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2025年 刑法 神戸大学大学法科大学院【ロー入試参考答案】
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2025年 刑法 神戸大学大学法科大学院【ロー入試参考答案】

3/23/2025

第2問設問1

1. 第1行為につき、殺人罪(199条)が成立しないか。

⑴まず、頸部を絞扼するという行為は、窒息死をもたらす現実的危険性を有する行為であるから、上記行為は同罪の実行行為と言える。また、乙が死亡するという結果が生じている。

ア もっとも、第1行為と死亡結果との間に第2行為が介在しているため、因果関係が認められないのではないか。因果関係の判断基準が問題となる。

イ そもそも因果関係は、偶発的な結果を排除し適正な帰責範囲を確定するものである。そこで、因果関係は、条件関係の存在を前提として、介在事情の異常性、介在事情の結果への因果的寄与度を考慮し、行為の危険性が結果へと現実化した場合に認められると解する。

ウ 本件において、第1行為がなければ結果が発生していなかったと考えられるから条件関係が認められる。また、確かに介在事情が直接的な死因となっており、介在事情の結果への因果的寄与度は高いと言えるものの、人を殺そうとした者が被害者の死体を遺棄することは、犯行隠蔽のためによく用いられる手段であり、異常性は低い。そのため、第1行為の危険性が第2行為という介在事情を経由して、乙の死亡結果へと現実化したとして、因果関係が認められる。

⑵次に、第1行為により乙が死亡するという甲の認識と、第2行為により乙が死亡するという実際の因果経過との間に齟齬が生じているため、同罪の故意(38条1項本文)が認められないのではないか。因果関係の錯誤の処理が問題となる。
 そもそも、故意責任の本質は、反規範的人格態度に対する道義的非難であり、規範は国民に構成要件の形で与えられている。そこで、主観と客観とで同一構成要件内の因果関係の点で符合する限り、規範に直面し得たといえ、故意が阻却されないと考える。
 まず甲の主観において、第1行為の有する窒息死の危険が乙の死亡結果へと現実化しているから、結果との因果関係が認められる。さらに、上述の通り、客観において同罪の因果関係が認められるから、主観と客観とで同一構成要件内の因果関係の点で符合する。 
 したがって、故意は阻却されない。

⑶よって、上記行為に殺人罪が成立する。

2. 次に第2行為に犯罪が成立しないか。

⑴まず、甲は、第2行為によって乙を死亡させているから、殺人罪の客観的構成要件が充足されている。しかし、甲には乙に対する殺意がなかった以上同罪は成立し得ない。

⑵もっとも、甲には第2行為の時点で死体遺棄罪(190条)の故意があったのだから、その範囲で客観的構成要件を充足し、犯罪が成立しないかが問題となる。
 そもそも、法益保護の観点から、客観的構成要件は実質的に考えるべきである。そして、構成要件が法益侵害行為の類型であるから、行為者の認識と現に発生した犯罪との間に保護法益と行為態様の観点から重なり合いが認められる場合には、その範囲で客観的構成要件が満たされると考える。
 本件において、甲の認識である死体遺棄罪は「死体」を遺棄するもので、客観的構成要件を充足している殺人罪は生きている人間を殺すというものである点で、行為態様が異なるし、国民の宗教感情を保護法益とする死体遺棄罪に対し、殺人罪は個人の生命を保護法益とし、両者は大きく異なる。したがって、甲の認識と現に発生した犯罪との間に保護法益と行為態様の観点から重なり合いが認められないため、死体遺棄罪の客観的構成要件を満たさない。

⑶ よって、同罪は成立しない。

3. もっとも、乙を死体と誤信した点に「過失」が認められるから、第2行為に過失致死罪(210条)が成立する.

4. 以上より、殺人罪及び過失致死罪が成立するものの、両者は保護法益が同一で、死の二重評価を避けるため、後者は前者に吸収され包括一罪となり、甲はかかる罪責を負う。

第2問設問2

1. そもそも、私文書偽造罪(159条1項)の「偽造」とは、文書の名義人と作成者の人格の同一性を偽ることをいう。当該裁判例において、文書から一般人が認識するその意思の主体である名義人は、乙であることに問題はない。

2. 他方、作成者については甲と乙のどちらになるのかが問題となった。すなわち、作成者とは、文章の内容を表示させた主体を言い、名義人の承諾がある場合には、その名義人が作成者になるのが原則であるから、ここでは、乙が作成者となるのが原則である。しかし、当該裁判例は、文章の性質上、名義人自身の手によって作成されることが要求される文書については、名義人の承諾は無効であり、物理的に文書を作成したものが作成者となるという論理を用い、私文書偽造罪が成立すると判断した。具体的には、入学試験の試験答案は、その性質上、名義人自身の手によって作成されることが要求されるとして、乙の承諾は無効となり、作成者が甲となる結果、文書の名義人と作成者の人格の同一性を偽ったとして「偽造」にあたり、私文書偽造罪が成立すると判断した。

