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2022年 刑事系 東京大学法科大学院【ロー入試参考答案】
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2022年 刑事系 東京大学法科大学院【ロー入試参考答案】

11/30/2023

The Law School Times【ロー入試参考答案】

東京大学法科大学院2022年 刑事系

問題1

1. X及び Y が共同してAに電話をかけ現金100万円の入った封筒を交付させた行為

 ⑴ 上記行為についてX、Yに詐欺罪の共同正犯(刑法60条、同法246条1項。以下当該法令名は省略する。)が成立するか。

  ア 「人を欺」く行為とは、交付の判断の基礎となる重要な事項を偽る行為をいう。
    これをみるに、X及びYは、Aに対し、それぞれ県庁及び保健所の職員を名乗りワクチン接種について虚偽の説明をしている。Aが、X及びYがそれぞれ県庁及び保健所の職員ではなく、ワクチンに不備がないことを知っていれば、Zに現金が入った封筒を交付しなかったといえるため、X及びYがそれぞれ県庁及び保健所の職員であること、ワクチンに不備があることは交付の判断の基礎となる重要な事項といえる。そして、X及びYはこれらの事項について虚偽の説明をしているため、X及びYは、交付の判断の基礎となる重要な事項を偽る行為をしたといえる。
     したがって、「人を欺」く行為が認められる。

  イ そして、上記欺罔行為によりAは錯誤に陥り、それによってAはZに現金100万円が入った封筒を「交付」している。

 ⑵ したがって、X及びYに詐欺罪の共同正犯(60条、246条1項)が成立する。なお、これは後述のように、Zとの関係でも詐欺罪の共同正犯が成立する。

2. ZがAから現金100万円が入った封筒を受け取った行為

 ⑴ 上記行為に詐欺罪の共同正犯(60条、246条1項)が成立するか。ZはX及びYによる欺罔行為後に受け子として上記行為を行っているため、X及びYによる詐欺罪の共同正犯に共同正犯として承継的に加担したといえるかが問題となる。

 ⑵ 共犯の処罰根拠は、自己の行為が何らかの形で、結果に対して因果性を与えた点に求められる。そうだとすれば、すでに発生してしまった結果に対して因果性を遡り、処罰を肯定することはできない。
   もっとも、構成要件上一連の複数の行為が予定され、両行為が不可分一体の関係にある場合には、これを切り離して評価するのは不自然であるから、先行行為の効果を利用して後行行為を行った者も先行行為を含めた罪責が問われると考える。
   この点、詐欺罪は、欺罔行為を手段として、錯誤に陥った被害者方財物の交付を受け、それを受領することによって財物の占有を移転する犯罪であるから、手段としての欺罔行為と占有移転を完成させる行為としての受領行為が不可分一体の関係にあるといえる。
   そして、本件では、Xが、Zに対し、受け子のバイトであることを明かしたうえで、A宅で封筒を受け取りXの下に運んでもらいたいこと、封筒を受け取る代わりにバイト代1万円を手渡すことを伝えたところ、Zはこれを了承しているため、XZには、詐欺罪の実現についての意思連絡がある。また、Zは、1万円という報酬を得る目的で受領行為という詐欺罪の実現において重要な行為を行っているから、正犯意思も認められる。
   したがって、欺罔行為後に受け子として参加したZについても詐欺罪の共同正犯が成立する。

