広告画像
2021年 刑事系 東京大学法科大学院【ロー入試参考答案】
後で読むアイコンブックマーク

2021年 刑事系 東京大学法科大学院【ロー入試参考答案】

10/16/2023

The Law School Times【ロー入試参考答案】

東京大学法科大学院2021年 刑事系

設問1

1. XがAの顔面を殴打した行為は、人の身体に対する不法な有形力の行使たる「暴行」(刑法(以下略)208条)にあたるものであり、これにより急性心不全という身体的機能への侵害、すなわち「傷害」を与え、もって「死亡」(205条)させたものであり、傷害致死罪が成立する。

2. 次に、Xが写真に火をつけた行為について非現住建造物放火罪の未遂罪(109条1項、112条)が成立しないか。
未遂罪の処罰根拠は構成要件的結果発生の現実的危険性を惹起したことにあるのであるから、これが認められる場合には「実行に着手」(43条柱書き)があったもの考える。

 ⑴ 本件では、Xは灰皿の中の写真を燃やし、これをベッドの上に置くことで火を燃え移らせることを計画していたものの、実際にはベッドの上におくことまでは至っていない。たしかに、ベッドの上に燃えた写真の入った灰皿を置くという、可燃性で燃えやすい材質であることが多い掛け布団に対する延焼を引き起こすおそれの高い行為まではなさなかったものの、サイドテーブルに置いた状態であっても、中の燃えた写真が上記可燃物に飛散し燃え移り、建造物の燃焼を惹起しうる危険性は十分に高かったといえる。よって、非現住建造物を焼損しうる危険性は惹起されていたといえ、「実行に着手」はあったといえる。

 ⑵ 結果的に、非現住建造物が独立して燃焼を継続する状態に至ってはおらず、「焼損」はない。よって「これを遂げなかった」として、未遂犯の構成要件を満たす。

 ⑶ もっとも、Xの主観では、Aは気を失っていたに留まっており、Xが行った着手行為は現住建造物放火によるものとの認識であった。そのため、Xの主観と客観的な犯罪発生事実に齟齬が生じており、これをもってXの故意がかけることとなるのではないか、問題となる。

 ⑷ 故意とは客観的構成要件該当事実に対する認識・認容をいう。そして構成要件は保護法益と行為態様に基づき類型化されたものである。そのため、認識した事実と実際に発生した事実とが構成要件、ひいては保護法益と行為態様について、実質的に重なり合いがあると認められれば、その範囲で軽い罪につき故意が認められる。

 ⑸ 現住建造物であれ非現住建造物であれ、行為態様は焼損の惹起たる放火という点で共通であり、保護法益も不特定多数の者の生命・身体、また社会的な公共の安全性という点では共通している。よって故意が欠けることはない。

 ⑹ 以上より、Xに上記罪が成立する。

3. また、同行為に殺人罪の未遂罪(199条、203条)も成立しないか。

 ⑴ AはXの放火行為の際には既に死亡しており、不能犯が問題となる。

 ⑵ 未遂犯の処罰根拠は上記の通りであり、同様に危険性の惹起があるか判断する。そして、行為は主観と客観の統合体であることから、かかる危険性の判断においては、行為時に一般人が認識し得た事実及び行為者が特に認識していた事実を基礎として、一般人の危険感を基準に判断する。

 ⑶ 本件では、XはAが死亡していたことの認識は無く、また一般人からしても、殴打行為によって急性心不全に陥らせ、それによってAが死亡していたことは認識しえなかったのであるから、一般人の危険感を基準に判断した場合、なおAを放火によって殺害する危険性は存在したといえ、不能犯は成立しない。

 ⑷ よってXに同罪が成立する。

4. 非現住建造物放火罪と殺人罪の未遂罪は観念的競合(54条1項)となり、それと傷害致死罪は併合罪(45条)となる。

 

設問2

1. 本件DVDは「公判期日における供述に代えて書面」(以下伝聞証拠)を証拠とするものであり、刑訴法(以下略)320条1項により、証拠として採用できないのではないか。

2.

 ⑴ そもそも伝聞証拠は、人間の知覚・記憶・表現・叙述という過程を経るものである。そして、上記各過程には誤りが入り込む可能性が高いにもかかわらず、公判廷外における供述を内容とする証拠については、宣誓(154条、規則116条から120条)、反対尋問(憲法37条2項前段)等の方法によって、供述の信用性を吟味し、内容の真実性を担保することができない。そのような証拠を許容すると事実認定を誤るおそれがあるから、このような証拠は原則として証拠能力を否定されるべきとするものである。

 ⑵ そのため、伝聞証拠とは公判廷外の供述を内容とするもので、要証事実との関係で内容の真実性が問題となるものをいう。

 ⑶ 本件では、Bの供述は公判廷外の取調室においてなされたものである。また、要証事実はXの犯人性である。そしてBの供述が真実であってはじめてXがAと会い、Aを殺す機会があったことやその動機の存在を証明できるのであるから、真実性が問題となっており、伝聞証拠にあたる。

3.では、伝聞例外として例外的に証拠能力が認められないか。本件DVDは検察官の前でなされた供述に関するものであるため、321条1項2号の伝聞例外を検討する。確かにBは事故で「死亡」しているものの、DVDにはBの署名押印はないため、このような場合でも伝聞例外として許容されるかが問題となる。

 ⑴ この点、署名押印は録取過程の正確性を担保するために要するものであるから、機械的な方法によって正確に録取されたと考えられる場合には署名押印は例外的に不要となる。

 ⑵ 本件でも、DVDという機械的正確性をもって録取されたBの供述には、Bの署名押印は要しない。

 ⑶ よって、321条1項2号を満たす。

4. もっとも、Bの供述にはAの供述も含まれており、やはりA供述が真実であるからこそXの動機や殺害機会を証明しえるのであるから、Aの供述部分もその真実性が問題となり、伝聞証拠となる。そこで、再伝聞の許容性が問題となる。

 ⑴ 伝聞例外を満たせば「公判期日における供述に代えて」証拠となるのであるから、324条を適用する基礎がある。そして単なる伝聞も信用性の状況的な保障と証拠採用の必要性とを考慮して伝聞例外を許容しているのであるから、再伝聞過程に同様の信用的保障、すなわち伝聞例外を満たせば証拠能力が認められる。

 ⑵ 本件では「被告人以外の者」たるBの供述で、「被告人以外の者」たるAの供述を内容とするため、324条2項より321条1項3項を準用する。

 ⑶ Aは既に「死亡」している。「犯罪事実の存否の証明に欠くことができない」とは、それを証拠とすると否とによって事実認定に著しい差異を生ぜしめることをいうところ、Xの犯人性を吟味するうえでAの供述の有無は大きく影響することは明らかでありこれを満たす。また、BとAは長年の友人であり虚偽の情報を話すことに理由はないと見えるし、Aが終始真面目な顔で話していたという状況からも、「特に信用すべき」ものとして絶対的特信情況があると考えられる。

5. よって、DVDを証拠として採用できる。

以上

おすすめ記事

ページタイトル
ロースクール

【最新版】ロースクール入試ハンドブック公開!全34校の説明会/出願/試験日程・入試科目・過去問リンクが一冊に!【2026年度入学者向け】

#ロースクール
ページタイトル
キャリア

法律事務所EXPO powered byカケコム 開催決定!

#ロースクール
ページタイトル
キャリアインタビュー

伝統と変革。テクノロジーと協働し、顧客の感情と向き合う弁護士を育てる。Authense法律事務所代表・元榮太一郎弁護士インタビュー【PR】