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2022年 民法 早稲田大学法科大学院【ロー入試参考答案】
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2022年 民法 早稲田大学法科大学院【ロー入試参考答案】

3/31/2024

The Law School Times【ロー入試参考答案】

早稲田大学法科大学院2022年 民法

問題1

設問1

1. AのCに対する保証契約に基づく保証債務履行請求は認められるか。

2. かかる請求の要件は、①主債務の発生、②保証契約の締結、③②が書面でなされたことである(民法[法令名以下略]446条1項、2項)。
 本件をみるに、BはAの元へ融資金額を300万円と記載した融資契約書用紙を持参して消費貸借契約の申込みをしており、これに対してAは承諾しているから消費貸借契約が締結されたといえ、主債務たる300万円の貸金返還債務が発生している(①充足)。また、保証契約について、Cは融資契約書用紙の保証人欄に住所を記入し署名しているため、保証契約の締結は書面でなされているといえる(③充足)。

3. もっとも、②の保証契約の締結について、Cは、融資金額は200万円とBから聞かされて200万円の保証だと思って保証人欄に署名したが、Bが無断で融資契約書用紙に融資金額を300万円と記載している。では、本件において300万円の保証契約が有効に成立したといえるのか。
 この点、そもそも、本件の保証債務履行請求の根拠である保証契約は、AC間で締結される契約である。しかし、CはBを介してAと契約を締結しているため、AC間の契約に、Bがどのように関わっていると構成すべきかが問題となる。

4.

 ⑴ まず、BはCから融資金額200万円の貸金債務の保証契約の締結について代理権を授与された代理人(99条1項)であると構成することが考えられる。

 ⑵ まずこの構成では、Bが融資金額を300万円とする貸金債務について保証契約を締結したことは、授与された代理権の権限外の行為であるため、原則として無権代理行為(113条1項)となり、Cが追認しない限りAはCに対し保証債務の履行請求ができない。

 ⑶ もっとも、Aは表見代理(110条)が成立する旨の反論をすることが考えられる。かかる要件は、①基本代理権の存在、②代理人の行為が権限内の行為であると信じたことについて正当な理由があること、すなわち善意無過失であることである。
   本件をみるに、前述の通りCはBに200万円の貸金債務についての保証契約締結の代理権を授与しているため、基本代理権があるといえる(①充足)。融資契約書用紙にはCの筆跡でCの住所と署名がなされていたのであり、Aが、CがBから融資金額は200万円であると聞かされていたことや、融資契約書用紙の融資金額の記載はBが勝手にCの署名後に書いたものであることを知らなければ、AはBの保証契約の締結が代理権の範囲内の行為であることにつき善意であるといえる。また、これについてAに過失がなければ②の要件を充足し、Aの主張は認められる。
   以上より、かかる構成ではAが、Bが権限外の保証契約を締結したことにつき善意無過失であれば、AはCに対して300万円の保証債務履行請求ができる。

5.

 ⑴ 次に、Cが融資契約書用紙へ署名をしたこと自体を保証契約締結の意思表示であるととらえ、Bはその意思表示をAの元へ到達させた使者にすぎないと構成することが考えられる。

 ⑵ この構成においては、CはAの請求に対し、錯誤取消し(95条1項1号)を主張することが考えられる。その要件は、①表意者が意思表示の内容に対応する意思を有しなかったこと、②表意者がそのことを知らずに意思表示をしたこと、③その錯誤が法律行為の目的および取引上の社会通念に照らして重要なものであることである。
   本件をみるに、CはBから保証債務の金額は200万円であると聞かされて、200万円の保証契約を締結するつもりで署名をしたが、Bが契約書に無断で300万円と融資契約書用紙に記入したために300万円の保証契約締結の意思表示となってしまったものであって、200万円部分については意思表示の内容に対応する意思があったといえるが、それを超える部分については意思表示の内容に対応する意思をCは有していなかったといえる(①充足)。そして、CはBが300万円と記入したことを知らなかった(②充足)。さらに、保証契約において主債務の金額というのは自らが支払いを負担する可能性のある金額であり非常に重要な要素といえる。また、C自身も200万円だから保証契約を締結したのであって、300万円の保証契約は締結しなかったといえるため、主観的にも重要なものであるといえる。よって、本件Cの錯誤は法律行為の目的および取引上の社会通念に照らして重要なものといえる(③充足)。
   したがって、本件保証契約のうち、200万円を超える部分については意思表示に対応する意思がなかったとして錯誤取消しをすることができる。