 ⑶ 以上より、Zは欺罔行為後に受領行為についてのみ加担しているものの、先行する欺罔行為まで含めて、詐欺罪の共同正犯(60条、246条1項)が成立する。

3. ZがXに電話をかけ、虚偽の事実を一方的に告げて帰宅しようとした行為

 ⑴ 上記行為に横領罪(252条1項)が成立するか。

 ⑵

  ア 横領罪が成立するためには、「自己の占有する他人の物」を「横領した」ことが必要である。

  イ 横領罪は委託信任関係に違背して自己の管理支配下にある財物を領得する罪であるから、ここでいう「占有」とは、濫用のおそれのある支配力、すなわち、行為者が、所有者の委託に基づいて財物を事実上又は法律上管理支配している状態をいうと解する。
    本件では、ZはAから受け取った封筒をXの下に運ぶことについて了承しており、Xの委託に基づいて現金が入った封筒を事実上管理支配しているといえる。なお、詐取した財物に関する委託信任関係は刑法上保護に値しないとも思えるが、窃盗罪の保護法益に占有を含むとする立場から窃盗犯人の盗品に対する違法な占有を保護するのであれば、詐取された財物の違法な委託をも同様に保護すべきであるから、委託関係は正当な権限のある者からの適法な委託であることまでは不要である。
    そして、封筒はAの所有物であるから「他人の者」といえる。
    したがって、封筒は「自己の占有する他人の物」にあたる。

  ウ 次に、横領罪は領得罪であり、利欲犯としての罪質を有することから、「横領」とは、委託の任務に背いて所有者でなければできないような処分をする意思、すなわち、不法領得意思の外部的な発現行為をいうと解する。
    これをみるに、Zは、封筒を自分のものにするため、Xの下に封筒を運ぶという委託の任務に背いて、Xに電話をかけて虚偽の事実を一方的に告げ帰ろうとしており、不法領得意思の外部的発現行為があるといえる。したがって、「横領」したといえる。

 ⑶ また、Zの行為態様から、故意も認められる。

 ⑷ 以上より、Zの上記行為に横領罪が成立する。

4. YがZの顔面を殴り、Zから封筒を奪った行為

 ⑴ 上記行為に強盗罪(236条1項)が成立するか。

 ⑵ 「暴行又は脅迫」とは、相手方の反抗を抑圧するに足りる程度の不法な有形力の行使又は害悪の告知をいう。本件では、Yは、いきなりZの顔面を殴って気絶させており、かかる行為は相手方の反抗を抑圧するに足りる不法な有形力の行使といえる。

 ⑶ そして、「強取」とは、「暴行又は脅迫」を手段として、相手方の意思によらずに財物の事実上の占有を自己が取得し、又は第三者に取得させることをいう。
   本件では、YはZを殴打してZを気絶させた後、Zから封を奪っていることから、封筒の占有を自己が取得したといえ、「強取」が認められる。

 ⑷ なお、詐取した財物についてのZの占有は刑法上保護に値せず、封筒は「他人の財物」に当たらないとも思えるが、窃盗罪の保護法益に占有を含むとする立場から窃盗犯人の盗品に対する違法な占有を保護するのであれば、詐取された財物の違法な占有をも同様に保護すべきであるため、封筒は「他人の財物」であるというべきである。

 ⑸ また、Yの行為態様から、故意及び不法領得の意思も認められる。

 ⑹ したがって、Yの上記行為に強盗罪が成立する。

5. XがYに指示を出してZを監視させた行為

 ⑴ 上記行為に、強盗罪の共同正犯(60条、236条1項)が成立するか。

 ⑵ 「共同して犯罪を実行した」(60 条)といえるには、犯罪が共謀に基づいて実行されたことを要する。そして、XとYには、上述のAに対する詐欺について共謀が認められるところ、Yの強盗行為は、上記共謀に基づくものといえるか。

 ⑶ これをみるに、XとYは、受け子を用いて詐欺を行うことについて共謀を行っており、XはYに受け子であるZの監視を指示していたことから、X、Yの間ではZがX、Yを裏切ることも想定されていたといえる。そして、Yによる強盗行為は、Aに対する詐欺によって得られるはずであった金銭をZから奪い返すものであるという点で、詐欺行為と同一の目的の下で行われており、いわばその派生としてなされた行為といえる。
   したがって、Yによる強盗行為は前記共謀に基づくものといえる。もっとも、Xは、Yがそのような乱暴な行為に出ることは全く想定していなかった。そのため、Xには、強盗の故意が認められないため、Xに強盗罪の共同正犯は認められない。

 ⑷ したがって、Xの上記行為に強盗罪の共同正犯は成立しない。

6. 罪数

以上より、Xには、詐欺罪の共同正犯が成立する。そして、Yには、詐欺罪の共同正犯と強盗罪の単独正犯が成立し、両者は併合罪となる(45条前段)。また、Zには、詐欺罪の共同正犯と横領罪の単独正犯が成立し、両者は併合罪となる(45条前段)。

