保障されない。
⑵ 以上より、本件処分は21条1項にも反せず、合憲である。
第2問
1. ①について
内閣による法律案の提出は、国会を「唯一の立法機関」とする41条後段に反しないか。
⑴ 「唯一」(41条後段)には、国会の議決だけで法律を制定しうるのであって立法に他の機関の承認等は不要であるという国会単独立法の原則が含まれる。
⑵ 議院内閣制(66条3項参照)のもとでは、国会と内閣の協働が要請されると解する。また、「議案」(72条前段)には法律案も含まれると解する。さらに、国会は法律案を自由に修正・否決できるから、内閣に法律案の提出を認めても、特に不都合はない。
⑶ よって、内閣による法律案の提出は、国会単独立法の原則に反せず、41条後段に反しないと解する。
2. ③について
委任立法は、国会を「唯一の立法機関」とする41条後段に反しないか。①と異なり、いわゆる国会中心立法の原則との関係で問題となる。
⑴ 41条後段の趣旨は、国民代表機関たる国会(43条1項)に立法権を独占させ、立法に民主的コントロールを及ぼすことによって、国民の権利・自由を可及的に保障することにある。かかる趣旨に照らせば、41条後段は、国会以外の期間が立法をすることを禁止する国会中心立法の原則を含むと解する。
⑵ 現代の福祉国家(25条以下)においては、専門的・技術的事項や迅速性を要する事項、政治的中立性が特に要求される事項などに関する立法の要請が増大している。そして、かかる事項に関する立法は、官僚機構を有する内閣等に委ねるのが適切である。また、73条6号ただし書は、委任立法を前提としている。
⑶ よって、委任の目的と規律対象・範囲を定めた個別・具体的な委任であれば、国会中心立法の原則に反せず、41条後段に反しないと解する。
3. ②について
③と同様に、いわゆる国会中心立法の原則に反し、41条後段に反しないかが問題となるが、反しないと解する。
⑴ 確かに、行政各部に属する官僚が立法に関与している点で、国会中心立法の原則に反するとも思える。しかし、前述の通り、福祉国家においては専門的・技術的事項・迅速性を要する事項・政治的中立性が特に要求される事項などに関する立法の要請が増大しており、かかる事項に関する立法は、官僚機構を有する内閣等の行政各部に委ねるのが適切である。
⑵ よって、官僚が法案原案を作成することも、国会中心立法の原則に反せず、41条後段に反しない。
以上