5/12/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
広島大学法科大学院2025年 刑法
問(1)
1. 不法領得の意思が必要とされる理由
窃盗罪(235条)において不法領得の意思は、①窃盗罪と毀棄・隠匿を目的とする器物損壊罪(261条)との区別、②一時的な使用に過ぎない不可罰の使用窃盗との区別のために必要である。①については、窃盗罪が器物損壊罪よりも法定刑が重いのはその利欲犯的性格であるため区別が必要であり、②については処罰範囲が不当に拡大しないために区別が必要である。
2. 不法領得の意思の定義及び意味内容
不法領得の意思とは、権利者を排除し、他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従い利用又は処分する意思をいう。この定義は、二つの要素から構成される。
⑴権利者排除意思
これは、目的物の占有を奪取し、所有者その他本来の権利者を排除して、その物が本来有する利用可能性を失わせる意思をいう。この意思が認められることにより、単に一時的に使用するだけで後に返還する意思があるような、いわゆる不可罰の使用窃盗が窃盗罪の構成要件該当性段階で否定される。ただし、財物が返却された場合でも、物の価値が著しく減少する場合や、占有排除の時間が長時間にわたる場合などには、権利者排除意思が認められる場合もある。
⑵利用処分意思
これは、他人の物を自己の所有物であるかのように、その物の経済的効用を利用・享受し、または処分する意思をいう。この意思が認められることにより、他人の物を毀棄・隠匿する目的で持ち去る行為が窃盗罪から区別され、器物損壊罪等として処罰されることになる。利用処分意思の対象となるのは、物の物質的側面のみならず、その物が有する経済的価値である。
問(2)
1. 横領行為を「不法領得の意思を発現する一切の行為」と定義する見解を採用する理由 上記の定義の他には、横領行為を委託の趣旨に反する権限逸脱行為と定義し、不法領得の意思を不要とする越権行為説がある。しかし、単に権限を逸脱したというだけでは、横領罪の第一次的な保護法益である所有権を侵害したとは言えない。また、横領罪は領得罪であり、その利欲犯的性格から不法領得の意思が必要である。そこで、横領行為の定義には権限逸脱行為の他に不法領得の意思が必要である。
2. 上記定義における不法領得の意思の意味内容
横領罪における不法領得の意思は、「他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに、その物の効用に基づいて、所有者でなければできないような処分をする意思」と解され、窃盗罪と同様に権利者排除意思と利用処分意思から構成される。判例においては、利用処分意思が不要と解されるものもあるが、横領罪の法定刑が器物損壊罪の法定刑よりも重いのはその利欲犯的性格からであるから、利用処分意思は必要と考える。
問(3)
1. 盗品譲受け等罪(256条)の客体である「盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物」における「領得された」の意味
ここでいう「領得された」とは、窃盗罪、強盗罪(236条)、詐欺罪(246条)、恐喝罪(249条)、横領罪(252条)といった「財産に対する罪」の構成要件的結果として、犯人が目的物の占有を違法に移転させ、取得した状態を指す。よって、盗品と同一性を失った代替物は同罪の客体に当たらない。
問(1)で述べた窃盗罪における不法領得の意思に基づく「窃取」行為、すなわち権利者を排除し、自己の所有物と同様に経済的用法に従い利用・処分する意思(不法領得の意思)をもって財物の占有を取得する行為によって、財物が「領得された」状態になることが典型である。同様に、他の財産犯においても、それぞれの構成要件(欺罔、脅迫、横領行為など)を通じて、犯人が財物を自己または第三者の支配下に置き、実質的に利用・処分可能な状態にすることを意味する。
したがって、「領得された」とは、先行する本犯(財産犯)が既遂に達し、その結果として財物が犯人等の占有下に移された状態を指す。
2. 遺失物等横領罪(254条)における「横領した」の意味
遺失物等横領罪の客体は委託信任関係に基づかない占有離脱物であるため、その「横領した」の意思の内容は、不法領得の意思に基づいて目的物を自己の支配下に置くことをいい、ここでの不法領得の意思は単に「権利者を排除し、自己又は第三者の所有物としてその経済的用法に従い利用又は処分する意思」である。
以上