 ⑶ なお、Cの取消に対しては、Aは錯誤に重大な過失があったことを主張立証すればCの取消しは認められない(95条3項)。

6. 以上より、Aの保証債務履行請求に対しCとしてはBを代理人として無権代理を主張するか、Bを使者として錯誤を主張することが考えられる。そして、無権代理の場合は、AがBに代理権があると信じるについて正当な理由がある場合には表見代理が成立しAはCに保証債務の履行請求ができることになり、錯誤の場合はCに重過失がある場合に限り、AはCに履行請求ができることになる。また、錯誤の場合には、錯誤がある部分、すなわち、200万円を超える債務を保証する部分についてのみ取消が認められ、保証債務を200万円の貸金債務とする部分については有効に保証契約が成立し、Aの請求は200万円の範囲で認められる。

設問2

 上記AC間の保証契約の主たる債務たるBの貸金債務が事業のためのものであった場合、当該保証契約は有効か。
 この点、事業のために負担した貸金債務等を主たる債務とする保証契約は「その締結の日前一箇月以内に作成された公正証書で保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思表示をしていなければ、その効力を生じない」(465条の5第1項)。
 本件において、この公正証書による意思表示はないため無効であって、AのCに対する保証債務履行請求は認められない。

問題2

設問1

1. 小問(1)

 ⑴ BのDに対する不法行為に基づく損害賠償請求(709条、710条)は認められるか。
   その要件は、①「故意又は過失」、②「他人の権利又は法律上保護される利益」の侵害、③「損害」の発生、④①と③の相当因果関係(「よって」)である。
   そして、夫婦の一方の配偶者と肉体関係をもった第三者は、故意または過失がある限り、右配偶者を誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか、両名の関係が自然の愛情によって生じたかどうかにかかわらず、他方の配偶者の夫または妻の婚姻共同生活の平和の維持という権利を侵害し、その行為は違法性を帯び、他方の配偶者の被った精神上の苦痛を慰謝すべき義務があると解する。

 ⑵ もっとも、夫婦の一方が第三者と肉体関係を持った場合であっても、婚姻関係がその当時すでに破綻していたときは、婚姻共同生活の平和の維持という権利があったとはいえないから、第三者は不法行為責任を負わないと解する。
   本件において、DはBの配偶者であるAと不倫関係にあり、A・Bの良好な夫婦関係を悪化させていることから、婚姻共同生活の平和の維持という権利を侵害しているといえる(②充足)。たしかにDはAからBと離婚調停手続中であって夫婦関係は破綻していると言われていたことから故意ではないとはいえる。しかし、Dは、それを実際に確認しているわけではなく、Aが一方的に言っていることを信じたにすぎないから、少なくとも過失があったといえる(①充足)。

 ⑶ そして、DはBに不貞行為によって精神的苦痛を生じさせているから慰謝料が損害として認められる(③充足)。また、精神的苦痛は不貞行為によって通常生ずべき損害といえ相当因果関係も認められる(④充足)。
   したがって、BのDに対する不法行為に基づく損害賠償請求は認められる。

2. 小問(2)

 ⑴ DはAに対して、AはDと共同不法行為者(719条1項前段)であるとして、求償権を行使し、Aに支払った賠償金を負担するよう求めることができるか。

 ⑵ まず、AとDは共同不法行為者といえるか。
   共同不法行為であるといえるためには、各人の行為がそれぞれ不法行為の要件を満たし、かつ各人の行為に客観的関連共同性が認められる必要がある。
   これをみるに、Aは自身には妻がおり、第三者と不貞行為を働けば妻Bの法的利益を侵害することを認識しながらDと不倫関係に至っており、故意をもってBの法的利益を侵害し、精神的苦痛による損害を発生させたといえる。また、AとDは不倫関係に至ったことでBに精神的苦痛を生じさせたのであるから、Aの行為とDの行為は客観的に見て一体のものといえるため、Aの行為とDの行為との間には関連共同性も認められる。また、不倫関係にあったことと精神的苦痛との間には相当因果関係が認められる。
   したがって、DとAは共同不法行為者であるといえる。

 ⑶ そして、共同不法行為における連帯債務は不真正連帯債務であって、連帯債務(442条)の規定は適用されず、703条に基づいて自己の負担額を超えて弁済した場合にのみ求償をすることができると解する。なお、この負担割合は各自の過失割合によって決まると解する。
   本件をみるに、Aは配偶者の一方であってBの利益を侵害することについて故意であるし、AはDに虚偽の事実を告げDを騙して不貞関係に至っている。そのため、AはDよりも過失割合は大きいといえるので、Aの負担割合はDに比べると高いといえる。そして、DがBに対して弁済した額がその負担割合を超えている場合には、DはAに対して703条に基づいて求償権を行使することができる。

