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2023年 刑事法系 岡山大学法科大学院【ロー入試参考答案】
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2023年 刑事法系 岡山大学法科大学院【ロー入試参考答案】

2/29/2024

The Law School Times【ロー入試参考答案】

岡山大学法科大学院2023年 刑事法系

問題1

設問1

1. 甲が泳いでAを助けなかったという不作為について、殺人罪(199条)が成立しないか。

2. 予測可能性の保障という罪刑法定主義の要請に照らし、不真正不作為犯の実行行為性が認められるには、不作為につき作為との構成要件的同価値性が必要である。具体的には、①作為義務の存在、②作為の可能性・容易性が必要である。
 そして、作為は結果に至る因果の流れを設定し、結果実現過程を支配している点に特徴があることとの均衡を図るため、作為義務が認められるには、不作為者に法益の維持・存続が具体的かつ排他的に依存しているという関係としての排他的支配が必要である。また、偶然に排他的支配が生じた場合にまで作為義務を認めるのは不合理であるから、作為義務が認められるには、排他的支配に加えて、先行行為ないし保護の引受けが必要である。
 甲は自分の子供Aをプールに連れて行っており、プールサイドで遊ぶよう告げて買い物に出かけ、10分ほどAを放置している。Aは4歳という幼い子供であり、保護者の監視なくプールサイドで遊べばプールで溺れる危険性は極めて高いため、甲はAが溺死する危険作出行為をしたといえ、先行行為が認められる。また、Aはプールで溺れており、甲以外にAの保護者はいないため、Aの生命の維持・存続はもっぱら甲に依存しているといえるため、甲に排他的支配が肯定できる。したがって、甲にAを助けるという作為義務が認められる(①充足)。
 また、甲は、泳いで助けることは可能であり、容易であったから、作為の可能性・容易性も肯定できる(②充足)。
 それにもかかわらず、甲はAを救助しなかったため、作為義務違反が認められる。
 よって、甲の不作為による実行行為性が認められる。

3. 不作為犯の条件関係は、仮定的判断を要するから、ある期待された作意がなされていたならば高度の蓋然性をもって結果が回避されたといえる場合に認められる。
 甲は、泳いでAをプールサイドに引き上げればAを救命することができたといえ、作意がなされたならば高度の蓋然性をもって結果が回避されたといえるため、条件関係が認められる。
 また、甲の不作為はAの死亡結果を惹起する危険性が極めて高い行為であり、当該危険が現実化したといえるため、因果関係が認められる。

4. そして、甲は、Aが溺れていることを認識しつつ、このまま死んでくれればいいと思い、その場を立ち去っていることから、構成要件該当事実の認識・認容があるといえ、殺人の故意(38条1項本文)も認められる。

5. よって、甲の不作為に殺人罪(199条)が成立する。

設問2

1. 乙が乙所有の自転車をBに無断で持ち去った行為は、窃盗罪(235条)の構成要件に該当するか。

2. 窃盗罪の客体は、「他人の財物」であるところ、「他人の財物」とは、他人の所有する財物をいうから、乙自身が所有する本件自転車は「他人の財物」にあたらないのではないか。
 この点、自己所有物であっても、「他人が占有…するもの」は、「他人の財物」とみなされる(242条)。乙は、Bによって盗まれ、Bの事実上の支配が及んでいた自己所有の自転車を持ち去っているため、「他人が占有」に事実上の支配も含まれる場合には、乙の行為は窃盗罪の構成要件に該当することになる。そこで、「他人が占有」に権原に基づかない事実上の占有も含むのかが問題となる。

3. 現代社会においては、所有と占有が分離することが一般的であり、所有権と切り離して占有を保護する必要性は高い。また、所有権と切り離して占有を保護することは、近代法治国家の原則である自力救済禁止の原則からしても合理性は認められる。そのため、242条の「占有」は、権原に基づく適法な占有に限られず、権原に基づかない事実上の占有をも含む。
 自転車に対しては、Bの事実上の支配が及んでいたのであるから、本件自転車は「他人」であるBが「占有」するものといえ、242条により「他人の財物」とみなされる。

4. そして、乙は自転車をBに無断で持ち去っているから、占有者Bの合理的意思の反して自転車の占有を侵害し、その占有を自己の下に移転させ、これを「窃取した」。

5. 甲には窃盗罪の故意があり、権利者排除意思及び利用処分意思を内容とする不法領得の意思も認められる。

6. したがって、乙の自転車を持ち去った行為は、窃盗罪の構成要件に該当する。

問題2

1. Kらが行った事例「2」の行為は、令状の事前呈示(刑訴法222条1項・110条)に反し、違法とならないか。

2. 捜索・差押えを実施するにあたっては、処分を受ける者に対して、令状を示さなければならない(222条1項・110条)。その趣旨は、処分を受ける者に対して、その処分の内容を知らせることにより、手続の明確性と公正を担保するとともに、それに対する不服申立ての機会を与えることにある。したがって、令状は、その執行を開始する前に提示するのが原則である。もっとも、令状の事前呈示の原則は憲法の令状主義(憲法35条)の要請ではないため、①令状の事前呈示の要請に優越する必要性がある場合には、②必要な限度で令状の呈示を遅らせることも許される。

3. Kらは、暴力団組員の被疑者甲が覚醒剤を密売しているとの嫌疑について捜査しており、甲の自宅が覚醒剤密売の拠点であると考えた。覚醒剤は洗面所に流すなど短時間のうちに差押え対象物件を破棄隠匿することが容易であり、捜索差押許可状執行の動きを察知されれば、暴力団組員による組織的な覚醒剤の密売において、直ちに差押え対象物件が破棄隠匿されるおそれがあった。このような事情が存在することからすると、令状を呈示する前に差押え対象物件の破棄隠匿を防止する措置を講ずることが必要であったといえ、令状の事前呈示の要請に優越する必要性が認められる(①)。
 また、Kらは、インターフォンを鳴らし、甲が玄関扉を開けると、警察であることを明かし、捜索令状が発付されていることを告げた上で、差押え対象物件が破棄隠匿されないように同室内の各部屋やトイレ、洗面所等の様子を確認するとともに室内にいた甲を含む3名の人物の挙動を確認できる状況を整えたのちに、捜索差押許可状を示して、捜索を開始する旨告げている。そして、Kが甲の自宅室内に立ち入ってから約3分後という短時間のうちに捜索差押許可状を示しているため、必要な限度で令状の呈示を遅らせたものといえる(②)。
 したがって、例外的に令状の事後的な呈示が許容される場合にあたり、適法である。

以上


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