第3問設問1

1. AがCに対して、自転車に試乗したい旨を述べ、自転車に乗ったまま逃走した行為について、窃盗罪(235条)及び詐欺罪(246条1項)のどちらが成立するかが問題となる。そこで、かかる行為が「欺」く行為にあたるかを先行して検討する。

2. 「欺」く行為とは、交付行為に向けられた交付の判断の基礎となる重要な事項を偽る行為をいうところ、交付行為は交付意思に基づくものであると言える必要があり、そのためには、相手方に、瑕疵ある意思に基づき占有の終局的処分を客観的に認識させ得る行為であることを要する。
 本件において、確かに、自転車の試乗の許可によって、試乗者がスーパーの敷地外に逃走し、占有の終局的移転が認識され得るとも思える。しかし、自転車は自動車等に比べ、移動性は高くなく、試乗はあくまでもCの監視下にあるスーパーの駐車場内に限られていたため、上記行為は敷地外への逃走をすることによってスーパーBの支配領域を脱することを認識させるに足るものとは言えない。そのため、上記行為は、Cに、瑕疵ある意思に基づき占有の終局的処分を認識させ得る行為とは言えず、「欺」く行為に当たらない。
 よって詐欺罪は成立し得ない。

3. 他方、上記行為は、「他人の財物」たるスーパーBの自転車を占有者の意思に反して、自己の占有下に移す「窃取」に当たる。また、故意及び不法領得の意思も認められるため、上記行為は窃盗罪(235条)の構成要件を充足する。

4. しかし、Aは13歳であり、「十四歳に満たない者」(41条)であるから、責任無能力であり、上記行為に同罪は成立しない。

第3問設問2

1. 甲がAに対して、自転車の試乗をしたまま逃走するよう述べた行為について、窃盗罪の間接正犯が成立しないか。

⑴この点、間接正犯が成立するには、正犯意思及び被利用者を道具として一方的に支配・利用したことが必要である。
 確かに、Aは13歳であるため刑事未成年(41条)として、成人に比べ意思が抑圧されやすいし、母親である甲の言われた通りにする可能性が高い。しかし、Aには意思能力(民法2条3項)があった考えられるし、Aはもともと自転車が欲しいがために上記行為に出ている。さらに、甲がAに対し、今日は犯行をやめるよう伝えた後も、自転車の欲しさから、Cの隙を見て犯行に及んでることから、臨機応変に行動していることがわかる。そのため、甲は、Aを道具として一方的に支配・利用したとは言えない。

⑵したがって、上記行為に窃盗罪の間接正犯は成立しない。

2. 次に、甲に上記窃盗罪について、共同正犯(60条)が認められないか、甲は実行行為をになっていないことから共謀共同正犯が認められないか問題となる。

⑴共同正犯の一部行為全部責任の根拠は相互利用補充関係に基づき特定の犯罪を実現したことにあるのだから、共同正犯の成立には、①共謀、②正犯性、③共謀に基づく実行行為が必要である。

⑵本件において、甲はAに対し、自転車に試乗した後、隙を見て逃げることを指示しているのだから、窃盗罪についての共謀が認められる。

⑶確かに甲はAが盗んだ自転車を使用するわけではないから、領得した財物によって直接利益を得るわけではないが、領得行為によって甲はAに自転車を買い与えなくて済むのであるから、間接的に利益を享受している。また、甲は自ら能動的に上記指示を行っているのであるから、正犯意思は認められる。
 また、甲はAとの親子関係を利用して、一方的に犯行方法を指示し、Aはその指示に沿った犯行を行っている。上記のようなAの窃取行為は犯行態様として特殊なものではないが、Aが当時13歳であったことを踏まえるとAの犯行に甲の助言は必要不可欠であったといえ、甲は上記行為によってAの犯罪に重大な寄与を与えた。したがって、正犯性は認められる。

⑷Aは甲の指示に沿った犯行を行ったのだから、共謀に基づく実行行為も認められ、甲には上記窃盗罪の共同正犯が成立する。

3. もっとも、甲はAに対して「今日は止めて帰りな。」と、犯行の中止を指示しているため、共同正犯からの離脱が認められ、これ以後の結果について犯罪の責任を負わないのではないか。
 共同正犯の成立根拠は上記のとおりであるから、共同正犯からの離脱には、離脱前の行為による心理的因果性及び物理的因果性が排除される必要がある。
 本件において、甲はAに犯行を指示したに止まり、物理的因果性はない。しかし、親子関係にあった甲のAに対する指示は犯罪の実行に対して心理的因果性を強く有しており、これを遮断するためには、甲は少なくともAを連れ出すこと等によって犯罪の実行を阻止するべきであったが、甲はこれを行っておらず、心理的因果性は残存している。
 よって上記行為によっても、甲の共同正犯からの離脱は認められない。 

4. もっとも、Aは刑事未成年であるから、Aとの関係で犯罪は成立しないところ、かかる場合も甲に窃盗罪の共同正犯は成立するか。要素従属性が問題となる。
 この点、60条の「実行した」と言う文言、及び違法は連帯的に、責任は個別的に作用することから、共同正犯が成立し、可罰性を有するためには、実行行為が構成要件に該当し、違法であることを要し、かつそれで足りると解する(制限従属性説)。
 刑事未成年であることは責任阻却事由であり、Aの上記窃盗行為は構成要件に該当し、違法である。そのため、この場合、甲に窃盗罪の共同正犯が成立する。

5. よって、上記行為に窃盗罪の共同正犯1罪が成立し、甲はかかる罪責を負う。

      以上


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