問題2

1. 本件取調べは、実質的逮捕を用いた取調べとして違法ではないか。本件取調べが実質的逮捕を用いた取調べに当たる場合には、令状なく逮捕が行われたことになり令状主義(憲法35条)に反し違法となるので問題となる。

 ⑴ 逮捕とは、被疑者の身体の自由をはく奪し、引き続き短時間拘束の状態を続ける強制. 処分をいう。そして、実質的逮捕が用いられたかどうかは、同行を求めた時刻·場所、同行の方法·態様、同行後の取調べ時間·方法等を総合的に考慮して判断すべきである。

 ⑵ これを本件についてみる。本件では、午後3時頃にWからの通報を受けて駆けつけたKは、暴行事件の被害者として「既に行われた犯罪について」「知っていると認められる者」(警察官職務執行法2条1項)にあたるZに対して、被害状況を聴取するために、同条2項に基づき、甲警察署に同行することを求めたところ、Zはこれに同意して本件取調べを受けている。そうすると、同行を求めた時間帯は昼間であり、同行を求めた場所は公道上であるため、任意同行自体はZの意思に反するとまでは評価し難い。しかし、取調室にはKのほかに警察官1名が配置され、途中2時間ごとに10分程度の休憩時間が設けられたものの、休憩時間を含め立会人が常にZを監視し、Zがトイレに行くときにも、トイレの中まで立会人が同行しており、監視の度合いが強く、身体の自由に対する制約の程度は強い。また、午後7時ごろに、Zはもう夜なので帰らせてほしいと言って立ち上がったところ、直ぐに立会人に肩を掴まれて椅子に座らされている。そうすると、少なくともZが午後7時頃に帰宅の意思を示した時点においては、本件取調べは対象者の意思に反して、身体の自由という重要な権利利益を実質的に制約するものといえる。

 ⑶ したがって、本件取調べは実質的逮捕を用いた取調べに該当し、強制手段を用いたものといえるため、令状主義違反として違法となる。

2. 次に、Zに黙秘権が告知されていないことは、223条1項に反し違法ではないか。

 ⑴ 223条1項は、「被疑者以外の者」、すなわち参考人を取り調べることを認めている。参考人取調べは、223条2項により、被疑者取調べに準じて行われるものの、取調べに際しあらかじめ被疑者に黙秘権を告知することを捜査官に義務付けた198条2項を準用していない。したがって、参考人取調べに際しては黙秘権の告知は不要である。

 ⑵ では、当初参考人として取調べをはじめたものの、その後に嫌疑が生じ被疑者として取り調べる場合に、黙秘権告知の要否をどのように考えるべきか。
   223条2項が198条2項を準用しない趣旨は、参考人取調べは他人の犯罪に関して行われるものであり、参考人は取調べ対象である犯罪の嫌疑を受けていないため、供述が参考人の不利益となるおそれが低いからである。もっとも、被疑者と参考人の区別は流動的な場合が多い。また、黙秘権の告知は、被疑者に認められた憲法38条に由来する重要な権利であるためその保障の徹底を図る必要がある。そのため、捜査機関が参考人の取り調べに際してこれを被疑者であると思料したときには、その時点から198条の被疑者取調べの手続をとり、黙秘権の告知を行うべきである。

 ⑶ これをみるに本件では、上述のように、Zは当初、暴行事件の被害者として被害状況を聴取するため、「被疑者以外の者」(223条1項)、すなわち参考人として本件取調べを受けているため、この時点では黙秘権の告知は不要である。しかし、Kは、午後5時以降、Zの要領を得ない供述及びAの被害届という捜査状況に照らして、ZがAから受け取った封筒を何者かに奪われたのであろうと考え、Zを詐欺事件の被疑者と思料していた。そうすると、少なくとも午後5時以降の取調べの時点で、黙秘権を告知すべきであったのにもかかわらず、取調べの開始からZが自白するまで、Zに黙秘権が告知されたことはなかった。

 ⑷ したがって、黙秘権を告知せずになされた本件取調べは違法である。

以上 

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