7/30/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
明治大学法科大学院2022年 民法
問題1
小問1
1. 法律構成
⑴ 本件不動産の明渡し請求
B・Cは本件不動産の持分権に基づき、Aに対して明渡し請求をすることが考えられる。
⑵ 使用料相当額の支払請求
B・Cは、民法(以下、略)249条2項に基づいて、Aの持分を超える部分の対価の償還請求として使用料相当額の請求をすることが考えられる。
2, 上記請求の検討
⑴ 本件不動産の明渡し請求
この点、A・B・Cはそれぞれ本件土地の持分権を3分の1ずつ有していることから、Aは少数持分権者となる。したがって、過半数である3分2の持分を有するB・Cによる明渡し請求を拒むことができないように思える(252条1項参照)。
しかし、Aとしては、自らも本件不動産の持分を有しており、本件不動産を使用できると反論することが考えられる。
この点、少数持分権者であっても、持分権者は当該共有物全体の使用権を有している(249条1項)。そのため、多数持分権者といえども当然に当該共有物の明渡しを求めることはできず、明渡しを求めるには共有者間で使用方法についての特段の合意があるなど明渡しを求める理由を立証しなければならない。
これをみるに、本件では、A、B、Cの間に本件不動産の使用について特段の合意はなく、協議されたこともなかった。したがって、BCによる上記請求は認められない。
⑵ 使用料相当額の支払請求
もっとも、Aは「他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う」(249条2項)からAは、自己の持分を超える3分の2の持分の使用料相当額をBCに支払うことができる。よって、BCは、Aの持分を超える3分の2持分にかかる使用料相当額の支払を求めることができる。
小問2
1. 法律構成
Bは、本件不動産の持分権に基づき、共有物の保存行為(252条5項)として、Dに対して所有権登記の抹消登記手続を請求することが考えられる。
2. 上記請求の当否
⑴ Dは、自己が「第三者」(177条)であるとして、Bの請求を拒むことが考えられる。
この点、177条の趣旨は、物権変動を公示することにより、自由競争の枠内にある正当な権利利益を有する第三者を保護し、物権変動の動的安全を図った点にある。そこで、「第三者」(177条)とは当事者及びその包括承継人以外の者で、登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する者をいうと考える。
本件では、Aは自己の持分を超えた部分については無権利者であり、Dはその部分については無権利者から本件不動産を購入していることから、そもそもDは本件不動産の所有権を取得していない。登記には公示の機能はあるが、公信の機能はない。したがって、Dは、Aは自己の持分を超えた部分については無権利者であるから、登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する者とはいえない。
よって、Dは「第三者」には当たらず、上記反論は認められない。
⑵ 以上より、Bは、本件不動産の持分権に基づき、共有物の保存行為(252条5項)として、Dに対してAの持分を超えた部分についてのみ抹消登記手続を請求することができる。
問題2
小問1
1. Bは、本件手付が解約手付(557条1項)にあたるとして、Cに400万円支払って本件契約を解除することが考えられる。Cはこれに対して本件手付は違約手付に過ぎない旨反論すると考えられる。そこで、本件手付が解約手付としての性質を有するか検討する。
2. 一般に、違約手付は契約の結束を強め、解約手付は契約の結束を弱めるといわれる。しかし、違約手付は債務不履行があった場合に手付によって定められた額の支払をして契約関係から逃れられるという性質に着目すれば、必ずしも違約手付は契約の結束を強めるとは限らない。そこで、手付は違約手付と解約手付の両方の性質を併せ持つことができると考える。
3. まず、本件手付は、「Bが不履行の場合、Bは受領した手付金の倍額をCに支払うものとし、Cが不履行の場合、Cは手付金の返還請求権を放棄するものとします」との契約書が交わされているから、債務不履行の場合の処理を記載した違約手付の性質を有するといえる。しかし、本件手付は、Bが債務不履行をした場合には手付金の倍額を払うことで解約できる趣旨の手付であるとも解することができる。この点に着目すれば、本件手付は違約手付と解約手付の双方の性質を持つ手付ということができる。
4. したがって、Bは本件手付金を支払って、本件契約を解除することができる。
小問2
1. BはCとの間でA所有の甲土地の売買契約を締結しているところ、かかる契約は他人物売買(561条)に当たる。他人物売買を締結した場合、売り主は「権利を取得して買主に移転する義務を負う」(同条)ところ、本件では、BはCに対して甲土地の所有権を取得したうえでこれをCに移転する債務を負うことになる。
もっとも、本件では、BはAから甲土地所有権を購入することができず、CがAから同土地を購入するに至っていることから、上記債務は「取引上の社会通念に照らして」履行不能(412条の2第1項)となっている。
そして、履行不能の場合には、これによる損害賠償請求(412条の2第2項・415条1項)と解除(542条1項1号)をすることができる。
2. 1200万円の損害賠償請求の可否
⑴ 損害賠償請求の可否
もっとも、債務の不履行が「債務者の責めに帰することができない事由によるものである」場合(415条1項ただし書)には損害賠償請求をすることができない。
本件では、BはCに対して甲土地所有権を取得したうえでこれをCに移転する債務を負っているところ、かかる債務は甲土地所有権を最終的にCのもとに移転するといういわゆる結果債務であると考える。Bが履行不能に陥った原因は、AがBに対して4000万円以下で甲土地を売却するつもりはないとして甲土地所有権を取得できなかったことから、しびれを切らしたCがAから甲土地を直接購入したことによるが、561条からBは代金4000万円であっても甲土地を購入しその所有権を取得すべきであったといえ、Bの履行不能は、「債務者の責めに帰することができない」とはいえない。したがって、CはBに対して損害賠償請求することができる。
⑵ 賠償の範囲
損害賠償の範囲は、「通常生ずべき損害」(416条1項)と「特別の事情によって生じた損害」(同条2項)であるところ、前者は相当因果関係の範囲の通常損害を、後者は予見可能性の認められる特別事情に基づく通常生ずべき損害のことを指すと解する。
Cの主張する損害は、本来2800万円で購入できたのにもかかわらず、4000万円で購入することになり生じることになった差額分1200万円の損害である。たしかに、相場価格とAの提示する価格の差額分の損害がCに生じることはBにとって予見可能であったのだから、特別損害(416条2項)として損害賠償請求できるようにも思える。
しかし、当初のBC間契約では、甲土地の売買価格は3000万円であり、Cはこれに同意していたのであるから、信義則(1条2項)上、契約で合意された3000万円と実際の購入価格である4000万円の差額1000万円についてのみBに請求できると考える。
⑶ 以上より、CはBに対して1000万円の損害賠償請求をすることができる。
3. 解除の可否
債務の不履行が「債権者の責めに帰すべき事由によるものである」(543条)場合には解除をすることができない。
本件履行不能については上記のとおり、Bに帰責事由がないとは言えないものの、履行不能の直接の原因は、CがAから直接甲土地を購入したことで、BがAから甲土地を購入することができなくなった点にある。そのため、本件の履行不能は、「債権者の責めに帰すべき事由による」ものとも思える。
しかし、そもそも、CがAから直接甲土地を購入することとなった要因は、Bが他人物である甲土地についてCと売買契約を締結したが、代金の折り合いがつかず、Aから甲土地を取得できなかった点にある。そのため、Bが自己の帰責事由を棚上げにして、CがAと直接交渉をして甲土地を取得したことについての責任を追及することは信義則に反する。
したがって、Cは本件契約を解除することができる。
以上