 ⑷ 以上より、Dは、Aに対して自己の負担部分を超えて弁済した分につき求償請求ができる。

設問2

1. AのBに対する財産分与の錯誤取消しによる原状回復請求(95条1項2号、2項、121条、121条の2第1項)としての甲土地返還請求は認められるか。

2. そもそも、錯誤取消しは認められるのか。その要件は、①表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反すること、②意思表示がその錯誤に基づくものであること、③①の事情が法律行為の基礎とされていたことが表示されていたこと、④①の錯誤の事情が法律行為の目的および取引上の社会通念に照らして重要なものであることである。なお、③について、基礎事情の誤りによる不利益は本来、表意者が負担すべきものである。ところが、基礎事情の錯誤による意思表示の取消しを認めることは、その不利益を相手方に引き受けさせることを意味する。そのため、意思表示の取消しを認めるためには相手方にその不利益負担の根拠がなければならないから、表意者の一方的な基礎事情の表示だけでは足りず、基礎事情が法律行為の内容となったこと、すなわち、その基礎事情がなければその内容でその法律行為がなされないことについて相手方の了承があったことが必要であると解する。なお、この了承は黙示によるものでもよい。
 本件において、税金の負担についてA・B間で話題になることはなかったし、税金の課税方法は法律によって定められているものであるからAは自身で調べればどちらに課税がされるかは簡単に分かるものであるから、BとしてもAはその点について当然に認識していたと考えていたと思われるため、税金の負担がBであるとAが思っていたことについて、それが財産分与の基礎事情になっていたことをBが了承していたとはいえない(③不充足)。
 したがって、錯誤取消しは認められず、Aの甲土地返還請求も認められない。

設問3

1. 小問(1)

 Eのために設定された一番抵当権の設定契約は有効か。BはCの親権者であるが、自身の借受金返還債務を担保するために、Cの法定代理人としてEのために第一抵当権の設定契約を締結しているため、この行為が利益相反行為(826条)であって、特別代理人を選任せずになされた当該契約は無権代理行為であって無効であるのではないかが問題となる。
 この点、利益相反の判断に際しては、取引安全の保護の観点から親権者が子を代理してなした行為自体を外形的客観的に考察して判定すべきであると解する。
 本件において、Bは自身がEに対して有する借受金返還債務を担保するために子Cの所有する甲土地に抵当権を設定しているのであるから、行為の外形上親たるBと子Cの利益とが相反しているといえる。
 したがって、利益相反行為にあたり、Bの行為は無権代理行為として無効である。

2. 小問(2)

 Hのためになされた二番抵当権の設定契約は有効か。ここでも、まず設定契約が利益相反行為に当たらないかが問題になる。
 本件において、Eは友人であるGのHに対する債務を担保するためにCの法定代理人として二番抵当権を設定したのであって、外形上は、Eは契約の当事者として一切関係していないのであるから利益が相反しているとはいえない。
 したがって、利益相反行為にはあたらない。
 もっとも、この設定契約が代理権の濫用(107条)にあたり、無権代理行為とみなされ無効ではないかが問題となる。
 この点、親権者は原則としてこの財産上の地位に変動を及ぼす一切の法律行為につき子を代理する権限を有し(824条)、その親権の行使は親権者の広範な裁量に委ねられているところ、親権者が子の利益を無視して自己又は第三者の利益を図ることのみを目的としてされるなど、親権者に子を代理する権限を授与した方の趣旨に著しく反すると認められる特段の事情が存在しない限り、親権者による代理権の濫用にはあたらないと解する。
 本件において、Hのために抵当権を設定したことについて、Gの債務の担保であってCに経済的利益をもたらすものではないし、GはBの友人であるにすぎず、Cとは何の関係もない人物である。そのような人物の債務を保証するために抵当権を設定することはCにとっては一切の利益はなく、Gが債務を弁済しない場合に乙土地を失うリスクを背負わせるのみである。
 したがって、これは子の利益を無視して専ら第三者の利益を図ることのみを目的としてなされたといえ、代理権の濫用にあたる特段の事情が認められる。
 よって、抵当権設定行為は無権代理行為とみなされ無効である。

以上

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