4/4/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
九州大学法科大学院2024年 民法
問題1
1. PはQとの財産分与(民法(以下略)768条1項)について課税される対象はQだけだと思っていたにもかかわらず、実際はPに譲渡所得税が課されることになっていたことを理由に財産分与を錯誤取り消し(95条1項柱書、2号)することが考えられる。かかる取消は認められるか。
⑴まず、Pは財産分与の意思表示をするにあたり、Qのみが財産分与の課税対象になることを基礎として財産分与の意思表示をしている。そして真実はPに譲渡所得税が課されるから、Pには「表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」といえる。
そして、一般に財産分与にかかる譲渡所得税は高額であり、通常人も自分が課税対象であるとすれば、当該条件での財産分与を承諾するとは考えられない。そのため、財産分与の課税対象が誰であるのかは「法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるとき」といえる。
⑵次に意思表示が「錯誤」に「基づく」ものという要件を満たすか問題となるが、この点錯誤がなければPは当該条件による財産分与を行うことがないことが明らかであるから、これを満たす。
⑶次にPの錯誤が「表示されていたとき」(95条2項)といえるか。「表示されていたとき」の意義が問題となる。
ア 取引安全の観点から「表示されていたとき」とは、その錯誤が相手方に了承され、法律行為の内容になっていることを要すると解する。
イ これを本件についてみると、PとQは双方共に財産分与の際の課税対象がQだけであることを前提としている。課税対象がQのみであるから、財産が公平になるようPも不動産を無償でQに譲渡しており、これをQも了承している。そのため、PQの財産分与は黙示的に課税対象がQのみであることを内容としている法律行為といえる。そして、他に特段の事情もない。
ウ したがって、Pの錯誤が財産分与に「表示されていたとき」といえる。
2. よって、Pに95条1項2号の錯誤が成立し財産分与は取り消すことができる。なお、Pの過失に重大な過失があったとしてもQも同一の錯誤に陥っているため95条3項2号により取り消すことが可能である。
問題2
1. CはBに対して甲の所有権(206条)に基づいて返還請求権としての甲の明渡請求をすると考えられるがかかる請求は認められるか。
⑴まず、Cは甲の所有権を有しており、Bは甲を占有している。そのため、上記請求は認められるように思える。
⑵もっとも、Bとしては自己には賃借権という正当な占有権原がある旨の反論をすることが考えられる。かかる反論は妥当か。
ア そもそも、Bは賃貸借①でAを賃借人とする賃貸借契約(601条)を締結しており、賃貸借②でもAがBにとっての賃貸人であることに変わりはない。そしてAC間の賃貸借契約がAの債務不履行により解除(541条)されているため、原則AB間の賃貸借契約も社会通念上履行不能(412の2第1項)となるとして、Bの反論は妥当といえないとも思える。
イ しかしながら、605条の2第2項後段によりAC間の賃貸借契約の終了に伴いCにBの賃貸人としての地位が移転する結果Bはいまだ占有権原としての賃借権を有することにならないか。
(ア)まず、605条の2第2項前段は適用されないか。AとCは元々甲を目的物としてAを賃貸人Cを賃借人とする賃貸借契約を締結していたところ、Aは甲をCに売って所有権を移転した。その際、甲に係る賃貸契約の賃貸人の地位を不動さんの「譲渡人」たるAに留保する合意をした上で甲を「譲受人」たるCが「譲渡人」たるAに「賃貸する旨の合意」をしている。
そのため、605条の2第2項前段の適用がある。
(イ)次に同項後段は適用されないか。譲渡人Aと譲受人Cの賃貸借契約はAの債務不履行を理由とするCの解除により終了している。そのため、「譲渡人と譲受人…との間の賃貸借が終了したとき」といえ同項後段の適用がある。そのため、AC間の賃貸借の終了に伴いBの賃貸人はCに移転する。
したがって、BC間の賃貸借が改めて解除されない限りBはCに対して甲を目的物とする賃借権を有する。
なお同項後段は不動産の新旧所有者間の取り決めにより賃借人たる地位の安定が損なわれるのを防ぐための規定であるため、旧所有者の債務不履行により新旧所有者間の賃貸借が終了したとしてもそのことを理由に賃借人の賃貸借契約が社会通念上履行不能になることはない。
ウ よって、Bの反論は妥当である。
2. 以上より、CのBに対する請求は認められない。
以上