10/23/2023
The Law School Times【ロー入試参考答案】
九州大学法科大学院2022年 民法
第1 Xは、Yに対し、所有権に基づく返還請求権としての甲建物明渡請求をする。
1. Xは、3月1日、AからA所有の甲を1000万円で譲り受ける旨の売買契約(民法(以下略)555条)を締結し、甲建物を所有している(206条)。他方、Yは、3月31日、Aとの間で甲賃貸借契約(601条)を締結し、甲の引渡しを受け、占有している。なお、かかる賃貸借契約は、他人物賃貸借であるが有効である(559条・561条)。
2. 対してYは、本件賃貸借契約が甲という建物の賃貸借であり、引渡しも受けているから第三者対抗要件を具備しており、賃借権をXに対抗できる(借地借家法31条)として、明渡しを拒むことが考えられる。
しかし、他人物賃借権は単なる債権であるから、賃借権の対抗要件を具備しているかに関わらず、賃借人は、他人物賃借権を契約当事者ではない所有者に対抗できない。
本件でも、Xは甲賃貸借契約の当事者ではなく、売買契約締結時に甲所有権を取得しているため、YはXに対し賃借権を対抗できない。
よって、上記反論は認められない。
3. 以上より、Xの上記明渡請求は認められる。
第2 Xは、Yに対し、甲の客観的使用価値すなわち平均的賃料相当額について、不当利得返還請求をすることができるか。
1. 確かに、YはAに4月分〜9月分までの賃料計30万円を支払っている。そのため、Yに利得がないとも思える。しかし、支払った賃料に関する問題は、賃貸人と賃借人との間で処理されるべきであり、所有者にその問題を負担させるべきでない。そこで、所有者は、賃借人が悪意であれば190条1項類推適用により平均的賃料相当額の全額を請求できるが、賃借人が善意であれば189条1項類推適用によりかかる請求はできないと解するべきである。
2. 本件では、賃借人Yは、AX間の契約について知らないまま甲を借り受けており、善意である。
よって、189条1項類推適用により、XはYに対して賃料相当額30万円の支払いを請求できない。
3. 以上より、Xの上記請求は認められない。
第3 Xは、賃貸人たる地位の移転(605条の2第1項・3項)を受けたとして、Yに対し10月分の賃料支払請求をすることが考えられる。
1. しかし、AX間でAY間賃貸借契約に関しての特段の合意はなく、合意による賃貸人たる地位の移転はない(605条の3前段)。
また、605条の2第1項は、「賃貸借の対抗要件を備えた場合において、その不動産が譲渡されたとき」、すなわち賃貸借の対抗要件を具備した後にその不動産が譲渡された場合について規定している。そのため、売買契約締結後に賃貸借契約が締結され場合に同条は適用されない。
本件ではAX間で売買契約締結後にAY間賃貸借契約が締結され、借地借家法31条の対抗要件を具備しているため、605条の2第1項にいう賃貸人たる地位の移転があるとはいえない。
2. 加えて、前述のXのYに対する返還請求がなされた時点で、AがYに甲を使用・収益させる義務は履行不能(412条の2第1項)となっており、AY間賃貸借契約は終了している(616条の2)。
3. 以上より、Xの上記請求は認められない。
第4 Yは、Xに対し、敷金10万円の返還請求(622条の2第1項1号・605条の2第4項)をすることが考えられる。
しかし、前述の通り、賃貸人たる地位の移転はないから、Xは賃貸人ではなく、上記請求は認められない。
以上