8/12/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
中央大学法科大学院2024年 商法
設問(1)
1. BはDに株券を交付しているため、BD間の株式の譲渡は有効である(会社法 (以下法名省略) 128条1項、127条)。
2. 次に、D が本件株式についての「株主」(会社法(以下略)309条1項)に当たる場合には、甲社がBに議決権を行使させたことは違法となる。では、Dが同項の「株主」に当たるか。
⑴ Dは単独で株主名簿の名義書換を請求している。株券発行会社の場合、株券を提示すれば「利害関係人の利益を害するおそれがないものとして法務省令で定める場合」に当たるため、譲受人単独で株主名簿の書換を請求できる(133条2項、施行規則22条2項1号)。そのため、Dの名義書換請求は適法である。
⑵ もっとも、株主総会の招集通知が発せられた時点で、名義書換を完了していなかったのであるから、Dは甲会社に対し甲会社の「株主」であることを対抗できないのではないか。
ア 株主名簿制度 (121条以下)の制度趣旨は、多数かつ絶えず変動し得る株主の取扱いに関する会社の事務処理上の便宜を図る点にあるから、名義書換の義務を怠った会社がその不利益を株式譲受人に転嫁するのは信義則 (民法1条2項) に反する。
そこで、 名義書換の不当拒絶の場合、 名義書換未了の株式譲受人は、 会社に対して株主としての地位を主張することができる。
イ 本件では、甲社の過失によりDの名義書換請求が放置されている。そして、前記の通り、Dの名義書換請求は適法である。そのため、甲社が名義書換に応じなかったのは、不当拒絶に当たる。
ウ よって、名義書換未了であっても、会社に対し株主としての地位を主張することができる。3 よって、Bに議決権を行使させたことは違法である。
設問(2)小問①
1. 本件贈与は利益供与(120条1項)に該当するか。利益供与に該当する場合、供与を受けたEは120条3項に基づき、Y1は「利益の供与…に関する職務を行った取締役」(施行規則21条2号ロ)として120条4項に基づき、甲社に対して500万円の返還義務を負う(120条4項)。もっとも、本件贈与が株式の買取代金と同額であることから、Eは株式の買取代金としてかかる贈与を受けているといえる。よって、株式の譲渡が「株主の権利の行使」に当たるかが問題となる。
⑴ 株式の譲渡は株主たる地位の移転であり、それ自体は「株主の権利の行使」とはいえない。ただし、株式譲渡のための利益の供与であっても、会社からみて好ましくないと判断される株主の権利行使を回避する目的を有している場合には、当該株主に権利を行使させない目的があったといえるから、「株主の権利の行使に関し」利益を供与したといえる。
⑵ Aは株主総会においてY1に批判的な言動を繰り返すようになっており、ら、Aが反社会的勢力である団体に属していた。そのため、甲社は、Aの株主権を行使させない目的でEにAの保有する株式を買い取らせるために、本件贈与をしている。そのため、会社からみて好ましくないと判断される株主に権利を行使させないという目的を有しているといえる。
⑶ よって、「株主の権利の行使に関し」利益を供与したといえる。したがって、EとY1は甲社に対してかかる500万円を甲社に返還する義務を負う
設問(2)②
1. Y1だけでなく、Y2、Y3も「決議に賛成した取締役」として、甲社に対し500万円の支払義務を負う(120条4項、施行規則21条2号イ)。
そのため、Cは、「6箇月…前から引き続き株式を有する株主」(847条1項本文)である場合は、甲社に対し、甲社がY1、Y2、Y3及びEに対して責任追及の訴えを提起するよう請求することができる。また、請求後60日以内に提訴しない場合や甲社に回復することができない損害が生じるおそれがある場合には、Cは甲社のためにかかる訴訟を提起(同条3項、5項)することができる。
以上